〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<13>
 ジェネシス
 

 

 

 ……結果的に、不器用なチョコボの雛が泳げるようになったのは、俺やセフィロスにとって、『有利』に働く事由になったらしい。

 この一件以来、クラウド少年は、大分俺に対しての警戒を解いてくれたようだった。

 ザックス曰く、チョコボっ子は、「身内」と「身外」を、厳然と分けるタイプなのだそうだ。

 身内には素直に甘えたり、時にはワガママを口にしたりできるが、「外」である相手には、生来の引っ込み思案気質を存分に発揮し、おしゃべりをすることすら緊張してしまうらしい。

 当然、俺などは、まだまだ「身外」なのだろうが、ザックスやセフィロスとのつながりも手伝って、徐々にうち解けつつあった。それが今回の一件で、一挙に距離が縮まったらしい。

 いつもなら、俺の前では、何を話せばいいのかと思案顔で、もじもじとしているのだが、最近は可愛らしい笑顔を見せてくれる。

 俺とチョコボっ子が対面するときは、大抵セフィロスが一緒だから、愛らしい彼に話しかける前に、セフィロスがさらっていってしまうのが物足りないが、あくまでも俺はセフィロスの協力者というポジションなのだ。当面の所は致し方がない。

 だが、今日は直接、クラウドに用事があった。

 

「やぁ、チョコボっ子。ご機嫌いかが?」

 今日は土曜日で、明日は休日だ。

 チョコボっ子たち修習生も、今日の研修は昼までで、今は思い思いの時間を過ごしている。

 俺が彼を捕まえたのは、ちょうど図書館から出てきたところであった。本を持っていない様子なので、きっと返却に立ち寄ったのだろう。

「あ、ジェネシスさん! こんにちわ。この前はどうもありがとうございました!」

 一息でそういうと、チョコボっ子はペコンと尾っぽのような頭を振り下げた。

 こんなしぐさはセフィロスでなくとも、可愛らしいと感じる。

「ふふ、どういたしまして。だが、俺はたいしたことはしていないよ。チョコボっ子の努力の結果だろう?」

 そういうと、『クラウドです!』と、頬を膨らませて訂正するものの、嬉しそうに口元を緩めた。

 さてさて、今日は親友のセフィロスのために、ひと肌脱いでやらなければならない。

 

 

 

 

 

 

「そうそう、ちょうどよかった。クラウド、今夜は何か予定が入っているかい?」

「いいえ?」

 細い首をかしげて、不思議そうに聞き返してくる。それはそうだろう、俺が彼の予定を訊ねるなど、初めてのことなのだから。

「そう、それはよかった。今晩、一緒に食事にいかないか? セフィロスと話していたんだけど、チョコボっ子が、100メートルも泳げるようになったお祝いに、とね」

「えッえぇ……!?」

 こぼれ落ちそうなほど大きく目を見張り、次の瞬間白い頬が朱に染まった。さすが、子供は表情が豊かだ。

「そ、そんな、お祝いだなんて……お礼を言わなくちゃいけないのはおれのほうなのに」

「固いこといいっこなし。ここのところ、チョコボっ子は忙しそうだったしね。いい気晴らしになるんじゃないかな」

「あ、ありがとうございます。……おれ、同期の友だちよりもトロイから……いつも慌てていて……」

「いいんだよ、修習生なんだから。兵士になる前の今、むしろ苦労した方が良い」

 あながち慰めでもなく、俺はそう言ってやった。単純なチョコボっ子は、すぐにぱっと顔を輝かせる。

「ハ、ハイ! ありがとうございます。じゃ、あの……夕食、おコトバに甘えてごいっしょさせていただきます」

 辿々しい敬語でそう答えると、ぺこんとおじぎをした。

「ザックスも誘ってやりたいところなんだけど、彼は今夜、遠征が入っているから無理だな。ああ、大丈夫。遠征とはいっても近場だから。明日、明後日には戻ってくるだろ」

「はい。ザックスもそう言ってました」

「それじゃ、エントランスに18:00ごろね。そんなに遠出をするつもりはないから、気楽においで」

「は、はい! あの、お洋服……」

「普段着でいいよ。そんなにかしこまったところに行くつもりはないから」

 片手を振ってそう応えておき、チョコボっ子と別れた。

 

 さてさて、今度はソルジャークラス1stの執務室に行かなければ。

 セフィロスは、さきほどの寄った彼の私室いなかったから、おそらくこの時間は、執務室にいるのだと考えられる。もっとも、きちんと『執務』しているのかどうかはあやしいものだが。