〜 告 白 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<24>
 セフィロス
 

 

 

「とりあえずこれで大丈夫でしょう。ですが起こしたりはせずに担架で移動させてください。カンパニーに着いたら、すぐにCTを」

「了解した」

 ジェネシスがすぐさま請け負う。ふたりの間で一言二言やりとりがあり、医者はオレに軽く会釈をすると、すぐにその場を外した。

「先にメディカルセンターに戻って準備をしていてくれるよう頼んだ。おまえを診た彼の方が、精密検査を任せるのにもいいかと思ってね」

 訊ねたわけでもないのに、わざわざ説明するジェネシス。こいつは本当に読心術でも修めているのでは無かろうか。

「セフィロス、顔の処置をしよう」

「……そんなにひどいツラなのか? クラウドが怖がるわけだ」

「別に怖がってなどいなかっただろう? ひどい顔をしているというわけではないが、血が付いているし、唇が切れている」

「ああ、痛ッ……」

 そう指摘された途端、その部分にちくりと痛みを感じた。

「頬骨の部分で切れたんだな。……縫うような深さではないが、血止めをしておこう」

「…………」

 それっきり一言も軽口を叩くこともなく、ジェネシスは黙々と手当をしてくれた。

 息のかかるほど近い位置に妙に真剣なジェネシスのツラ…… いつもはヘラヘラ笑っている様しか見ていないせいか、眉を寄せ、やや不機嫌そうな面持ちで手を動かす姿は、そこそこまともな男に見えたのであった。

 

 

 

 

 

 

「痛ッ……」

 唇の傷を拭われたとき、つい小さく声を上げてしまった。

 どうにも刀傷なんぞより、こうしてちょっぴり切れた唇の傷のほうが痛いような気がする。

「すまない。消毒薬が滲みたんだな」

「……別になんともねーよ」

「ああ、ほら、しゃべらないで。深い傷じゃないけど、連中はどうにも衛生的とは言い難いからね」

 そんなふうにテロリストを皮肉るジェネシスであった。

 実際、ジェネシスは相当丁寧に、手当をしてくれているのだと思う。オレなど生死に関わる怪我以外は、唾を付けとけば治ると主張する派だ。

 だが、こいつはいつでも丁寧に傷口を拭い、消毒し、薬を塗ってくれる。

 

 ……ああ、さすがに今のセリフはまずいだろう。

『なんともねーよ』じゃなくて、せめて礼をいうべきところなのだろう。だが、どうもこいつ相手に素直に「ありがとう」というのは……口にしにくい。

「……なんで、おまえ、戻ってきたんだ。いや、助かったけどよ」

「第六感……といいたいところだけど、本社に通報があったんだ。俺の携帯にラザードから連絡が入った」

「そうだったのか? 客はひとまとめにされて見張りを付けられていたようだが」

「客ではないらしい。連中の乗ったトラックを目撃した人間がいたんだ」

「……そうか、ラッキーだ」

 ふぅと大きく吐息した。ただのため息だったのに、ジェネシスはさらに眉を寄せた。

「もうしゃべるな。脳しんとうを起こしているんだぞ」

「チッ……ったくみっともねェ…… 丸腰とはいえ、クラウドになさけないところを……おまけにあんな怪我までさせてしまって……」

 いつもはピンク色にふわりとふくらんだハムスターのような頬が、赤黒く腫れていた。ああ、思い出すだけで痛々しい。

「……いったいおまえのどこが情けないんだ? さっきから黙って聞いていれば、『クラウド』『クラウド』。自分がこんな状態のクセに、まだあの子の心配か? ……不快だ。非常に不愉快だね」

「……おまえ、何を切れてんだ?」

 オレの問い返しに、ジェネシスの方こそ、この上なく大きなため息をついた。

「……言っておくがセフィロス。あの子を守るために命を落とすような真似をするなよ。おまえはそういう指向の人間ではなかったはずだ」

「何が言いたい?」

「言葉通りだよ。おまえとチョコボっ子のことは応援したいと思っていたけど、それは俺にとって、おまえが大切な人間だからなんだよ」

『大切な人間』とか……よくもこういうセリフを、面と向かって口にできるもんだと思う。オレには到底理解しがたい。

「テメーの言いたいことはよくわからんが、オレは自分を犠牲にして誰かを救うような人間じゃない」

「その言葉忘れないでくれよ」

 そう言いながら、ジェネシスは頬の傷にガーゼを当てた。