〜 告白 〜
 第二章
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<2>
 ジェネシス
 

 

 

「セフィロス……?」

「…………」

「メディカルセンターじゃなくて、自室のほうが気楽だろう? 病床休暇で今月いっぱいは休みなんだし……」

 俺にしては、考え無しだったと思う。

 本当なら、真っ先に自室に帰りたかったのはセフィロスなのだ。

 メディカルセンターでは、医師が巡回するのはあたりまえだし、彼の機嫌取りにやってくる輩も多い。

「……あの部屋に戻っちまったら、クラウドが来れなくなる」

 入り口のセキュリティのことを言っているのか、ぼそりとつぶやく。

「だが、社食やら、中庭やらで、適当に会っていたのだろう? これからもそうすればいい」

 クラウド少年は、まだセフィロスに返事をしていないらしい。

 というか、彼にしてみれば、あこがれの人物(しかも同性)から、唐突に告白されたのだ。きっと今はまだオロオロと……いや、ピヨピヨとせわしなく動き回っているだけだろう。

 ただでさえ幼い雰囲気の少年だ。

 セフィロスの恋愛感情を、どう受けとめればよいのか困惑している。

 実際、その証拠に、セフィロスが告白してから後、チョコボっ子はまだ一度も、この病室を訪ねてきてはいない。

 あの子と同室で親友のザックスがいうのだから事実なのだろう。

 

 それをひたすら待ち続けているセフィロス。

 ああ、彼は俺など比べものにならないほど、繊細な面を持っているのだ。

 ずっと姿を現さないクラウド少年を、まだ来所の可能性のあるメディカルセンターで待っている。

 セフィロスがVIPルームに戻ったら、クラウド少年の意志で会いに来ることはできなくなるから。

 

 

 

 

 

 

「セフィロス。チョコボっ子は幼いんだから。長期戦になるのは覚悟の上だろ?」

「…………」

「告白された翌日から、今まで通りに振る舞えるような子じゃない」

「…………」

「ただ戸惑っているだけさ。おまえはいつもどおりでいいんだ」

 広い背中に向けて言葉を続ける。

「あの子からの返事は、気長に待ってやれ。……幼いクラウド少年は、おまえに憧れて、この神羅カンパニーにやってきたんだからな」

「……わかってる」

 ようやく返事をしてくれて、ホッとした。

 これほど長く一緒に居るのに、セフィロスの心を思い遣ってやれなかった。本気で誰かを好きになった姿など見たことがなかったのだ。

 クラウド少年を愛するようになったセフィロスは、俺に様々な姿を見せてくれる。ときおり見せる、憂いを帯びた眼差し、蕩けそうな笑み、そして鬱々とした煩悶。

 

 俺の心には、すでに深紅の女神が棲んでいるから……よかった。

 昔のおのれなら、筋違いの嫉妬を、チョコボっ子に向けてしまったかもしれない。

 

「……ルーファウスが何度も来やがるのに辟易する」

 ゴロリとふたたび寝返りを打って、顔をこっちに向けた。

 不愉快そうに眉を寄せ、セフィロスがこぼした。

 照れ隠しもあるのだろうが、相当うんざりしているのは確かだ。

「副社長ってヒマなのかねェ。まぁ、彼はおまえにご執心だから」

 軽く受け流してやるが、セフィロスはまだ文句を言い足りないようであった。

「チッ……あのクソ副社長。クラウドと鉢合わせになったらどうするつもりだ!」

『いや、だから今はまだ、クラウド少年はこちらにはこないだろう』

 と、突っ込んでやりたかったが、やめておく。

 怒りを煽って、傷口が開いたら……と考える俺は、よくよくこの男に甘いらしい。

 

「ルーファウス神羅は、名ばかりとはいえ副社長だからな。あまり邪険にするのはよくないぞ」

 これは忠告だ。

 セフィロスが、クラウドを見初めたときにもクギを刺した。

「おい! てめェ、クラウドがハムスターになったときのことを覚えていないのか!? 野郎、あの子の病室にまで……」

「……ああ、ムンプスウィルス……おたふく風邪の一件ね。不能にならなくてよかったよねェ」

「ああ、まったくだ。……って今はそういう話をしているんじゃねェ!」

 セフィロスが声に力を込める。

 広い病室だが、彼の力強い声はよく響く。

「落ち着けよ。ドクターやナースが駆けつけてくるぞ」

 宥めつつも、一言、付け加える。

「……おまえがどう考えようと、ルーファウス神羅には権力がある。上手く立ち回れ、セフィロス」

「………………」

 俺の言葉に、彼はムッツリと無言で頷いた。