〜 告白、その後 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<最終回>
 ザックス
 

  

 

 

 

「それより俺を許してくれたまえ、ルーファウス・神羅。チョコボっ子のいじめ事件で少しでも君を疑ってしまったことをね」

「……かまわない。私がその子どもの側にいられる立場だったなら、きっと同じようなことをしていたはずだ。今だってクラウド・ストライフのことを思うと、引き裂いてやりたいほど憎しみが沸いてくる。……一方的にな」

 そうつぶやいて、テーブルの上で震わせた手を、ジェネシスの大きな手のひらが包み込んだ。

「……憎むなとは言わないよ。君にとってどうしようもない感情なのだろう。だが、自身を貶めるのはやめるんだな。セフィロスのことを好きなら好きでいいじゃないか。想う気持ちは自由だろう。な、ザックス」

 と突然振られて俺は慌てて何度も頷き返した。

「いや、もう、俺的には副社長にはきっと似合いの女性が現われますから!本当に絶対そのほうがいいんですから!副社長、かっこいいですし、綺麗ですよ。明るい未来がありますよ!」

「ぷっ……なんだ、それは…… ザックス・フェア。君はけっこう面白いことを言うのだな」

 少し余裕を取り戻して、副社長が笑った。

「まったく、ザックスときたら無粋だねェ。恋に男も女も関係ないんだよ。俺のあの女神のようにね……」

「めちゃくちゃ関係あるだろ!アンタが誰を好きかなんてどうでもいいんだよ!それより、ルーファウス副社長、今夜はお疲れでしょうから、あったかくして早く眠ってください。なんにも考えずにぐっすり眠るんです。そうすれば、明日は気が晴れているはずですから!」

 慰めにしかならないと思ったが、そう言い残して、俺はジェネシスをひっぱり副社長室を後にしたのであった。

 

 エレベーターの中から夜空を眺めていると、ジェネシスが妙に楽しげに俺に言った。

「ザックスはやさしいねぇ。おまえのおかげで、副社長はずいぶん救われたと思うよ」

「別にやさしくなんかねぇよ、思ったことを口にしただけだ」

「それがザックスのいいところなんだよね。さぁて、セフィロスを拾って、部屋に戻るとするか」

 ジェネシスがふたたび俺たちの宿舎目指して歩き始める。なんだかんだ言って、こんなところはとても面倒見の良い輩だ。

 

 

 

 

 

 

 案の定と言うべきか、セフィロスは図々しく俺とクラウドの私室に入り込み、平気な顔をしてくつろいでいた。

 だが、いじめの犯人捜しなどをされるよりも、マシだったと考えるべきなのだろう。

 

「何しに来やがった。今夜はオレがここに泊まる」

 と偉そうに宣うセフィロスである。一緒に引き連れられてきたルーネスとイングズが俺の渋い顔を見て苦笑する。

「勝手なこと言ってんなよ。ほら、早く部屋に戻れ」

 しっしっとセフィロスを追い払う俺だ。

「クラウドに万一のことがあったら一大事だ。それゆえ、オレが着いていてやらねばな」

「あのな、セフィロス。もうイジメみてーなことは起こらんから。とにかく大人しく自分の部屋に戻ってくれ」

 子どもに言い聞かせるように説得する俺に、ジェネシスが力を貸してくれた。

「せっかくコトが丸く収まりそうなのに、おまえが邪魔をしてどうするんだ、ほら、セフィロス、立って」

 子どもに言い聞かせるように語り、英雄の腕をジェネシスが取る。

「帰るぞ、今回の一件はこれで落着だよ」

「何をわけのわからねーことを言ってやがる。おい、ザックス。きちんとおまえがクラウドのことをよく見ているんだぞ。またこの子に生傷が増えるようなことがあったら、テメーをぶっ飛ばすからな」

 どこまでも勝手なことを言い放ち、セフィロスはジェネシスに連れ出されていった。

 

「ザックスさん、お疲れでした。俺たちももう失礼します」

 あれからずっとクラウドに着いていてくれたのだろう。ルーネスとイングズがそう言って立ち上がった。

「ふたりともサンキューな。助かったよ」

「いいえ、良かったです。これでクラウドも安心して生活できそうだし」

 ルーファウス副社長に似た、プラチナブロンドをもつルーネスが嬉しそうにそう言った。

「まぁ、セフィロスがバカやらなきゃな。おまえらに迷惑かけることもないだろうよ」

 はぁとため息を吐いた俺に、ルーネスが可笑しそうにつぶやいた。

「ザックスさんって損な性分ですよね。そこがまたいいところだけど。じゃあ、また。お休みなさい」

「お休み、ルーネス、イングズ」

 クラウドがふたりを送り出して、ようやく俺たちは人心地着いたのであった。

 

「ザックス、いろいろと心配かけてゴメンね。ありがとね」

 クラウドが真面目な顔でそう言う。

「いいよ、今回はおまえも被害者だろ。……明日からしっかり頑張れよ。くれぐれも英雄には気をつけるように」

 そう言った俺に、クラウドは花のように微笑み返した。

「大丈夫だよ、おれ、がんばる。少しでもセフィロスさんにふさわしくなれるように」

 

 ……正直、それはクラウドの考え違いだと言ってやりたくなったのだが、勉学や実技に努力をするのは悪いことじゃないので聞き流しておく。

 

 ベッドに入って天井を眺めていると、今日の一件が思い起こされる。特にルーファウス副社長のことがだ。

「……なんで、あんな英雄がモテるかな……世の中は謎ばかりだ」

 そうつぶやくと、

「ザックス、何か言った?」

 とクラウドに訊ねられた。

「なんでもねーよ。おやすみ、クラウド」

「うん、おやすみなさい」

 となりのベッドから規則的な寝息が聞こえるようになると、俺もつられるように眠くなった。

 告白後の一騒動はこれで仕舞いになる。

 もっとも、これから後も、セフィロスとクラウドを巡ったドタバタ劇は繰り返されることになるのだが、それはまた別の話である。 

 

                                                                               終わり