〜 ムンプスウイルス 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<9>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「……ソルジャー・ザックス。君もずいぶんとこの少年のことを気に掛けている様子だな。同室とは聞いていたが、君はソルジャー、この者は修習生だろう。身分がまるで異なると思うが」

「いや、アレ……ダチの具合、心配すんのに、ソルジャーも修習生もないっしょ? 身分が違うとかあんましそういう風に考えたことはないッス」

「だが……! 君には君でやるべきことがあるだろう!? だいたい現役のソルジャー……しかも、まもなく1stに昇格しようかという君と入社したばかりの修習生を同室にすること自体問題があると思うのだが? 私は直接そういう事務方には携わらないので詳細はわからないのだが、今からでも別室にしたほうがいいのではなかろうか!?」

「同感だ」

 ……ってセフィロス、アンタねェ!!

 流れ的に、俺はアンタの味方をしてるっぽいってフツーわかると思うんですけど? どうしてここでそうくるかなァ! そんで何?自分が一緒の部屋になりたいとでも言う気かよ?

「繊細なクラウドと野蛮なゴンガガ原人。俺は当初から懸念していた。クラウドの新しい部屋はオレと一緒でかまわない」

「セフィロス……ッ!!」

 柳眉といえるような、綺麗な形の眉がキリキリと持ち上がる。副社長は苦虫を飲み込むような面もちになった。

「いや、あのさァ、セフィロス。とりあえず、話の流れを読もう。今、副社長はソルジャーのザックスと修習生が同室というのは好ましくないと言っているわけだろう? おまえの提案はまるっきり整合性がないというのは理解できるか?」

 ジェネシスは大笑いしたいのを堪えるように脇腹を押さえ、苦しげに笑った。まさしく『苦笑』だ。

「まぁ、待ってくれよ。今から部屋替えっつーのは、よくないと思うッス。修習生の一人部屋ってことはないわけだから、クラウド以外の修習生も部屋が変わることになるし……ようやく落ち着いた頃ッスからね」

「…………」

「俺自身、別に何の不自由もないですし。お気遣いどーもス」 

「ああ、まぁ、君がそういうのならかまわないのだが。だが不満があるときにはいつでも申し出てくれたまえ」

 鷹揚に頷くルー坊ちゃん。そう、こういう言い方をしてやりゃ、上手く引き際を定められるのだ。だが、セフィロスは真っ向勝負で己の希望を通そうとするキャラだ。きっと今の言い争いも……

 

 

 

 

 

 

「と、ところで、セフィロス。なんかモメてたみたいだけど、一体どう……」

「あー、そうそう。ザックス、ジェネシス。短い付き合いだったな、このヤロー。オレ様は今月いっぱいで辞めるから」

 俺からの問いかけが終わる前に、いともあっさりと天地がひっくり返りそうな発言を口にするセフィロス。

 しかもこの流れの中で。なんとなくめでたしめでたしであいまいにごまかしてこの場をやり過ごそうと考えていた、俺とジェネシスの目論見を華麗にスルーして。

「まぁ、てめェらには世話になってねーけど、一応別れは言っておく。じゃーな」

「また唐突だなァ、アッハッハッ」

 のんきに笑うジェネシスを無視して、俺は慌ててヤツを止めた。

 なんで?って聞かれても困るけど、やっぱし『神羅の英雄』が目の前で「やめるから」って言ったら、引き留めるだろう? 人として。

「おい、ちょっ……落ち着けよ、セフィロス!」

「オレは落ち着いているが? それよりクラウドの前で大声を出すな。せっかく心地よさそうに眠っているのに、目を覚ましたら可哀想だ」

「い、いや、あの、まぁ、そりゃそうだけど……でも、いきなり『辞める』はないだろ!? なんでだよ、どうしてそんな話になってんだよ! だいたい、さっきまで……」

「ザックス……」

 物言いたげに俺の言葉を小声で遮ったのはツォンだった。堅物で高給取りのむかつく野郎だが、一応信用できる男だ。

「ツォン。だいたいアンタがついていながら……」

「いや、その……すまん」

 とあっさり謝られて拍子抜けする。

「おい、セフィロス!」

「仕方ねーだろ。雇用者と労働者の立場は、契約書の元に対等なはずだ。いわれのない強制を受けるつもりはない」

 ツケツケと言うセフィロス。

「なんだよ、それ……アンタみたいなヤツに誰が強制するっつーんだよ。だいたいオメーのほうがいつでも人様に強制している状況……」

「アッハッハッハッ」

「ジェネシス、うるさい。いや、だってそーだろ? アンジールのいうことは気かねーし、ラザードがいない時に、私室の扉に休暇届挟んでおくとか……」

「アッハッハッ! あ〜、でもこれは俺も笑えないなぁ。悪いコトしたよなァ、ラザードに」

「今はおめーの話はいいんだよ、ジェネシス」

 よけいな茶々を入れるジェネシスを叱りとばし、尚も言を積もうとした矢先、セフィロスが堂々と宣言した。