〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<2>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

「ザックス! ザックスってば!」

「え、あ、ああ。悪い」

「どうしたの? もしかして具合悪いの?」

 心配そうに俺の顔を覗き込んでくるクラウド。大きな青い瞳に長い睫毛がバサバサと被さっている。少女のような桃色の唇に、ニキビひとつないつるつるの肌……

 あ〜あ、こいつがこんな美形じゃなきゃなァ〜……

 セフィロスも変な気を起こしゃしないんだが。

「いや、なんでもない。ちょっとな、疲れたかなァ…… ハハハ」

「そっか……そうだよね。ザックス、指揮官だったんだもんね。ゴメンね、おれ、自分の話ばっかり……」

「え、あ、いや、全然おまえが気にすることはないんだぞ。それよりクラウドもよくやったじゃないか。初仕事の感想はどうだ?」

 気を取り直させようと、明るい口調で訊ねる。未だ、俺の体調を気にしているようで、様子を伺う素振りを見せてはいたが、質問には嬉しそうに答えてくれた。

「うん。すっごい緊張したけど…… でも、ザックスや……セフィロスさん、ジェネシスさんを見てたら、やっぱし、早くソルジャーになりたいと思った! 後ろから支援しているだけじゃなくて、自分の力で大事なものを守れるようになりたいなって…… 本当にそう感じた」

「……クラウド……」

「へへへへ〜。なんか口に出していうと、ちょっと恥ずかしいね。さ、ザックス。夜ゴハン行こ!」

 そういうと、俺の手を取り、ねだるように引っ張ったのである。

 

 

      

 

     

           

「ラザード。遅くなって悪い」

 俺は書き上げた報告書を片手に統括室を訪ねた。

「いや、ザックス。ご苦労だったね」

 気むずかし屋のラザードも、機嫌良く迎えてくれる。

 若干二名のおかげで、現地ではトラブル続発だったわけだが、無事にミッション終了を見届けた後は、胸の支えも降りたのだろう。

「あの数だ。今回は1stに手を貸してもらえて助かったな」

 俺は正直にそう告げた。

「いや、君の指揮がよかったせいだ。怪我人も出さずにあの数のシーウォームを掃討できたのは、十分評価に値する」

「……鼻血出したヤツはいるけどな」

 ボソッとつぶやくが、もちろんラザードに意味はわからなかっただろう。

 

「おう、ザックス。ご苦労さん」

 ウィ……ンと機械的なドアの開閉音の上に、聞き慣れた声が被さった。

「ああ、アンジール。アンタのほうが大変だったろ」

「え……ああ、いや……ハハハハハ」

 アンジールの乾いた笑いが気の毒すぎる。

 結局予定していた社長の護衛任務に赴いたクラス1stはアンジールひとりだけで、セフィロスはいわずもがな、面白いこと好きのジェネシスまでも、シーウォーム掃討戦線に加わってしまったのだから。

 きっと、彼は孤軍奮闘したのだろう。

「こちらは何事もなかったからな。終わりよければすべてよしだ」

「相変わらず人がいいなァ、アンタは」

「まぁ、そう言うな。湾岸封鎖の件は、人手が多くて結果的によかったんだろう。ラザードから話は聞いたが、大変な数のシーウォームが巣くっていたそうだな」

「ああ、まぁな」

「これで、近隣の漁村に被害が出ることもないだろう。よかったよかった」

 アンタ、大人ですわ、アンジール……

 

「そういや、今日、セフィロスは? どこか遠征か?」

 俺はラザードに訊ねた。なるべくさりげなく。

 善は急げだ。昨夜寝ないで作戦を考えたのだ。

 セフィロスにはさっさとクラウドを諦めて欲しい。今日はそのための切り札を携えているのだ!!

「いや、居るだろ。どこかに」

「どこだよ……ここに来る前に部屋に寄ってみたけど、いなかったぜ」

 俺はそう言った。私室にいなければ、てっきりミーティングルームか、統括室かと思っていた。

「たぶん、一般寮じゃないのか?」

 俺は声のした背後を振り返った。部屋に入ってきたのはジェネシスだった。

「ザックス、お疲れ様。堂に入った指揮ぶりだったね。これは1stへの昇格ももうすぐかなァ」

「いや、あの遠慮しておきます。アンタらが引退したら考えさせてもらいます」

「つれないなぁ」

「……っつーか、セフィロス、どこだって? 一般寮!?」

 血相を変えた俺に、ラザード、アンジールが、びっくりしたような眼差しで見るが、いちいち説明している時間はない。

「いや、たぶんって話。いくら俺だって、いつもセフィロスを見張っているわけじゃないからねェ」

 と、ポエマー。

「くそっ! 一般寮って……俺と入れ違いかよ!」

「今夜、おまえが報告書を持って統括室を訪ねることくらい、普通に考えればわかるからさ。その裏をかいたのかなって。俺ならそうするから。あっはっはっはっ」

 いけしゃあしゃあと言ってのけるジェネシス。

 この男の悪知恵はセフィロス以上なのだ。

「ああ、悪いッ! じゃ、俺、もう部屋帰るわ! じゃな、ラザード、アンジール!! おやすみッ!」

 全力疾走で寮に戻ると、そのまま大浴場へ突っ走る。

 あろうことか、今まさに英雄が突入体制を取るところであった。

 くっそ〜! 

 手間ァ、掛けてくれるぜ、この鼻血男が〜〜〜〜〜ッ!!