〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<10>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

 

 

 

 驚くべきコトに、ごく当然のごとく銀髪鬼はそこに居た。

 ジェネシスのいうことは、ほとんど的を射ていたのだ。

 おかしな小説に傾倒している変態ポエマーだと思っていたのに……腐ってもソルジャー・クラス1stか。見解をあらためなければならないのかもしれない。

 

 ちなみに、ここは神羅屋敷の一階……食堂になっている部屋だ。奥にはキッチンが続き、きちんと整備されているので、いつでも使用可能な状態になっている。

 魔晄炉関係の任務で、社の人間がここにやってくるとき、この場所を本部として使用するためである。

 

「なッ……てめぇらっ!?」

 開口一番、セフィロスは親の仇に会ったような面もちで怒鳴りつけてきた。

「ジェネシス……ザックス……!! 何しに来やがったッ!!」

「そ、そいつは俺のセリフだろッ!!」

 いきおいに任せて、そのまま怒鳴り返す。セフィロスはそれが不快だったらしく、キリキリと眉をつり上げ、

「貴様ら……オレ様の邪魔をしに来やがったのか……!」

 と凄んだ。

 いや、邪魔しに……ってね?

 何するつもりだったんだよ、英雄。

 こんなド田舎に、アンタの邪魔になるものなんざ、あるはずないだろうが。それにも関わらず『オレの邪魔』と宣うということは、自らこの平穏な田舎町で、事件を起こそうとしているのを暴露するようなものだ。

 

「まぁまぁまぁ、セフィロス、ザックスも落ち着けよ」

 へらへらと取りなすジェネシス。こいつは薄ら笑い以外の表情を浮かべられないのだろうか。 

「おまえもおまえだ、ジェネシス! こんな田舎町までザックスにくっついてきやがって!」

「いやァ、なんか彼慌ててたし…… 何か面白そうなことがありそうだなって……」

 やっぱりそこかよ!!

 いや、別にこんなポエマーに期待してたわけじゃねーけど……

 でも、色々協力してくれたし……さっきも、俺が確認する前に、セフィロスのこと調べていてくれたし……少しは俺やクラウドのことを心配してくれているのか……とそう思っていたのに。

「あー、ザックス。傷ついた顔してる。違うんだよ。なんかそういうんじゃなくて。面白いっていうのは……ふざけた意味じゃなくてさ」

「別に。アンタになんて何の期待もしていない」

「ゴメン、言い方悪かったね。正直 チョコボくんのことはよく知らないからともかくね。ザックスが血相を変えてるのが気になって。その相手も相手だし、一緒に行けば役に立てることがあるかなって」

「そんでラザードに休暇願突きつけて一緒に来たのかよ」

「休暇届けはラザードの部屋の前に置いてきたって言っただろ。アンジールには、そういうふうに説明して理解してもらったってこと。ザックスはアンジールと一緒に仕事することが多いみたいだからね」

「ア、アンジールに!?」

「ああ、大丈夫。詳細は伏せてあるから。プライバシーに関わることは口外しない主義だからね」

 こいつ、わざわざアンジールに断りを入れてまで同行してくれたっていうのかよ……俺が血相変えて動揺しているのを見て……? 一緒に行った方がいいって……?

「……ますます変なヤツだ」

 俺は低くそうささやくのが精一杯だった。

「おい、テメーら。何をわけのわからん話をしてやがる。うざったい、さっさとここから出て行け」

「アンタなァ! 誰のせいだと思ってやがるんだッ!!」

「オレは休暇でたまたまこの村に来ただけだ。どこに行こうと勝手だろう」

「たまたま!? この何もないアンタに縁もゆかりもない田舎町に、『たまたま』か!?」

「まぁまぁ、ザックス」

「アンタがここに来たのは、俺がクラウドの幼なじみの話をしたからだろうが! アンタ、ティファちゃんを人知れず葬り去ろうとしてんじゃねーのか!?」

 いきなりぶつけるには強烈な言葉かと思ったが、それは口に出してから気付いたのであった。だが、迸る言葉は止まらない。

「…………」

「何の罪もない14、5才の女の子を……ただ、クラウドの彼女だってことだけで!!」

 こみ上げてくる怒りにまかせて、俺は整った白いツラに向かって言葉をぶつけた。

「フッ……フフ……」

「何が可笑しいッ!!」

 場違いにも笑い出す英雄を怒鳴りつける。

 この村に着いてから何も口にしていないし、空腹と苛立ちで俺の不快ゲージはMAXに達していた。ぶっちゃけ時間が時間だけにひどく眠い。

「クッ……ククク……ハッハッハッ!! そうか! なるほど、そこまでわかっているなら話は早い」

 さも愉快そうにセフィロスが言う。

「おい……」

「そのとおり!! オレからクラウドを奪おうという輩は何人たりとも許さん!! それが十代の小娘でも万死に値するッ! ましてや肉体を武器にあの純情な少年を弄ぶとは……」

 この人なに言ってんの!?

 ってゆーか、なにがどうなって、ティファちゃんがクラウドを乳で弄んだことになってんの?

 むしろ、ティファちゃん側から見たら、セフィロスなんざ、勘違いのド変態ヤロウってことで……

「いやいやいやッ!! ちょっ……待てや、セフィロス!! アンタ、ティファちゃんのこと誤解してない!? っつーか、この前の俺の話、どこをどう解釈したらそうなるんだよ!?」

「何が誤解だ! ティファとか言う小娘、その肉感的な身体でクラウドを陥落しようと迫ったのだろう!? 純真なクラウドはその責任を取ろうと誓い、健気にも……」

「すいません!! どこの火サスですか!? 日曜ゴールデン劇場ですかッ!?」

「あっはっはっはっ。どうやら、誤解があるみたいだね、セフィロス」

 それまでずっとコトの成り行きを聞いていたジェネシスが、堪えきれないというように笑い出した。

「だいたいさ、その女の子も、チョコボくんも、まだ十代の子供だろ? もし、仮に君の言うとおり、ティファって娘が、クラウドくんを好いていたとしても、学校の帰り、手を繋いで歩くくらいの話なんじゃないか?」

「馴れ馴れしくクラウドの名を口にするな、変態詩人!」

「ひどいなァ、あっはっはっ」

「……今どきのガキを舐めるなよ、ジェネシス」

 セフィロスは低い声で脅してきた。

「いいか。14、5才といえば、もっとも個人差が出やすい成長期だ。だいたい男よりも女のほうが成熟が早い」

 まぁ、確かに『第二次性徴』とかで習ったけど……

「それにクラウドはただでさえ、子供子供している天使のような少年だ」

「うッ……キモッ……」

 思わず口元を押さえた俺を、セフィロスがガン!と蹴りつけてきた。

「痛ってェな!何するんだよ、セフィロス」

「しっかり聞かねェか!! 貴様はクラウドと同室なのだろう! あの子が成長を遂げてゆくのを、きちんと確認してもらわねば困る!」

「いや……あのな、俺はあいつの保護者でも何でも……」

 クラウドと同室になったのは、あくまでも偶然なのだ。今では彼と一緒でよかったと思っているが。

 しかし、セフィロスは一方的に話を続けるのであった……