〜 障害物競走 〜
〜 神羅カンパニー・シリーズ 〜
<16>
 ザックス・フェア
 

 

 

 

「あ、で、でもティファちゃん、俺は同室だし、セフィロスともよく一緒に……」

 フォローしようと口を挟んだ俺を黙殺して、セフィロスが返答する。ファイティングスピリッツ満載で。

「確かにオレはソルジャーであの子は修習生だが、そんなことはたいした違いではない」

「セフィロスはそう思っていても、クラウドは違うんじゃないかしら? もちろん回りの人たちだって。ねぇ? ザックス、ジェネシス?」

「ああ、まぁ、まだ一緒に仕事行けないからなァ。あっはっはっ」

 ストレートにジェネシスが答えた。

「ジェ、ジェネシス! で、でも、この前は俺たち全員一緒にミッションこなしたろ。ほ、ほら、シーウォームの件……」

 あ、あれ、俺、何言ってるんだ? さっきからセフィロスのフォローしちゃってる?

 ふと椅子に座って脚組みしたジェネシスと目線が合う。ヤツはほんのりと……そう、何故だか嬉しそうに笑うのであった。

「ミッドガルでの湾岸封鎖任務では、俺たち三人とクラウドも一緒だったんだ」

 俺はティファちゃんにそう説明した。

「ミッション……って、神羅は修習生にも危険な仕事を与えるの?」

「あ、違う、違う! そうじゃないんだ、ティファちゃん」

「だって、あなたたち三人ともソルジャーなんでしょ? ソルジャーと同行する任務なんて……」

「心配は無用」

 切り口上でセフィロスは、彼女の言葉をブッた斬った。頼むから穏便にいけよ、セフィロスゥゥゥゥ!!

「ましてや部外者の心配など無意味だ」

「でも……ッ」

「修習生は後方支援の実戦演習だ。なんら危険はない。だいたいこのオレが同行しているんだ。クラウドを危険な目に遭わせようはずがない。フン」

「でも、セフィロスだって、クラウドをばかりを気にしていることはできないでしょう? 修習生の演習なら他にも生徒はたくさんいるんだろうし、仕事もあるんだろうし」

「もちろん、為すべきことはきちんとこなす。だが、クラウドを放置しておくことはない。あの子のことは、オレがきちんと守る」

 シ……ン

 と、沈黙が落ちた。

 両者一歩も譲らず……だ。

 互いにリング中央でジャブを打ち合い、相手の隙見て、アッパーを狙ってゆく。もちろん、セフィロスもティファちゃんもそれを鮮やかに切り返し、相手をコーナーに押し込む。

 ……だが、致命傷を負う前に、反則スレスレのボディーアタックをカマし、敵をマットに沈めようと立ち回る……

 すげェ…… 

 セフィロスもすげェがティファちゃんも強い。

 この大男相手に一歩も引かない。

 豊満な胸を強調するように腕組みをし、しっかりとセフィロスの前に踏ん張っている。

 むしろ、セフィロスのほうが、喰らっているダメージはデカそうだ。ここはニブルヘイム……ティファちゃんのホームグラウンドだ。

 ティファちゃんとクラウドの思い出が一杯につまった、小さな田舎町なのだ。

 セフィロスが不利なのは、どうにも致し方がないことだった。

 

 

 

 

 

 

「気のせいなのかもしれないけど……」

 そんなふうに前置きしてティファちゃんが、体勢をあらためた。ついに最終グラウンドなのか!?

 俺はごくりと唾を飲み込んだ。本当に『ゴクッ』と音がして、傍らのジェネシスに笑われた。

「セフィロスは……」

「なんだ」

「……まるでセフィロスは、クラウドを好きみたいな言い方ね」

「気のせいではない。もちろん好いている」

 ズイと一歩前に踏み出して、彼女に肉迫するセフィロス。

 よせッ!! よさねーか、セフィロス!!

 相手はクラウドの幼なじみのティファちゃんだぞ!? また十代の女の子なんだからな。

 ……そうだよ、ティファちゃんってクラウドと年変わらねーんだよな……やっぱ、女の子って早熟だワ……

「それは『後輩として』好ましく思っているという意味よね?」

「それもある」

「では、他にはどういう理由があるのかしら?」

 ぐいとティファちゃんが顎を持ち上げた。黒目がちな双眸が、挑戦的な光を帯びてキラキラと煌めいている。

 ……おい、セフィロス? 言うのか? 本気でいうのか? 言っちゃうのかよ!?

 って、この状況で告白はヤバクね?だって、まだクラウド本人にさえ……

 

「オレはクラウドを愛している」

 

 い、言っちゃったよ、コノヤロー!!

 何の躊躇も見せず、ごくあっさりと決定的なセリフを口にしやがった!

 ……って、葛藤なしかよッ!? 何の迷いもないのかよッ! 第三者の俺がこんなに気を揉んでるっつーのに!!

「それって……もちろん……」

「ああ、もちろん、『恋愛感情』でだ」

 セフィロスは言い切った。

 俺たちが一様に驚嘆したのは、ティファちゃんの態度であった。

 まったく驚いたり、気味悪がったり、一歩引くような素振りは見せなかったのだ。顔色一つ変えず、セフィロスの言葉を淡々と聞いていた。

 そして、彼が『恋愛感情だ』と言い終えると、ひたりと『敵』を見定めたのであった。

 

 そうなのだ。

 ティファちゃんは、最初から女の勘でセフィロスを『特別視』していた。

 会話の間で彼の本気を読みとり、さきほどの彼の発言によって、完全にセフィロスを『敵』と……そう、クラウドを争う、ライバルと認定したのであった。

 

「『恋愛感情』ね…… 言っておくけど、クラウドは男の子なのよ」

「百も承知だ。……純粋な恋愛に性別は関係ないと思っている」

 バチバチバチッ!!

 感電しそうな火花だ。

「……じゃあ、私たちライバルね」

「そのようだな」

「負けないから」

「望むところだ」

「……ひとつだけ約束して」

 ティファちゃんは、セフィロスだけでなく、俺たちふたりにも、「聞いていて」というように視線を巡らせた。

「力づくでクラウドを自分のものにするのは反則よ」

「論外だな」

「……その言葉、忘れないでね」

 そういうと、ティファちゃんは勢いよく踵を返した。豊満な胸がぷるんと揺れる。

 ……俺的には、この段階で勝負あった!なんだけどなァ

 やっぱ、女の子の身体って愛されるためにこんなふうにやわらかく出来ているのだと感じる。

 

「あ、そうそう。お屋敷の窓開けて空気の交換してね。本当なら私がすることになってるんだけど」

 あっ!と気付いたように、くるりと振り返ると、悪戯っぽくそう言い放った。

「あ、ああ、わかった。あ、あの、ティファちゃん?」

「ザックス、クラウドと同室なのよね。好き嫌いせずにちゃんとご飯食べているか見てあげてね」

 まるで姉のようなセリフを置きみやげに、彼女はさっさと屋敷から出ていってしまったのであった……