『被虐の孔奴隷~ふたりに愛されて~』
 
<最終回>
 
 ジェネシス
 

 

 

「……何故、私はこの夢を見る」

 バスローブを羽織らせ、浴室から抱き上げてきた『セフィロス』が、俺の腕の中で小さくつぶやいた。

「さぁ……どうしてだろうね」

「貴様は、私がここにやってくるのを知っているような口ぶりだ」

 掠れた声で彼が言う。

「だって、君は大好きだろう?この『場所』が」

 俺は笑いを堪えながらそうささやいた。

「いくら俺でも、無理やりここに君を連れてくることなんてできやしないよ。『扉』を開けるのはいつでも君のほうさ」

「……次はない。扉を開くことはしない」

 彼は自身の決意を口に出してそう告げてきた。

「そう。できるのならばそうしたらいい。俺はいつでも『扉』のこちら側で待っているよ」

「…………」

「……まだ、わからない?『セフィロス』。ここで起こることは、すべて君自身が望んだことなんだよ」

「少しも望んでいない……!わ、私は今、レオンと一緒に……」

「そうだね。レオンにも、して欲しいことがたくさんあるんだよね。ただ普通に抱き合うだけじゃ、全然足りないんだろう?」

 ソファに彼を下ろし、そう告げた。

「そ、そんなことはない。レオンはいつだって、やさしくて……私のことを好いてくれていると……そ、そう言って……」

 『セフィロス』の声が小さくなる。

「そんなに愛しいレオンがいるのに、君は『扉』を開くんだね、その手で」

 低いところにある、セフィロスの髪を撫でた。

「……もう、読まない!おまえからもらった本は、二度と読まない……!」

 俺の手を振り払い、『セフィロス』は叫んだ。

「読みさえしなければ、二度とここへくることはない。こんなふうに弄ばれることはない……!」

 

 

 

 

 

 

「……『クラウド』少年には同じ真似をしたのに、自分がされるとなると被害者づらをするのかい?」

 びくと『セフィロス』の身が震えた。

「幼いときから側に置いて、可愛がってきたのだろう。それこそ口に出せないような仕打ちをし続けて」

「それは……」

 そこまで言いかけて、『セフィロス』は口を噤んでしまった。

 『クラウド』の性癖をああしたのは彼だ。

 嗜虐嗜好の強い人間は、実は被虐嗜好の因子をもっている者が多い。

 『セフィロス』はまさしくその典型的なタイプの人間だと思われる。

 

「……いいじゃないか、そんなに深く考えなくとも」

 笑みを押し殺して俺は彼に言う。

「君は実際に悦んでいるのだから。ここで、あんなふうに弄ばれるのが好きなのだから。いつでもここにやってくれば、君の望む快楽が待っているんだよ」

「…………」

「君はすぐに普通のセックスじゃ満足できなくなる。この場所はそんな君にとっての、情欲の捌け口になるだろう」

「私にはレオンが居る。貴様の作り出した虚構の世界などいらない」

 強情にそう言い返してくるが、その声音に怯えが潜んでいることに、彼自身が気付いていない。

 

「ああ、そろそろ、本当に時間だ」

 わざと腕の時計を見るような素振りをして、俺は『セフィロス』に別れを告げた。

 

「では、『またね』、セフィロス。……楽しい夢を見ておいで」

 俺は彼の頬に口づけ、『扉』を後にしたのであった。