~この手をとって抱きしめて~
 
<最終回>
 
 スコール・レオンハート(レオン)
 

 

 

「ゴホン、興奮するというのは、その小説の出来がよいということなのだろう。そ、それに、アンタに被虐嗜好があろうとなかろうと、それは個人の資質の問題であって、別にそんなに悩むことでは……」

「……レオンは、夢の中での私の痴態を知らないから……」

「夢はあくまでも夢だ。別にそんなことを理由にアンタを軽蔑したりはしない」

 俺がそう言いきると、セフィロスは疲れたように吐息し、俺に寄りかかって目を瞑った。

「セフィロス、すでに読み終えたなら、これらの本を何冊か借りてみても良いだろうか」

「……読むつもりなのか?」

 目を閉じたまま、彼が問い返す。

「俺だとて男だ。興味がある」

「かまわないが……夢に出てくるかも知れないぞ」

「……夢の中ででもアンタと会えたなら嬉しい」

 そう俺が応えると、セフィロスは小さく笑った。

 

「セフィロス、すまないが今日はちょっと隣のコンピュータールームで作業をしなければならないんだ。よければ、一緒に来てくれないか」

「……コンピューター? 私は何の手伝いにもならないと思うが」

 彼はぼそりとそうつぶやく。

「いや、ただアンタをひとりで置いておきたくないんだ。俺の側に居て欲しい」

「そういうことなら……わかった」

 意外にも素直にセフィロスは頷いてくれた。

 CPルームを開け、俺はメインパソコンの前に座る。セフィロスはものめずらしそうに、部屋の中を歩いて回っていた。クラウドと違って、不用意に何かに触ることもなさそうなので、俺は自分の作業をさっさと進める。

 キーボードを叩いていると、彼が側に寄ってきて、

「……すごい、早い。おまえは何でもできるのだな」

 と感心したようにそう言ってくれた。

「こういったものは慣れの問題なんだ。俺もさして早いわけではない。専門家じゃないからな」

 キーボードを手繰ると、人物のところから『死の大天使』のキーワードを引っ張り出した。

「ほら、セフィロス。アンタの情報もこうして入っている」

 そこにはいつもの黒いコートを着て、片翼を開いているセフィロスの美しい姿があった。

「ほぅ……」

「この前の冒険の件が付け加えられているだろう。『13機関の手からホロウバスティオンを救った英雄のひとり』とな」

「そんなたいしたことでもないのに……」

「十分立派な働きだっただろう」

 セフィロスが俺にぴったりと身を寄せて、画面をのぞき込んでいる。そんな稚い仕草に心が温かくなる。

 

 

 

 

 

 

 ついこの間までは、顔を見ると逃げ出されていたのに、一度ふところに入ってしまうと、セフィロスはどこまでも気を許してくれるらしい。

 体温が伝わる距離に居てくれるし、寝台を共にすることも受け入れてくれる。

 手を重ねて、口づけること……裸で抱き合うこと……

 少し前までは、到底考えられなかった関係になれた。

 

「セフィロス、疲れるだろう。となりの椅子に腰掛けていてくれ。スキャンをするだけだ、じきに終わる」

 そう言ったが、彼はコンピューターを眺めるのに夢中になっていた。

「アンセムの城といっても、広いものだな。私は彼の私室と寝室しか知らない」

「それでかまわないだろう。下のフロアに行ってはいけないぞ。アンタには雑魚にしか見えなかろうが、モンスターが巣くっているからな」

 よけいなことかと思ったが、気になる事柄なので、念のために注意を促した。

「……レオンは、いつもそれらを蹴散らして、わざわざアンセムの私室までやってきているのだろう」

 眉を顰めてセフィロスがつぶやいた。

 ……しまった、かえって心配を掛ける結果になってしまったのだろうか。

「さっきも言ったように、雑魚モンスターだ。俺のことは心配いらない」

「レオンはいつもそう言う。『自分のことは心配無い』と……」

「事実だ。アンタが気に病むことではない」

「……おまえが私の身を案じるように、私だとてレオンのことを心配してみたい」

 駄々を捏ねるようにそういう彼を、可愛らしいと感じてしまうのは、やはり恋愛感情の為せる技なのだろうか。

「ありがとう、セフィロス。アンタの口からそんな言葉を聞けるなんて、……俺は果報者だ」

「ずいぶんと古くさい物言いをするのだな」

 クスクスと笑うと、セフィロスはふたたび俺に身を寄り沿わせて、画面の中を覗いた。

 彼の体温を身近に感じる。

 コンピューターは勝手にスキャンをしてくれている。

 

 俺は空いた両の腕で、となりに座るセフィロスを抱きしめた。

「どうしたのだ、レオン。コンピューターはもういいのか?」

「……勝手にスキャンさせているだけだ。アンタの体温が心地いい」

「おまえはいつでも私の手をとって、抱きしめてくれるのだな」

 ふ……とセフィロスが笑った。

「アンタのことが好きだからな。少しでもこうして感じていたい」

「レオン……」

 目を閉じる彼に、俺は口づけを落とした。

 

 これからもきっと俺たちはこうして抱きしめて、確かめ合っていけるのだと信じる。

 セフィロスは難しい人だ。きっと不安になったり、何かに怯えることもあるのかもしれない。

 だが、俺が彼を守る。

 命をかけてでも彼を守り通す……この日、俺はそう誓ったのであった。

 

 

終わり