〜パパ来襲〜
 
<最終回>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

「というわけだったの、ゴメンね、レオン…… オレ、やっぱちゃんとレオンにお別れ言って欲しかったんだけど……本当に時間ないみたいで……ボディガードの人とかいっぱい集まってて」

 オレがバイクで家に帰り着くと、すでにレオンは家に居た。ラグナさんに誘われて、食事をすませてくるとメールで連絡はしたが、やはりいい気分はしないだろう。

 レオンは、ほとんど感情を表に出さないのだが、今はなんとなく難しい顔をしている。

「ゴメンね、最後の夜だったのに……オレだけ……」

「何を言っている、そんなことはまったくかまわない」

「でも……」

「気にしすぎだ、クラウド。あいつが多忙な野郎だということは十分知っているし、むしろせいせいしたくらいだ」

 ひどく素っ気なくレオンは言い放った。

「レオン……そんな言い方ないじゃん……」

「まぁ、ラグナのことはもういい。それより……あの……クラウド……」

「ん……?」

「何だか……元気がないように見えるが……親父のヤツからよけいな話を聞かされたりはしなかったろうな? その……ナンパ相手がどうだの……とか」

「……? なんのこと?」

「ああ、いや、何も聞いていないならそれでいいんだ……おかしなことを言ってすまない。気にしないでくれ」

「うん……?」

「その……あいつと何を話したんだ?」

 なんとなく気せわしげに訊ねるレオン。

「ん? いろいろ。スゴク楽しかった」

「色々というのは……?」

「えーとね、お買い物連れてってくれてね。それからゴハン食べに行って……話は……うーん、ホント色んなことしゃべったから。ラグナさん話面白いし」

「…………」

 ムスッと黙り込むレオン。口数が少ないのはいつものことだが、こんなふうに不機嫌そうな顔をすることはめったにない。

 

「あれ? レオン、もしかして、妬いてる?」

 そんなことを言って、ちょっとからかってみる。

「馬鹿なことを……親父相手にヤキモチ焼くはずがないだろ」

「だって不機嫌そうだもん」

「……別に。これが自顔だ」

「ウソ。いつもしゃべんないけど、ムッとはしてないもん」

 オレはさらに言い募った。

 レオンはハァとばかりに溜め息を吐くと、フッと笑った。

「……なんでもない。すまなかった。おまえとラグナがふたりきりかと思うと、少しばかり気になってな」

「え?」

「……あいつは如才ないヤツだ。けっこう話も面白いし、気の利いた男だからな。俺とは大違いだ」

「レオン……」

「悪かった、そんな顔するな。そうだな、ヤキモチなのかもしれないな」

 そう言って笑うと、レオンはオレの髪を撫でた。その微笑は少しだけ疲れているようにも見えた。そんな彼をからかうなど、ひどく思いやりのない行為に思えた。

「ご、ごめん。オレ、ちょっと嬉しくて、わざと意地の悪いこと言っちゃったみたい」

 慌てて取り繕う。

「レオン、オレにヤキモチ焼いてくれることなんてなかったから…… 違うの、オレ、ラグナさんに付き合ったのは……どうしても話したいことがあったからなの。もちろん誘ってくれたからっていうのはあるけど……」

「どうしても話したいこと?」

 不思議そうな面もちで、レオンがこちらを見た。

「うん……」

「なんだ? 俺には言えないようなことなのか?」

「ち、ちがうの。そういう意味じゃなくて…… あのね、オレ……オレ……」

 言い淀んでしまうオレを、レオンは辛抱強く待っていた。

「レオン……怒んない?」

「……怒るも怒らないも話を聞かなきゃわからないだろうが」

 ごく当然のことを言い返すレオン。

「……怒んないでよ」

「だから聞かなければ……」

「じゃ、言わない」

 プイとつっぱねる。

「おい、クラウド!」

「……怒んないで」

「……わかった」

 レオンは頷いた。大抵このやり取りを済ませると、オレの言い分が通ってしまうのだ。

 

「……オレ、ラグナさんにレオンを連れて行かないでって、お願いしようと思ってたの」

「……なッ?! 何故そんな話に……」

 いつもはほとんど感情の読みとれない、ブルーグレイの双眸が見開かれる。

「だって……これまでだって何度かホロウバスティオンに来てたっていうのに、わざわざ逢いに来なかったんでしょう? それなのに、今回はレオンを官邸に呼んだり、手紙出したりしていたくらいだったから……」

「…………」

「ここ……治安のいい国じゃないし……大統領子息って立場のレオンを、こんな危ない場所に放っておくはずがないって思って……ううん、これまではともかく、現状を見たらもう黙っていられなくて、迎えに来たんだと……そう思ったの」

「……ラグナに聞いたのか?」

「ううん」

 オレは首を振った。横にだ。

 

「……レオンのこと、ずっと心配しているって言ってた。それは親だから当たり前のことだって…… でも、無理に連れ戻そうなんて考えていないって」

「…………」

「人生は本人のものだって……誰かに代わりをやってもらえるものじゃないんだから……口出しはしないって言ってたよ」

「……そうか」

「ラグナさん……オレの言いたいこと……気付いてたのかもしれないね。お願いする前に、彼の方からそう言ってくれた」

「……フン、あの親父にしちゃあ上出来だったかもな」

「レオン、すぐそういうひどい言い方する」

「ふふ。昔からおちゃらけヤロウだったからな。……今日も多大に迷惑を掛けられたところだったし」

「なぁに、それ?」

「あ、いや……なんでもない」

 どうでもよさそうに、レオンは頭を振った。

 

「……そんなカンジだった。また来てって言っておいたよ」

「よけいなことを……」

「だってオレ、またラグナさんに逢いたいもん。……ほら、これ!」

 ちょっとばかり得意げに、胸元のペンダントを見せつける。

「ラグナさんがプレゼントしてくれたの。お守りになるんだって」

「…………」

「『クラウドくんは、可愛くて綺麗だからよく似合う』って誉めてくれたよ」

 ズケズケと恥ずかしげもなく、オレはそう言ってやった。

「……あのクソ親父……」

 ぼそりとつぶやくレオン。

  

「別にモノに釣られるってワケじゃないけど、誉められればやっぱし嬉しいもん」

「…………」

「髪撫でられれば気持ちいいし、プレゼントされたら嫌な気はしないもん」

「……俺だって、おまえのことはとても綺麗だし、その……可愛いとも思っている」

「口に出して言ってくれなきゃわからないもん」

 オレはツンとばかりに顔を背けてやった。

「わかった……わかったから……」

「レオン、いっつも面倒くさそうにするじゃん」

「わかったわかった」

「あ、ほら、また!」

「わかった、わかったから。今日はもう遅いし……いつまでもそんな格好でうろついていると風邪を引くぞ、クラウド」

 文句を言うオレを適当に宥めて、部屋へ連れていこうとする。

  

「オレまだ言いたいことあるのに! レオンも部屋、来てよ! ぜったいだよ?」

「わかったわかった」

「ちゃんと聞いて!」

「ああ、先に風呂を済ませてからな。おまえは寝ていろ」

「寝ないもん、起きて待ってる!」

「……やれやれ、この上、まだ何か話したいことがあるのか?」

 お手上げとばかりに両手を上げたレオン。

 そんな彼にオレは満面の笑みで応えたのであった。

 

「うん。このペンダントの言い伝えをね、……教えてあげるよ!」

 
 
 
 
  
 
 
  

 終わり