〜Second impact〜
 
<17>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

 

 

 

「くッ……」

 声はこらえたが、喉の奥の方が鳴る。

「あッ……痛ッ……」

「クラウド……力むな……」

 俺は耳元に向かって、そうささやきかけた。

 どうしても緊張があるのだろう。不要な力が下肢を固まらせる。

「……んッ……あッ……」

「……力を……抜いてくれ」

 ほとんど懇願とも言えるような口調で、そう言い聞かせた。

 男性の内側というのは、これほど圧迫感があるものなのだろうか。

 

 予想外の状況だった。このまま吐き出さずに堪え続けるのは至難の技だ。

 ドクンドクンと脈打つ内部が、異物を排除しようとするかのように締め付けてくる。

「……くッ」

 歯を食いしばる。

 ダメだ。まだ動けない。クラウドの身体が落ち着いていない。

 

「レオン……だい…じょうぶ……だから……」

 途切れ途切れにそうつぶやき、彼は微かに笑ってさえくれた。

「だが……」

「へい……き……」

 俺の背にしがみつく彼の腕に力が込められた。

                                                                           

 慎重に……ゆっくりと動いてみる。

 

 目のくらむような快感が、つながった部分から溶けだしてくる。

「……んッ……あッ、あッ……あッ……」

 俺の動きに合わせて、彼の口から途切れ途切れの喘ぎが漏れた。

 

「……ク……クラ……ウド?」

 必死に彼の状態を確認した。

 

 つらい。

 気を許したら、自分の望むままに、身体の下の肢体を屠ってしまいそうだった。

 彼の指が背を滑る。

 腕に力が込められ、縋るようにしがみつかれた。

 

 ……それから後は……よく覚えていない。

 

 短い時間だったが、これまでのように文章にして、他人に伝えられるような記憶が残っていないのだ。

 だが、その状況から推察するに、おそらく自制が利かなくなったのだろうと思う。

 

 ボロボロと泣きながら縋り付いてくるクラウド。

 そんな彼の頬に口づけ、口唇を貪り、耳朶を噛み、首筋を吸い上げ……肉体の欲求のまま、昇りつめ、そして果てたのだと思う。

 それはクラウドも同じだったようだ。俺が彼の体内に吐き出すと同時に、彼の残滓が、弛緩した身体の腹部を汚していた。

 

 俺の意識がはっきりしたのは、ぐったりと仰臥したクラウドの姿を認識してからだ。

 細い眉を寄せ、苦しげな吐息をくり返している。

 

「あ……はぁッ……はぁッ……はッ……」

「……ク…クラウド……?」

「はぁッ……はぁッ……」

 つ……と汗が額を伝わる。

 

「大丈夫か……? すまない……つい……」

 情けなくも、おろおろと困惑し、俺は謝罪した。

 今さら謝ってみても、何の意味もなかろうが。

 

「……レ……オン? ……はぁッ……はぁッ」

「すまない……」

 頬に片手を当て、額に張り付いた前髪を撫でつけてやる。

 

「……なに……言って……」

「……無理をさせたようだ……」

「なに……言ってんの……平気……だよ」 

 未だ、呼吸の収まらないまま、クラウドがささやいた。

 やはり受け入れる方は相当の負担なのだろう。かわいそうなことをしてしまった。

                                                               

「すまない……気をつけていたつもりだったのだが……」

 繰り返し、謝罪する俺を見ると、彼はクスッと小さく吹き出した。

「またアンタは……悪くもないのに……すぐあやまる……」

「クラウド……」

「痛くないよ……ちょっと疲れた……けど……こんなの、初めてで……」

 ……こんなヘタクソが……だろうか。

 

 俺の表情から、なにかを読みとったのだろう。今度こそはっきりと笑みを浮かべると、

「ちがうよ」

 と、いきなり否定語を口にした。

「……なんか、嬉しかったよ……すごく」

「……え?」

「……言わない。アンタ……恥ずかしいヤツだから、平気で復唱してくれそうだ……」

「おい……クラウド」

 こちらの不満をよそに、彼はゆっくりと身体を動かすと、俺のとなりに身を寄せた。

「シーツ、取っちゃおうね」

 ぐしゃぐしゃに丸まって端に押しつけられた布を床に落とす。もっともきちんと広げたとしても汚れて使えないと思うが。

 毛布と掛け布団だけになってしまったが、とりあえず横になることはできるだろう。

                

 コトが終わると、俺は途端に平常心に戻った。

 嫌がられる男の典型的なタイプと言われるかも知れない。

 もちろん、クラウドの様子が気になるがゆえに、意識的に冷静になったつもりでいたが。  

 俺とは対照的に、落ち着かない風情のクラウド。

 傍らのブランケットを手繰り寄せ、胸元を隠すようにして座っている。

「……? 何をしているんだ? 寒いのか?」

 下半身は布団の中だから、それほどでもないと思うのだが。

「……ち、ちがうよ……別に……」

 恥ずかしそうに、ブツブツと答える。

 それでも胸元に当てた布の束は離さない。

 

「……おまえは胸なんかないだろ?」

 コトを終えた安心感が、俺の口を滑らせた。

 何の気無しにつぶやいた一言であった。

 

「〜〜〜ッ! な、なに……何言ってんだよッ!アンタは! こ、こ、こ、この無神経ヤロ〜〜ッ!」

 ボスンと頭の上で、爆発音がした。

 クラウドが特大クッションを、脳天にお見舞いしてくれたのだ。

 

 俺が視界を奪われている間に、彼はさっさと布団に潜ってしまった。

 毛布の隙間から、金色のチョコボの尾っぽが、ぴょこんと覗いている。

 

 到底、首尾よく……とは言えなかろうが、そんなこんなで俺たちの『初めて』は過ぎていった。

 

 ……未だに、俺は彼のことを、積極的な意味合いで、交渉の対象としては見られない。

 クラウドが望めば、いつでもそれに応じる用意はあるが。

 

 つまり、『積極的に』というのはそういう意味合いで、『消極的に』なら、これからも今日のような夜を過ごすことになるだろう。

 

 クラウドが笑ってくれるのが嬉しい。

 『好きだ』と言ってくれるのが、心地よい。

 そして、なにより、俺の背を抱きしめ、しがみついてくる姿が愛おしかった。

 

 ……ゆっくりでいい。

 俺たちなりの歩き方で、肩を並べて進んでいこうと思う。

 

 いつの日か、彼が俺を必要としなくなる時が来るかもしれない。

 それはその時の話だ。

 

 今はただ……彼の静かな眠りを守ろう。

 傍らに寄り添って、髪を撫でてやろう。

 

 俺は、わずかに姿を覗かせている、チョコボの尾に口づけた。

 

 「おやすみ、クラウド」と……