『被虐の王子〜尻奴隷の悦楽〜』
 
<最終回>
 
 KHセフィロス
 

  

 

「……む?」

 私は見慣れた寝台で……そう、アンセムの城のベッドで目を覚ました。

「なんだ……今のは……」

 思わず呆けたようにつぶやいてしまった。

 寝台のとなりでは、レオンがぐっすりと眠り込んでいる。

 

 昼頃レオンが訊ねてきて……普通にイロイロして、眠りについた……はず。

 その証拠が、目の前のレオン自身である。

 私自身よりはずっと健康的な肌の色をして、厚い胸板が規則的な呼吸を刻んでいる。

 

「夢……?」

 その言葉をつぶやいた。

 そうだ、夢以外にあり得ない。

 それにしてはずいぶんとリアルな夢であったが。

 

 私はハッと気がついて、枕元のチェストに隠して置いた本を引っ張り出した。

 レオンがやってくる前に、暇つぶしに読んでいたものだ。

 この本の作者はジェネシス……いわゆる官能小説というものを書いているらしい。

 以前、彼と出会ったころ、お土産として何冊か持たされたものであった。

 

 本を読む習慣などはなかったが、官能小説というものがものめずらしく、なかなかに面白いと気付かせてもらった。

 

「これのせいか……」

『被虐の王子〜尻奴隷の悦楽〜』というタイトルのものであった。

 それの内容と、今の夢が大分重なっているのだ。

「読んだまま、眠ってしまったからだな」

 私はその本を、決してレオンの目にとまらぬよう、チェストの奥にしまいこんだ。

「……く……あんなもので催すとは……」

 レオンと抱き合ったことで、身体は満足したはずなのに、夢のおかげでふたたびムラムラとした感情が沸いてくる。

 私はふらふらと起きだし、ふたたびバスルームに入った。

 身体には嫌な汗がねっとりと染み出しているし、口の中も乾いて息が上がってしまっている。

 情けないが、自身を沈めるために、風呂に入って自慰行為をおこなう。

 

 すっかり身綺麗になってから、もう一度、寝台に横たわった。

 

 すこやかに眠るレオンには、到底口にできない恥ずかしい夢だ。

 

「この本……」

 チェストにしまったそれを、おもむろに取り出して、ひとりつぶやく。

(……レオンに読ませたら、なんというだろう)

 いろいろと想像豊かに考えてみるが、やはり読ませるべきではないという確信に達した。

 そもそも、レオンがいわゆる官能小説に興味を覚えるとは思えないし、仮にこれを最後まで読んだからと言って、このような行為に及ぶとも考えられなかったからだ。

 むしろ、私自身の性癖を疑われそうだ。

 

 レオンの目に付かない場所に、もう一度それを隠すと、私はレオンに寄り添って眠った。

 今度は変な夢を見ないように……

 ……だが、どうしても本自体を捨てる気にはならない私であった……

終わり