〜Third conflict〜
 
<18>
 
 スコール・レオンハート<レオン>
 

 

「ええッ! トワイライトタウンが……!?」

「ソラ……!」

「だって……今までルートには……な、なにかあったのかなッ?」

「ソラ、まずは状況を見にいかなければどうにもならないだろう! あの場所からは……あの場所は……まずい……!」

「リク? なんだよ? トワイライトタウンが何かあるの? おれ、あそこにも友だち、居るんだぞ!? ハイネに、ピンツに……」

「ああ、わかってる。……だが……」

「もういい! とにかく出発しよう、リク!」

 

 連絡が入ったのは早朝だった。

 詳細は俺にもよくわからなかったが、なにやら切羽詰まった状況にあるのだけはふたりのやり取りから伝わってきたのだった。

 

「すまない、レオン! 一番肝心な場所に案内してもらうつもりだったのに…… だが、トワイライトタウンは……とても重要な場所なんだ。この一連の……ハートレスとノーバディの存在……13機関すべてに関わる鍵……とも言える」

 リクはひどく深刻な面持ちで、俺にそう告げた。

「……わかった。待つのには慣れている。……気をつけて行ってこい」

「ありがとう! それからこれ……!」

 サッと取り出した書類……見たところ、PCで途中まで打って時間切れになったものを印刷したのだろう。それを俺に差し出した。

「ごめん。まさかこんなことになるなんて思っていなかったから、全然間に合わなくなっちゃったんだけど……」

「これは?」

「俺の知っている『13機関』のレポート。……おそらくこれからアンタたちが闘うことになるだろう」

「……助かる!」

「本当にごめんな、レオン、クラウド! トワイライトタウンでやるべきことが終わったら、必ずもう一度ここへ来るから! もちろん、リクと一緒に!!」

 アタフタと着替えをすませ、足半分はもう外へ飛び出し掛けたソラが叫ぶようにそう言った。

「ああ、待っている!」

「気をつけろよ、ソラ、リク!」

 クラウドもそう応じた。

 

 ……そんなこんなで、俺たちは慌ただしく短い同居人を送り出すことになったのだ。

 

 ハートレス、ノーバディ……アンセムに13機関……そしてセフィロス……

 俺のまわりには一様に解決しがたいことばかりが羅列されている。

 

 だが、与えられた時間はまだあるはずだ。

 

 

 慌ただしくソラたちが旅立った翌日……俺はリクのレポートを片手に、城へ向かった。

 アンセムの研究室へ足を運び、デスクの引き出しから、寝室のキーを取り出す。

 

 ゆっくりと扉を開け、中に入った。

 

 ……そこはもぬけのカラだった。

 ベッドもサイドボードも、なにひとつ変わりない様子で、そのままになっていた。

 そう……まるでここにセフィロスなど居なかったかのように。あの寝台に横たわっていた姿など、俺の記憶違いだとでもいうように……

 

「……セフィロス……」

 消えた黒翼の天使の名を呼ぶ。

「……セフィロス! セフィロスーッ!」

 

 いらえはない。ただ窓辺の床に、黒い羽が一枚だけ、ふわりと落ちていた。

 それを拾い上げ、胸ポケットにしまう。

 

 寝台に腰掛け、薄暗い部屋で、リクのレポートを読む。

 

 その最後のページ。

 

『死の大天使』

 片翼の黒い翼を持つ、闇の使徒。

 銀の長髪、身の丈ほどの長刀。

 

 そっけない文章が二行ほどあった。

 『死の大天使』……セフィロスのことだろう。この呼び名は誰がつけたのだろうか?

 いや、セフィロスの名を知らなかった者が、あの超人的な強さと、闇の深さを目の当たりにして、ふさわしい命名をしてみせただけなのかもしれない。

 

 セフィロス……『死の大天使』……

「……だが、『天使』なんだよな」

 俺は誰にともなくそうつぶやいた。

 

 

  変わらず街を跋扈するハートレスにノーバディ。

 キーブレードの勇者とその親友のホロウバスティオン訪問は、予期せぬハプニングで、当初の目的を果たす前に中断されてしまった。

 だが、わずかずつであろうとも、彼らは着実に解決への道を進んでいると認識することができた。

 まだまだ時間は掛かるのだろう。俺たちの戦いは終わらない。

 

 だが、希望はある。

 ソラたちが光の世界の扉を開けるというのなら、俺たちはそのときまで、この街を支え、少しでも多くの人々がその時を待てるように尽力する。

 それは俺自身が自らにかした課題なのだから。

 

 ……そして、クラウド……世界が光で満たされ、闇を恐れる必要がなくなれば、彼の生は今より楽なものになるだろう。もしかしたら、もう俺の保護はいらないと言われるかも知れない。だが、それならばそれでいい。
 
 おまえが何にも怯えず、ひとりでしっかりと立つことができるのなら。
  

 セフィロス……『死の大天使』と形容されるアンタは、この世界が光に包まれたらどうなるのだろうか? 自ら消えることを選ぶのか? ああ、そうだ、アンタの人生はアンタのものだ。赤の他人の俺が口出しすることではないと思う。

 ……だがな、セフィロス。

 『天使』は光の中で、より美しく強靱に輝ける者だ。

 あれほどの剣技をもつ武人が、くだらない末路を選ぶことなどあり得ないと俺は信じる。

 

 

 ……頼むぞ、ソラ……リク……!

 そしていつか……おまえたちと、酒を酌み交わそう。

 

 『頑張ったな、俺たち』と笑い逢える日を心待ちにして……

 

 
 
 
終わり