夜明け前
<18>
 
 
 曹 丕
 

 

 

 白い足に温石を当てると、指をくっと内側に曲げる。

 なんだかその様子が、以前父の飼っていた猫に似ていると感じた。

「曹丕、寒い」

「上掛けを羽織れ」

 そういって、傍らに放り出された、縫取りのある衣を肩に掛けてやった。

 背を丸めて寄り添ってくる姿に、私はあらためて感じた。

 そうだ、三成は猫のような生き物なのだ。

  気まぐれで勝手気ままに振る舞うかと思えば、妙に神経質なところがある気むずかしい性格だ。

 

「……曹丕、寒い。抱いて寝てくれ」

「おまえはどこぞの子どもか。まったく手の掛かる……」

 ため息混じりにそう言い返したが、三成は心外というようにこちらを見上げた。

「おまえの愛妾の代わりにならないかと訊ねているのだ」

「……は?」

 さすがに言葉の意味を一度で理解できず、おかしな声が出てしまった。

「人肌が欲しい。抱かれて眠りたい」

 あまりに直接的すぎる誘い文句に、不覚にもすぐ反応できなかった。

「別におまえに妻がいようとそんなことはどうでもいい。ただ、今、抱かれて眠りたい」

 意外な申し出に、三成がかなり参っているのだということだけは理解した。

 例の『清正』という人物ことについて思いを馳せているのだろう。

 

「俺相手ではそんな気になれんか」

 ため息混じりに三成が言う。

 『清正』のことはよいのだろうか。それとも、肌を合わせることと、想いの置き所は必ずしも連動しないということなのだろうか。

「曹丕……?」

 かすれがちな声で私の名を、三成が呼んだ。

「かまわぬが……私でよいのか」

 と訊ね返す。

「曹丕だから言ってる」

 またも彼は、無意識のうちに殺し文句を口にしていた。

「さすがに誰でもいいというわけにはいかん。曹丕がいいんだ」 

「だったら……」

 私は彼の腕をとり、薄い口唇に接吻した。

 歯列を割ろうと、舌を忍びませたが、彼は無防備に口腔までの侵入を許し、深い口づけに酔った。

「ん……」

 鼻にかかったような吐息を漏らす。

 それが相手の情欲を煽ると知っているように。

 私の服を脱がせようと、三成の細い指が、その合わせ目に伸ばされる。彼の好きなようにさせたまま、私はやや乱暴に彼の衣を暴きに掛かった。

 日ノ本の衣装の特徴ともいえようか、色の異なる衣を、何枚か重ねるように着込むその装束は、仕組みさえ知っていれば、たやすく脱がせることが出来るのだと知った。ひもで身体に密着するようにまとめ、その上から帯を着けているのだ。

 

 

 

 

 

 

 白い首筋に唇を這わす。

 もともと華奢な作りの彼だが、力を込めれば折れてしまいそうだ。

 包み込みように細い肢体を愛撫しているうちに、指先が胸の突起に引っかかった。舌先で転がし、舐めながら軽く歯をたてると、下肢にあたる彼のその部分がさらに熱を帯びた。

「はぁ……」

 と、ため息を吐き出し、じれたように私の髪に指を差し込む。

「ここがいいのか?」

「ん……胸、くすぐったい」

 指先でつまんで、きつくこねてやると、そこは朱く色づき、つんと立ち上がった。

「痛ッ……」

「痛いだけではなかろう。胸の飾りが綺麗に花開いたぞ」

「だから……! そこばかりくすぐったい……!」

「くすぐったい?……良いのだろう」

 血の気を失っていた白い頬が、徐々に桜色に染まって行く。私はそんなさまを、なんとも愉快な気分で眺めていた。

「曹丕……もっと……」

 ねだるように腰を揺らせ、私の手をすでに張り詰めて熱を持ったその部分に導く。

 どうやら、彼は自己の欲求にはひどく素直で、はばかりを持たないらしかった。素肌をあからさまにすることも、快楽に身を揺らせることにも、何の遠慮も恥じらいも感じられない。

 では羞恥心がないのかといわれれば、そうでもない。

 彼は日常の些細な出来事に、妙に恥じらいを訴えることがあるのだ。

 たとえば、食事の魚を上手に食べられないときや、道を歩いている途中で転びそうになったことなど、普通の人間ならば、それほど重大な出来事でないところで、それは余すことなく発揮されるのである。

 

 下帯を外し、すでに十分高まったその部分に指をからめた。

 軽くゆるゆると上下にしごくだけで、

「……あぁッ」

 と堪えきれない嬌声がほとばしる。

「曹丕……も、出る……」

「ずいぶんと早いな。たまっていたのか?」

 やや茶化すようにそう言ってやったが、それにすら何も言い返すことはなかった。