Day after tomorrow
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<最終回>
 
 セフィロス
 

 

 

 

「あっという間に帰る日だね~」

 ヤズーが手荷物のチェックをしながら、のんびりと言った。

「二泊三日で遊び倒したね。カダたちももう満足だろう?」

「えー!まだまだ遊びたかったよ、ヤズー!だって、一回乗ったヤツだって、面白かったのは二度乗りたいモン」

「オレはもうこりごりだ。さっさと家に帰って、美味いメシを食って眠りたい」

 本心からそう言ったが、クラウドに

「セフィ、おじさんくさいよ」

 と一蹴される。

「わ、私は楽しかったな…… やはり普段と違う場所だと気分も変わって……アトラクションもそれなりに面白かったし」

 ヴィンセントがおずおずとそう言った。

「ヴィンセントが楽しかったならよかったよ。また来ような。なんてったってフリーパスもあるんだから」

「あれは三人までだ。不足分をおまえがもつ気概があるんならな」

「セフィは金持ちだろ!」

「言っておくがもうおまえらとは来ないぞ」

「ほらほら、ケンカしてないで。迎えのゴンドラが来ちゃうよ」

 ゴールドソーサーのグッズをしこたま買い込んだカダージュとロッズが、よいしょとばかりにリュックを背負う。

 見ればヤズーやクラウドも荷物が増えているようだ。きっと自分用に何か記念になるものでも買い求めたのであろう。

 

「セフィロス。……お疲れ様」

 穏やかな笑みを浮べながら、オレの後についてきたヴィンセントがささやいた。

「ああ、おまえもな」

「ありがとう。子どもたちは家族皆で遊びに来られたのが、とても嬉しかったようだ」

「そんなもんかね」

 素っ気なく言い放ったが、彼は苦笑しただけだった。

 

 

 

 

 

 

「もちろん私も……皆で来れたのは良かったが……」

 つぶやくように彼が続ける。

「……君が約束を守ってくれたのが……本当に嬉しかったのだ……」

「はぁ。相変わらずおまえはとりとめもないことを。オレは口にしたことは守る。満足しただろ」

「……ああ。ゴールドソーサーの観覧車は、私にとって特別な場所になりそうだ」

 オレの気持ちを知らないまま、ヴィンセントは瞳を輝かせてそう言う。

 

 もしも、クラウドよりも先にオレに出逢っていたら……

 いや、正確には出逢ってはいるのだが、幼少の頃ではなく、大人になったオレと出逢っていたのなら、おまえの中で何かが変わったのだろうか。

 一人分の背中にしか回せない長さの、その腕に包まれていたのは、誰だったのか。

 うっかりすると最近、こぼれ落ちてしまいそうな問いかけが、ふたたび口に上ってくる。

 

「……? どうかしたのか?」

 黙り込んだオレに、ヴィンセントが不思議そうに問いかけてきた。

「いや……なんでもない」

「その……君は最近そうして黙ってしまうことがあるな。私でよければ何でも話してくれたまえ。ひとりで思い悩むことなどせずに……」

 真剣な眼差しでそう言われて返事に窮する。

 『おまえだからこそ言えない』

 という話も大分多いのだがな。

 

「おやさしいおまえと違って、ひとりで悩み込むことなどないな」

「だ、だが……今、急に黙って……」

「いいから、この頭の中身は、自分の悩みごとだけにしておけ」

 クセ毛の黒髪をぐりぐりと撫でつける。

「他人の悩み事まで引き受ける必要はないだろ。ただでさえ、おまえはろくでもないことをああだこうだと考え込むんだからな」

 そういって解放してやると、小さな頭にクセ毛が可愛らしくからまっている。

「おい、ちょっ……! ヴィンセントのこと馴れ馴れしく撫で回すなよ、セフィ!」

「ク、クラウド……」

 チョコボのガキが後ろからヴィンセントを抱きしめて、さっさとゴンドラの前のほうの席へ連れて行ってしまった。

 ようやくヴィンセントの詰問から解き放たれてやれやれだ。

 

 ……何が起こるかわからない。

 

 ネロたちのことではない。これから先、生きていく間にはどういう事態が発生するかは不明だということだ。

 だが、守ってやろうと思う。

 あの男が今の家を愛しているのなら、家の連中を。

 そしてヴィンセント自身を。

 

 オレもずいぶんと丸くなったなと感じた。初秋の午後だった。




  終わり