〜 美女でも野獣 〜
〜 FF7 〜
<10>
第二部
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

「……心配だわ。やっぱり私……」

 となりを歩くティファがつぶやいた。

 

  いったい、何百年前に作られた神殿なのだろう。

 いや、もしかしたら、千年以上も前なのかもしれない。

 『古代種の神殿』と呼ばれる石造りの建物は、あいさつひとつせずに闖入した我々を、うっそりと……だが、決して拒むようなことはせず、ただ静かに迎えてくれた。

 

 石畳をくぐり抜け、敷地の正面から神殿に侵入する。

 遠目で見たときには、それほど巨大な建物だとは思わなかったが、実際に現場に着けば、予想とは異なるものだ。

 タークス時代、何度も潜入任務は行ったが、常に現場の予測をしつつ、予想は裏切られる物だと考えて動く。

 

「ねぇ、ヴィンセント…… クラウド、大丈夫かしら。あのときは、そこまで言うんならって思ったけど、相手はあのセフィロスだもの。いきなり襲いかかってくるんじゃ……」

 不安顔でくり返す。

 クラウドは、神羅時代の複雑な関係を、彼女に話してはいないのだろう。同郷の幼なじみということであれば、尚のことだ。

「……大丈夫だ、と本人が言っていた。我々はそれを信じるしかない」

「それはそうだけど……」

「神羅に居た当時……彼はセフィロスと、それなりに付き合いがあったらしい。それは聞いているだろう?」

 大分ぼかして、当たり障りのない訊ね方をした。

「ええ、まぁ……なんか、セフィロスほうが、クラウドに執着してたみたい。『英雄』なんて呼ばれてたくせに……変な人よね」

 不快げにティファが言う。

「ねぇ、ヴィンセント。あなたはクラウドのこと、心配じゃないの? 気にならないの?」

 年若い彼女の言葉が、やや非難がましくなってきた。

「……心配だし、気にもなる。だが、『リーダーに従ってくれ』などという物言いは、これまで聞いたことがない。そんな科白を口にするほど、彼は必死だった。故にこれ以上、口出しすることはできない」

 穏やかにそう答える。

 不安にとりつかれた彼女を、少しでも落ち着かせてやりたかった。

 この娘は……ティファは、クラウドに恋心を抱いているのだろう。

 年は十七……と言ったか。ならばこそ、強い剣士として成長した幼なじみを、純粋に慕っている。

 いつの日か、成就できれば本当に喜ばしいことだと思う。

 まるで母親のように、彼を心配しているこの少女の想いがむくわれてくれれば……

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセント? ねぇ、ヴィンセントってば、聞いてるの?」

「え……あぁ、いや、なんだろうか? クラウドのことなら、互いにPHSも持っているし……」

 物思いに沈みそうになり、私は気持ちを引き上げた。

 昔からの悪いクセだ。

 セフィロスの居るであろう場所で、こんな緊張感のないことでは、クラウドを気づかうどころではない。

「違うってば。やっぱり聞いていないじゃない!」

「あ、ああ、すまない。少しぼんやりして……」

「具合、悪いってことはないわよね? ヴィンセントって、身長あるのに、すごく細身だし、食事もあまり摂らないから……おまけに無口でしょ。体調とか教えてくれないとわからないわ」

 エアリスとユフィがいないせいか、彼女はとにかく私に話掛けてくる。

 シド相手のほうが、よほど語りがいがあると思うのだが……

 

「ヴィンセントって……私よりもクラウドのこと……わかっているみたい」

 ティファはため息を吐くと、悔しげに小さくつぶやいた。

 一瞬、告白されたときのことを思い出し、ぎくりと背が震える。

 幸いタークス時代の訓練のせいか、動揺を現すような素振りはせずに済んだ。

「……さぁ、そのようなことはないと思うが。同郷であった君のほうが、ずっと知っているだろう」

「子供の頃のことはね。でも、今のクラウドはよくわからないわ。いったい何を望んでいるのか……」

「以前話したとおり、私の肉体はもう50年以上、永らえ続けている。年の功とやらで、察してやれることも多いから……端からはそう見えるのかもしれないな」

 一瞬、ハッとしたように顔を上げ、さきほどよりも小声で『ごめんなさい』とつぶやいた。

「気にする必要はない。ティファは本当に、クラウドのことを大切に思っているのだな」

「……べ、別にそんな…… ううん、そうね、最初は心配な幼なじみだったけど……でも、今はちょっと……好き、かな」

「フ…… ちょっと、か?」

「……あ〜あ、私もヴィンセントみたいにできればなぁ。クラウド相手だとつい……」

 口うるさくなってしまうのをのを自覚しているのだろう。

 彼女は軽く頭を振った。

 若い恋に頬が緩む。

 クラウドもセフィロスとの一件が落着すれば、身近にいる彼女に目を向ける日が来るかも知れない。

 少なくとも、年長の同性に執着することはなくなるだろう。

「さぁ、おしゃべりはここまでだな。中心部に近づいている」

 おのれの気持ちを引き締める意味でも、そう言葉にして彼女に言った。