〜The after of FF7AC〜 <3>
 
 
 
 
 

 

 

 

「ああ、ヴィンセント。ちゃんと温まった?」

「……ああ」

「うん、顔色、良くなったみたいだな」

「……そうか」

「……ごめんな、俺、アンタに無理ばっかり強いてるような気がする」

 これは意外な言葉だった。当然聞き返す。

「……どういうことだ?」

「いや、だってさ。前の旅の時から……あんたが神羅屋敷で眠っていたのを強引に起こして仲間に入ってもらって……」

「それは私から申し出たことだ。おまえが気に病むことではない」

「……俺、あんたのこと、全然知らなかったから。セフィロスの母親のこととか……宝条とのこととか……」

「……それは……」

「これまで、あんたがどれだけ苦しんできたのか、全然知らなかったから……」

 彼はこちらを見ずにつぶやいた。

「…………」

「機会があったら、ちゃんと謝ろうと思ってた」

「……クラウド」

「ごめん、ヴィンセント。アンタのつらいこと、なかなか終わりにしてやれなくて。セフィロスのことも……」

「クラウド」

 私は彼の言葉を遮った。

「確かに……確かに、セフィロスの母は、かつて私が愛した女性だ。だがそれはもう……済んだことだ」

「まだ、その人のことが忘れられないか?」

「……済んだことだ」

 私は繰り返した。

 

「……あのさ」

 少し間をあけてクラウドが言った。

「なんだ」

「あのさ、俺が前に言ったこと覚えてる?

「…………」

「俺、何かアンタのこと、特別みたいだから。今度の旅、終わったら、絶対楽にしてやるから」

「……クラウド」

「あんた……あのとき、コスタデルソルにも一緒に来てくれなかったからさ。もしかして、俺、嫌われてんのかもしれないけど……」

「違う……! そうでは……」

「ああ、いいんだ、それはもう」

 彼は私の言葉を手を振って遮った。

「クラウド……!」

「いいからさ」

「……クラウド、私を困らせないでくれ」

 私は独り言のようにつぶやいた。そう、彼と居るといつでも私は困惑しているような気がする。

「なんだよ、それ」

 クラウドは笑った。

「アンタ、俺と話していると、いつも困ったような顔してるな」

「……おまえが、返事に困ることばかり言うからだ」

「そうか? 俺がアンタのこと好きとか、そういうこと?」

「…………」

「ヴィンセント?」

「言葉遊びをするには、私は年をとりすぎている」

「……やれやれ、もういいよ」

 彼は両手をひょいと上げて、あきらめたようにそう言った。

 ……嫌われただろうか……

 ……そう恐れているのは、むしろ私の方だ。

 

「……クッシュ!」

「あ、しまった! おい、服着ろ。バスローブのままだと冷えるだろうッ? 気付よ、そのくらい」

 また怒られた。彼は私を見るとずいぶんイライラするようだ。

「………………」

「あー、ちがうちがう。そんな顔するなよ。ほら、寝ろ!」

「……まだ、それほど眠いわけでは……」

「いいから、ベッド入ってろよ。話なら寝ながらでもできるだろ」

「……あ、ああ」

「あ、そうそう、これ、渡しておく」

 そういって、彼は私に何かを差し出した。すっかりクラウドのペースだ。彼に言わせると私のテンポはあまりにもとろくさくて合わせられないということらしい。

「……? これは……」

「携帯。アンタも持ってた方がいいだろ。だからプレゼント」

「……私のために……わざわざ?」

「そう、アンタのために」

 私の言葉をオウム返しになぞって、クラウドはにっと笑った。さきの一件以来、ほとんど笑顔をみせなかったから、意地の悪い笑みでも嬉しく感じる。

「……ありがとう」

 私は素直にそう言った。

「……よかった。いらないとか言われたらどうしようかと思ってた」

「まさか……そんなこと言うはずが……」

「それ、俺の機種の色違いなんだ。使い方、教えてやるから」

「……ありがとう」

「アンタの『ありがとう』はホントに礼を言われてるカンジでいいな」

「なんだ……それ……」

「なんでもないよ。もう、寝よう、ヴィンセント。明日……早いし」

 そう言うと、クラウドは手前のベッドに潜り込んだ。それほど広くない客室のツインはベッドの距離が近い。

「なぁ、ヴィンセント……」

「なんだ?」

「アンタが一緒に来てくれて……いや、絶対来るとは思ってたんだけどさ。……嬉しかったよ」

 そういうと、彼はシーツを引き上げ、目を閉じた。

「……クラウド……」

「うん?」

「……セフィロスと逢えたのだろう?」

「…………」

「……クラウド……」

「うん……逢えたよ」

「そうか……」

「…………」

 

「……ヴィンセント、なにも、聞かないのか?」

「聞いてもいいならば聞こう。まだ……つらいのなら、おまえが話したくなるまで待とう」

「……あんた、俺のコト甘やかしすぎ……」

 そういうと、クラウドはクスッと笑った。顔はシーツに隠れているので、表情を見ることは出来ない。

「……セフィロス、言ってたよ……」

「…………」

「『思い出にはならない』ってさ……」

「……そうか……」

「……ヴィンセント」

「……なんだ?」

「……俺さ……」

 少し言いにくげに口ごもるクラウド。

「……俺」

「…………」

「……セフィロスに逢えて……正直、ホッとした」

「…………」

「……なんか、すごく矛盾したこと言ってるってわかってるけど……でも、『あれ』で終わりじゃなかったんだって……まだ『居る』んだってわかったら……安心したんだ」

「……クラウド」

「ヘンだよな、俺。ホント、本末転倒っていうか……セフィロスを倒しに旅してたのに……今だって、復活を阻止するために動き回っているのに……何なんだろう……コレ」

 クラウドの声音が苦しげに震える。また私はなにもしてやれない。

「……セフィロスを倒すのではない」

 私は口を開いた。

「ヴィンセント?」

「……倒すのではなく……解き放ってやるのだ」

「解き放つ?」

「そう……長い呪縛からな」

「……サンキュ、ヴィンセント。アンタのこと、好きだよ」

「……そういうことを言うな」

「だって、本当のことだから」

 

 セフィロスとどっちが……?

 そう訊ね返してしまう前に、口を噤む。

 

「……寝ないのか?」

 瞳だけ覗かせて、クラウドがそう問う。

「いやもう、眠る」

「……こっち来いよ」

 毛布を持ち上げてクラウドが言った。

「……もう眠ると言っているのだ」

「いいだろ、こっちで寝れば」

「……狭苦しいベッドに男ふたりでか」

「くっついてれば平気だろ」

 煮え切らない私に焦れたのか、クラウドはざかざかと自分のベッドから降りてくると、私の寝床に潜り込んできた。こういうふうに強引に行動されると、私はまだどう動いていいのかわからなくなる。不快ならば強く拒絶すればよいのだろうが、あいにくそういった態度を取るのに慣れていない。

 私よりも小柄だが、遙かに力強い腕が背に回される。

 クラウドは体温が高いのだ。湯から上がって、少し時間の経った私の身体には、その熱が心地いい。

 寝やすい体勢を取るために、ごそごそと動いていたクラウドの身体が止まった。

 私の身体は、がっしりと抱きしめたままだ。

 

「ヴィンセント……相変わらず、細っそ……」

「……悪かったな」

「いや、アンタらしくていいんだけどさ。少し、心配になる」

「……なにがだ」

「……しばらく会えないときとかさ……」

 なにか思い起こすように、言葉を切るクラウド。

「……?」

「アンタ、ちゃんとメシ食ってんのかなって考えるよ」

「……ばかばかしい」

「ふふ……一緒に旅してるときにさ、同じテーブルでスープとか飲んでるの見るとほっとする」

 小さく笑いながら、クラウドは言った。

「……バカな……私だとて一応人間なのだ。食事くらいする」

「違うよ、そういう意味じゃないよ。……俺、アンタが物食ってんの見るの、好きなの」

「……変わっているな」

「そうかな?」

「……そうだ」

「眠くなってきた? ヴィンセント」

「……ああ」

「じゃあ、お休み」

 彼は言う。

「……クラウド」

「アンタの寝顔見たら、俺も寝る」

「……好きにしろ」

 私の言葉は音になっていたか……吐息だけでそう応えたような気もする。

 

 旅が始まる。

 ……二度目の旅が…… 

 

 ……この旅路の終焉に何が待つのか……