〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<19>
 
 ネロ
 

 

 

 ……人は僕を悪魔と呼ぶだろうか?

 

 そう、呼びたければ呼べばよい。それに対する痛痒を感じる心は持たない。

 僕の命は、兄さんのため……そして、僕らの同胞をこのようなみじめな目に遭わせた連中への復讐のため……それらに費やさせるべきであろう。

 

 彼らにとって、DGのホームグランドであるミッドガル周辺が、此度の式典場であったのが不運だったといってやるべきか。

 いや……物語の経過は異なれども、結末は同じになるはずだ。

 

 すべての元凶……神羅カンパニーを完膚無きまでにたたきつぶし、その総帥ルーファウス神羅に死を……

 そしてWROの局長も不要な人間だ。気の毒な皇太子殿下は……なにかの利用価値があろうか。いや……それではルーファウス神羅の思考をなぞらうようで不快だ。意味無きものはすべて消失されればいい。

 僕の愛する兄さんに必要なのは、ヴィンセント・ヴァレンタインただひとりなのだから。

 

「……ネ……ロ……」

 リクライニングチェアで微睡む兄さんが、低く僕の名を呼んだ。

 例の一件で、廃人のようになってしまった彼だが、もともとの生命力のおかげなのだろう。傷の回復は早く、時をおかずして歩くこともできるようになった。

 だが、宝条博士によるオメガ降臨という暴挙は、兄さんの精神に多大なる負担を強いた。

 まともにしゃべるどころか、身の回りのことすら何一つ出来ない腑抜けになった彼は、ときおり、意味のわからぬ言葉ですらないものを零すばかり。

「……ネ、ロ」

「ああ、兄さん。どうしました? おやおや、窓を開け放しではいけませんよ。夜風は身体に障ります」

 彼の膝から滑り落ちたブランケットを拾い上げ、椅子に落ち着かせたその身体を覆うようにかけ直す。もちろん、夜風の吹き込む窓をきっちりと閉めてから。

「兄さん、もうそろそろベッドに入りましょうか?まだおねむではありませんか?」

 大きな手を握りしめ、そっと手の甲を撫でながら、僕は声を掛けた。

「…………」

 焦点はあっているものの、ガラス玉のように何も見ていない彼の瞳……それでも、僕を『ネロ』と呼んでくれたときはひどく嬉しかった。

 ようやく『弟のネロ』なのだと認識してくれた。……信じもせぬ『神』とやらに手を合わす気にはならなかったが。

 

 

 

 

 

 

「ネ……ロ……」

 兄さんの乾いた口唇が、ふたたび僕を呼んだ。

「はい。側に居ますよ。兄さんが眠るまでここに着いていますからね」

 幼児に言い聞かせるように声を掛ける。いや、実際、今の兄さんはほとんどそれくらいの子供と変わらなくなってしまっている。

「…………ト……」

「え……?」

 ほとんどしゃべることのない兄さんの口から、聞き慣れない単語がこぼれ落ちた。

「兄さん……?」

「ヴィ……ン……セ……ント?」

 ああ、この人の脳裏にも、その名は強く焼き付けられているのだろう。黒髪に濃い血の色の瞳をした…… そう、ある意味この僕とよく似た容姿をもつ彼……

 僕たち兄弟における『鍵』になっている彼。

「……大丈夫ですよ、兄さん。彼は僕らの同胞なのです。本当はここに居るべきはずの人なのですよ」

「……あー……あ……」

「ええ、そう。彼は必ず僕がお連れしますからね。兄さんはいい子にして待っていてください」

「ネ……ロ……」

「はい、何の心配もいりませんよ……」

 ようやくおとなしく寝台に仰臥してくれた彼の手を取った。安心させるようにそっと力を入れて握りしめる。体温が伝わるのが心地よいのか、兄さんは大きく吐息すると、双眸を綴じ合わせた。

「兄さん…… 必ずヴィンセントを連れてきてあげますからね……」

 子守歌のように、僕はそう繰り返した。