〜 ALL STARS 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<25>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

「こちらの作品は現代のものですが、世界的にも注目される彫刻作家でして……」

 そつなく皇太子殿に作品の説明をするWROの長官、リーブ氏だ。その様子が思いの外楽しげで、任務というよりも、趣味で語っているかにも見える。

 俺はこの人のことをよく知らないし、唯一の接点というのならば、コスタ・デル・ソルのクラブでへたれた姿を垣間見た程度のことであった。

 いや、なかなかどうして、こうしている姿は、十分年相応の貫禄があった。

「ヤズー……疲れた〜……退屈ぅ……」

「うわッ! ちょっ…… に、兄さん!?」

 前を歩いているものだと思っていたのに、目の前の柱から幽鬼のように現れた兄さんに、思わず声を上げてしまった。

 皇太子殿たちはずっと前を歩いているから聞こえなかろうが。

「もう、何してるのさ! ほら、早く前に戻って!」

「いいじゃん、別にィ。今、リーブと話してるでしょ。俺なんか門外漢だから全然わかんないもん」

 口を尖らせてぶちぶちと文句を垂れる。気持ちはわからないでもないが……

「ダメだよ、今日の兄さんはルーファウス社長なんだから。わかった顔して聞いてりゃいいじゃないの」

「あーあ、後何時間ここに居るの? もう、さっさと引き上げたいんだけど」

「まだしばらくかかるよ。ようやく半分くらい歩いたんじゃない?」

「あ〜……、しんどい。ホントしんどい。俺、DG狩り部隊の方がよかったよぉ〜」

 思い切り伸びをすると、兄さんはその勢いで巨大なため息を吐きだした。

「仕方ないでしょ。今回の兄さんの役目は特別なんだから」

「ヴィンセントに会いたい……」

「人の話聞いてる?俺だって会いに戻りたいよ」

「ちょっとぉ。ヤズーは関係ないでしょ。ただの同居人でしょ。ヴィンセントにベタベタしないでよ」

「そういう意味じゃなくて…… まったく兄さんはもぅ……」

 言いかけた俺の言葉を、疾風が切り裂いた。

 

 ガキンッ!

 

 と硬質な音が響く。

 美術館の外壁に、深々と一条の傷が刻み込まれていた。

 

 

 

 

 

 

「……アンタは……!」

 肉感的な身体にピタリと密着した紅の装束。

 庭園の巨大な噴水像の上に立つのは見覚えのある女であった。

 

「DGソルジャーだなッ!」

 予備知識のない兄さんのほうが、迅速に構えを取った。すぐに上着を脱ぎ捨てる。ルーファウス神羅御用達の白の長衣の下には、仕込み刀が隠してあるのだ。

「……女とはいえ、容赦しねェぞ! コルァ!」

「兄さん、待って……!」

 思わず俺は、前に進み出る彼を止めていた。

「なんだよ、ヤズー!」

「あの女……ツヴィエートの朱のロッソだ。この前の事件の時、間違いなく倒したんだよ。生きているはずがない」

 俺は真っ赤な血をほとぼらせ、廃ビルの上から闇に落ちた姿を見た。銃弾の傷は致命傷……落ちたのも、到底助かるはずはないような高さだった。なんせ、あの廃屋となった旧神羅ビルから落下したのだから。

「ハッ!」

 ロッソが跳んだ。巨大な輪の形をした刃物が虚空を切り裂く。

 そうだ……この武器だ…… やはり見覚えがある。

 巨大な環の形状をした凶器……もちろん環は鋭利な刃先で覆われている。こんなものをまともに食らったら、俺たちでさえ身体は真っ二つに引き裂かれるだろう。

「うわっ!」

「兄さん! 兄さんは皇太子のところへ行って!」

 俺は応戦状態に入ろうとした兄さんに向かって叫んだ。一瞬判断に迷ったようだが、もともとの責務を思い出したのだろう。

 彼は一つ頷くと、横飛びに跳躍した。

「逃すかッ!」

 女の環が走り出した兄さんの背後を襲う。

「追わせないよ!」

 ガゥンガゥン!

 ベルベッドナイトメアの咆吼。以前は毎日のように耳にしていたのに、久々の鳴き声に神経が震えた。

「貴女の相手は俺だよ」

 放った銃弾は、すんでの所で女の環の進路を逸らせた。

 巨大な轍の武器は、兄さんの背後から逸れ石壁を抉って戻ってゆく。

 

「……久しぶりだねェ、姐さん。その綺麗な身体に傷跡一つ残さず、よくも存えたものだ」

 俺は気を取り直して彼女に声をかけた。

「…………」

「まさかね、さすがの俺もあの状況で貴女が生きているとは思わなかったよ」

 やや饒舌に過ぎるかと後悔した俺に、彼女はまるで機械のような音で、

「……殺す」

 とだけつぶやいた。