〜 CAIN 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<18>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 午後0:43……

 携帯電話が鳴った。

 ヤズーがレコーダーの録音ボタンを押す。

 ひとつ頷いて、オレに合図を寄越すのを確認して、オレは電話を取った。

 居間には、この家に住むすべての人間が待機していた。

 カダージュやロッズは外させようかと考えたが、ヤズーの「何か手伝ってもらうことがあるかもしれないから」という言葉で同席を認めた。

 

「……ごきげんよう、保護者殿」

 なめらかな声が受話器の向こう側から流れてくる。

「昨夜はよく眠れましたか……? クックックッ……」

「ああ、爆睡した。……それで? さっさと『ヴィンセント』を返してもらおうか?」

「まぁ、お待ち下さい。事前に伺っておきたいこともあるのです」

 聞き分けのないガキを宥めるような声で、ネロが言葉を続ける。不愉快きわまりなかったが、オレは質問の続きを待った。

「エンシェントマテリアのことなのですが……あなたが持っているということは、あの事件の折、ヴィンセントの体外に摘出されていた……と考えてよろしいわけですね?」

「さぁな。知ったことではない。ヤツもオレには話したくなかったんだろ」

「……そう……ですか。ヴィンセントに訊ねても、『ここにはない』『別の場所だ』とばかり答えるのでね……」

「昨夜、ヴィンセントの部屋を確認した。ヤツのいうとおり、エンシェントマテリアは手元にある。後はこいつを貴様のところに持って行けばいいんだろう」

「ええ、間違いなく……」

「こんなもの、オレにとっては何の役にも立たん。ヴィンセントにも無用のものなら、貴様に渡そうが捨てようがどうでもかまわんことだ。こいつでヴィンセントの身柄と引き替えっつーなら安いモンだな」

「ふふふ……保護者殿。無知とは恐ろしいものですねェ」

 クックックッという低い笑い声が後に続いた。

「それとも何か? マテリアを使って、またオメガの復活を促そうとでもいうのか?」

「…………」

「この前失敗したばかりだろうが、少しは学べ、ボケが」

 オレの口の悪さに、ヤズーが辟易したように両手を上げてみせた。

 ヴィンセントは微動だにせず、オレとネロのやり取りに聞き入っていた。

「オメガの復活……? ええ、ええ、そうですねェ。そう……それだけの力があるマテリアなのですよ。……まぁよろしい。おしゃべりはこのくらいに致しましょう」

 一方的にエンシェントマテリアの話を区切ると、あらためてネロは口を開いた。

「先日、ノースエリアで大立ち回りをされたとのこと……」

「ハァ? それがどうした? さっさと場所を言え!」

「いえいえ、ちゃんと聞いてくださいな。ノースエリアのヘルスキッチンに廃棄された無人駅があるのをご存じですか?」

 ネロが言った。

 オレはヤズーとめくばせした。もちろん、オレたちはその場所を知っている。数年前……オレがまだ神羅に居た当時、コスタデルソル再開発という名目で、地下鉄を掘ったのだ。いや、正確には「地下道を」だ。結局そこは、そのまま投げ出され、列車が通ったことはなかったのだから。

 受話器を持ち直し、オレは答えた。

「ああ、知っている」

「ならば話が早い。日が暮れてからそちらへおいでください。中に入って道なりに進んで頂ければけっこう」

「あそこは開発途中で投げ出されたはずだ。道はないはずだが?」

「ご心配なく。行っていただければすぐに『どういうことか』わかりますよ。正しい道はひとつ……それが今、私のいる場所に繋がっています。もちろん、『ヴィンセント』も一緒です」

 ヴィンセント本人が、組み合わせた両手を白くなるほどに握りしめた。

「………………」

「ああ、そうそう。何人でこられてもけっこうですよ。よければ金髪の少年でも連れてきてあげてはどうでしょうか? 子供の喜びそうな仕掛けもたくさんありますので。クックックッ……」

「ちょっ……! 誰のこと言ってんだ、コルァァァ!」

「兄さん、しーッ!」

 いきりたつクラウドをヤズーが宥める。

「いいだろう。その時刻に指定の場所に出向く。祭りに参加したい連中も居るからな。にぎやかになりそうだ」

 オレは、銀髪兄弟、そしてクラウドに視線を遊ばせつつ、そう言ってやった。

「では、保護者殿。どうぞ、ご無事で…… くれぐれもエンシェントマテリアをお忘れ無く。貴方の大切な方のために……」

 至極丁寧にそう告げると、一方的に電話が切られた。

「ちょっ……もうッ……腹立つんですどォォォ! 何、あいつッ! くっそーっ! 絶対ブン殴ってやるッ! 素手でタコ殴りにしてやるーッ!」

「まぁね。同意……と言いたいところだけど、今のところ、まだあっちが優位だからねェ。何はともあれ、まずはヤツの居る場所に到達しないとね。そこに店長さんもいるわけだし」

 熱くなるクラウドをなだめるように、イロケムシがつぶやいた。

「日が暮れてから……と言っていたな。逆探知はどうだ?」

「やっぱり無理みたい。フツーの電話じゃないね。細工してある」

「まぁ、そりゃそうだろうな」

 ひとつ頷く。もともと期待してはいなかった。

「地下鉄の駅ねェ……場所は知ってるけど、浮浪者のたまり場みたいになっていると思ったけど……」

「連中が『掃除』してくれたんだろ。いずれにせよ、どんな邪魔が入ろうと、目的はひとつだ。はっきりしていていい」

「そうだね、セフィロスの言うとおりだ」

 ヤズーが気楽な口調でそう言った。

「ところで、セフィ! だれ連れて行くの? あ、俺は決定だからね、コレ。絶対行くから。そんでネロ殺るから」

 クラウドが一方的に宣言した。おそらく周りの連中も気になるところだったのだろう。

 てっきりネロはオレひとりで来いと指示してくると思っていたのだ。大人数で押し掛けることは想定していなかったが……今回は手助けを連れて行った方がよいだろう。

 いざというときに、誰かを守りつつ応戦するには、いささか荷が重い相手といえる。

 ネロはツヴィエートなのだ。

 おまけに、ネロの後ろにはヴァイスが居る。これまで前面に出てくることはなかったが、当然、戦闘には参加するだろう。前回対峙したとき、宝条に操られたヴァイスとやりあったが、足手まとい共が居たとはいうものの、遅れを取りかけ負傷したのだ。

 今回、助け出さねばならないのは民間人だ。それを考えると、それなりに状況判断のできるフォロー役を連れていくのはやぶさかではなかった。