とある日常の風景。 
〜コスタ・デル・ソル with 銀髪三兄弟〜
<夕の部>
 クラウド・ストライフ 
 
 

 

 

 

16:00

 昼食を済ませ、ひととおり水遊びをし尽くして満足したのか、カダージュが眠いと言い出した。

「じゃ、そろそろ帰ろう。カダ、うちに帰ったらすぐシャワーを浴びろよ」

「うん、兄さん……」

 そんな返事ももう曖昧にとろとろしている。

 

 

16:30

 帰宅。

 案の定、ソファで寝こけているカダージュを、むりやり連れて行く。

 この別荘には、浴室が2つほどついているのだが、ひとつはシャワーオンリーだ。どうせ、風呂になど浸からせたら、そのまま眠り続けそうなカダージュは、シャワールームを使わせる。

 

「なんか、髪に潮の香りがついたみたいだ。兄さんもじゃない?」

 ヤズーが言う。

 俺たちは海に入ってはいないが、けっこう長い時間浜辺でしゃべっていた。

「風呂に入ったら?兄さん。もう沸いてるはずだから」

「はやいな」

「出掛けにタイマーセットしておいたからさ」

 ……なんというか、気が利いてるというか、ソツがないというか……

 ヤズーとヴィンセント。

 性格や人当たりは全然違うが、物静かなところや行動様式はけっこう似通っている。

「ロッズは?」

「シャワー室に行ったよ。お湯に入るの面倒なんじゃない?」

「おいおい、カダージュとケンカしないだろうな」

「だいじょうぶでしょ。ふたりとも疲れてるみたいだし。カダが相手にしないと思うよ」

「そうか。じゃ、俺たちも入ろうか」

「うん、先にどうぞ」

「一緒に入ろうぜ。けっこう広いし」

「…………」

「どした?」

「え? あ、ああ……そうだね。一緒に入ろうか」

 

 

17:00

 ヤズーと一緒に入浴。

 カダージュとは、請われてよく一緒に入るのだが、考えてみたら、ヤズーとは初めてだ。今日はずいぶん、彼と時間を過ごしている。またそう感じるということは、これまでカダージュやロッズとばかり、一緒に居たことになるのだろう。

 

 カチャリと扉の音がして、ヤズーが入ってきた。

 ……ぶっちゃけ、ヤズーは、うらやましいほど均整のとれた体格をしている。

 ロッズはあまりに筋肉質すぎるし、カダージュは本当に線が細い。ヴィンセントに至っては、ガリガリで見ているこっちのほうが心配になってくる有様だ。

 

 線の細さではヤズーもいい勝負なのではあるが、年齢が上の分、不完全な部分が少ない。しなやかな筋肉のついた二の腕から、背にかけてのライン。引き締まった腹部。ウエストは俺より細いかもしれない。

 

「どうしたの、何見てるの、兄さん」

「わ……悪い。なんかいいなぁって思ってさ」

「何が? 兄さんて、女より男のほうがいいの?」

 このストレートさが、ヴィンセントとの最大の相違点だ。

「おまえな、あんまり率直に聞くなよ、そういうことを」

「ははは、ごめん。だって何か熱心に見てるからさ」

「いや、うらやましいってこと。ヤズーの体型って理想じゃん」

「そうなの?」

「そうだよ。俺ももうちょい身長欲しかったんだけどね……」

「そうなんだ。でも、いいんじゃない? 兄さん、かっこいいよ。俺は好きだ」

「よせよ、照れるだろ」

「本当のことだよ。兄さんはそのままがいいよ」

「ヤズーに言われてもなぁ」

 俺はぼりぼりと頭を掻いた。

「なに、信じられないってこと?」

「そうじゃなくてさ。それだけ整ってるヤツから言われてもってこと」

「あの人……名前なんだったけ? あの……タークスの人はそう言わないの? ここに一緒に住んでるんでしょ?」

「ヴィンセント? いや……まぁ……あまり上手く言葉にできるタイプじゃないな、あいつは」

「そうなんだ。……そうだね、話したことはないけど、口数の少なそうな人だったね」

「ああ、ほとんど自分のほうからは話かけてはこないな」

「ふーん。でも好きなんだね」

「そうだな。嫌なヤツだったら、一緒にはいられないから」

「兄さんはあまりしゃべらない人がいいの?」

「別にそういうわけじゃないけどな。ただ、うるさいのは苦手かな」

「おやおや。じゃ、カダージュやロッズはダメだね」

「あいつらはいいんだよ、あれで」

 すぐにそう応えた俺に、ヤズーは小さく笑った。

 からかうような笑い方だったが、少しも不快に思わなかった。俺は彼との会話が楽しいようだ。そしていいことを思いついた。

 

「髪、洗うんだろ、ヤズー」

「うん」

「やってやるよ。座ってろ」

「え?いいよ。めんどうだよ、長いし」

「いいだろ。カダージュなんていつも『やってくれ』って言うぞ。自分で洗ってた試しがない」

「ははは、仕方ないなぁ、カダージュは……」

「じゃ、泡が目に入らないように、気をつけろよ」

「うん。ありがとう、兄さん」

 はしゃぎもせず、静かにそう言うヤズー。

「なぁ、三人で居るときも、あんな調子なのか、あのふたりは」

「そうだね」

「カダはおまえに甘えるのか?」

「そうだねぇ。ロッズとはよくケンカするから、どうしても俺のところに甘えてくるかな。ま、それはロッズも同じなんだけどね」

「へぇ、大変だな」

 思わずそんな感想が口をついて出る。

「そうでもないよ。……ああ、でも兄さんといるときのほうが、カダージュはわがままかな。ロッズはあまりかわらないけど。ふたりとも兄さんにかまって欲しいんだよ」

「やれやれ」

「まぁ、嫌わないであげてよ。ふたりとも兄さんにはすごく懐いているし。特にカダージュは兄さんのこと、本当に好きみたいだからさ」

「嫌うわけないだろ」

「最初は大嫌いだっただろ」

 茶化すようにヤズーが言った。最初というのは出会ったころのことを言っているのだろう。確かにバイク・チェイスして斬り合い打ち合いして、好きだったよとは言えないだろうけど、不思議なことに決して嫌いであるとか、憎んだりとか、そういう気持ちを、もったことはなかった。

 俺はそれをそのままヤズーに告げた。

 

「……そうなんだ。兄さんって不思議だね」

「そうかな。そうだな、言われてみると確かにな」

「うん、殺し合いした間柄なのに」

「おまえたちには、その理由があったんだろ」

「…………」

「セフィロスの思念体か……それをおまえたちから、完全に乖離させる方法ってないのかな」

「……さぁ」

「つらいんじゃないかと思ってさ」

「兄さんはやさしいね」

「そんなふうに言われると困るけどな。やっぱり、おまえたちとセフィロスは別なんだから」

「別じゃないでしょ、思念体なんだから」

「セフィロスと同じなんだったら、ひとりひとり個性があったり、容姿が違ったり、好みや有り様が、ちゃんと独立したひとりの人間である必要ないだろ。おまえたちはセフィロスとは違うよ。別なんだよ」

「…………」

「くわしいことはわからないけど、確かにセフィロスの影響を受けているとは思うよ。でもそれを言うなら、俺も同じだ」

「……うん」

「だが、俺はセフィロスじゃない。だから、おまえたちだって違うんだよ。すべてがすべて、セフィロスじゃないんだ。ちゃんと、ヤズーと、ロッズと、カダージュなんだよ」

 俺はめずらしくも語気を強めて話していた。俺を「兄さん」と呼ぶ、悩める同胞に理解して欲しかったのだ。

 

「……ありがとう」

 少しして、ヤズーがそうつぶやいた。

「え?」

「ありがと、兄さん。なんか、嬉しいよ、そういってもらえるの」

「そ、そうか? ああ、悪い、髪洗うの止まってて」

「ううん」

「綺麗な、長い髪だな」

「ふふふ、セフィロスと同じ?」

「違うだろ。ヤズーの髪が綺麗だって言ってるんだよ」

 俺はそう言い返しながら湯を流した。

 銀色の髪が、水を玉にはじき返し、キラキラと輝く。

 

 ああ、確かにそうだ。セフィロスの髪もこんな風だった。

 腰までとどく長い髪は、いつでもつややかに輝いていて……初めて触れたとき、心臓が破裂するのではないかと思うほどに緊張した。

 

 セフィロスはやはりセフィロスで……

 ヤズーたちは、また別の人間なのだ。少なくとも俺の中ではそうだ。

 

「ありがとう、じゃ、交代だね」

「え? 俺はいいよ、短いから簡単だし」

「洗わせてよ。兄さんの髪に触ってみたい」

 そういうと、いささか強引に、ヤズーは俺からシャワーをとりあげた。

「兄さんの髪、綺麗な色。それに可愛い。チョコボ色だね」

 

 ……俺は微妙に傷ついた。