とある日常の風景。 
〜コスタ・デル・ソル with 銀髪三兄弟〜
<翌朝の部>
 クラウド・ストライフ 
 
 

 

 

 

7:30

「おはよう、兄さん」

 そう言って、シャワールームから出てきた俺を迎えてくれたのは、やはりヤズーだった。

「ああ、おはよ……ふぁ〜……」

「シャワー浴びたくせに眠そうだね? 昨日、よく眠れなかったの?」

「う〜ん、カダとわり遅くまでしゃべってた。あいつ、一眠りした後だったから、けっこう元気でさ……」

「そうなんだ」

 ふふ、と微かに、ヤズーが笑った。彼らの前ではほとんど表情を崩さないが、俺とカダージュの仲が良好なのを喜んでいるようだ。

「朝ご飯、食欲無いなら、スープだけにする?」

「いや、食ってくよ」

「そう? じゃ、支度できてるから座って」

「ああ、悪い……」

 俺はぼんやりとした頭でそう応えた。

 

 

8:00

「ごちそうさま! ちょっと早いがそろそろ行くか」

 俺は、昨夜確認した地図を片手につぶやいた。依頼されているものは、小物ばかりだが今日は件数がかなりある。

「そう、じゃ気を付けてね。……ああ、兄さん、俺たち、今日で帰るから」

 何の前触れもなく、ヤズーが言った。

「ええッ なんで?」

「昨日、言ったでしょ?」

「はっきり『今日』とは言ってなかっただろ」

 なぜか俺は問いつめるような口調でそう言っていた。

 不思議そうな面もちでヤズーが俺を見ている。

「どうしたの、兄さん?」

「いや、何か、急だからさ……」

「ふふ、それじゃ、まるで帰って欲しくないみたいだよ」

「え? いや、別にそういうわけじゃ……」

「……最初はね、ちょっと顔見に行こうって、そんなカンジだったんだ。カダージュが言い出してね」

「…………」

「ミッドガルで初めて会ったときから、カダはずっと兄さんのこと気にしてた。あんまりアイツが兄さんのことばかり言うもんでね。あのタークスの人が居ない時を狙って、こうして訊ねて来たんだ」
 
「…………そうだったのか」
 
「正直、門前払いを食らわなかったのが意外だったよ」

「そりゃ……最初は驚いたけどな」

「そうだね、驚いてたよね。兄さん、目、まん丸くしてた。でも、斬りかかってこなかったよね」

「そ、そりゃそうだろ」

「まぁ、あれじゃァ、そんなヒマもなかったろうね」

 ヤズーが笑った。

 十日前、いきなりやってきた三兄弟。扉を開けると同時に、カダージュに飛びかかられたのだ。

『兄さん! 会いたかった!』

 などと叫ばれては、さすがに斬り捨てるわけにはいかないだろう。剣を抜く間もない出来事であった。

「なんだかここは居心地が良すぎてさ。慣れすぎない前に失礼するよ」

「……止める義理はないけどな」

 俺はそんな言葉しか言えなかった。

 そうだ、彼らはもともとここにいたわけではなく、招かれざる客、闖入者に過ぎない。いつの間にかこんなにも愛着がわいている自分自身に、俺は驚いた。

 

 

8:30 

「ふふ、兄さん、なんて顔してるの?」

「ちょっとさびしいと思ったんだよ。俺の方がお前たちといることに慣れすぎたみたいだ。十日ほどしか経っていないのにな」

「本当?」

「ああ。ま、確かにこの状態でヴィンセントが戻ってきたら驚くだろうけどな。でも、あいつなら、おまえたちと上手くいきそうな気がするけど」

「へぇ……そんなに信頼されてる人なんだ。なんだかうらやましいね」

「信頼……そうだな、そういうことになるのかな」

「ふふ。いずれね、その人にも会う機会があるんじゃないかな。今回はいささか性急すぎるよね」

「そうかもな」

「でしょ。さ、兄さん、いってらっしゃい。そして、さよなら」

 ヤズーが笑う。女性のようにきらびやかな容姿が、柔和にくずれる。

「ああ……またな。ふたりにもよろしく」

「うん。また来るから」

「ああ、そうしてくれ。……待ってるから」

「うん」

 ヤズーは頷いた。

 会話を続けていると切りがなくなりそうだ。もう会えなくなるというわけでもないのに。

 いや、会おうと思えば、これまで以上に簡単に会えるのに。

 

「兄さん」

「え?」

 背を向けた俺を、ヤズーの声が振り向かせる。

「兄さん、大好き」

「…………」

「いってらっしゃい」

 

 そういうと、彼は顔の横で小さく手を振った。


 
 
 
 
 

 終わり