〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
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 スコール=レオンハート
 

 

 

 

 

 

「……ん……げほッ! ごほっごほっ!」

 先ほど救った金髪の少年が、激しく咳き込む。

「クラウド、しっかりしろ!」

「げほっげほっ!」

「ジタン!水汲んで来たッス!」

 ティーダが小走りに、コップを抱えて走り寄る。もともと平衡感覚に劣るのか、ヤツが走る度にコップから水が少しずつこぼれている。

「ん……う……」

「クラウド、水だ。ゆっくり飲んだほうがいい」

 面倒見のいいセシルが、クラウドの身体を横抱きにして、その唇にグラスを宛がった。 『クラウド』という名なのか。初めて知った。

 まぁ、それはそうだろう。いかにコスモスの戦士とはいえ、何人いるのかさえ知らないのだから。

 『クラウド』と呼ばれた少年は、二三度大きく咳込むと、後は美味そうに水を飲み干した。

「……ゲホッゲホッ……ゴメン……迷惑……掛けた」

 彼は苦しげな声音で低くつぶやいた。

「いいんだよ。それより大丈夫ッスか? 他に痛いところとか」

「うん……大丈夫だよ。ええと、ティーダだったよな」

「そうッス。名前、覚えてくれたんだ!」

 嬉しそうにティーダが微笑んだ。笑顔一つで場の雰囲気を和らげられるのは、俺のように無愛想な人間から見れば、ほとんど特殊技能である。

「あの……俺……助けてくれたのって……」

「うん、彼だよ。スコール、来てくれよ」

 ……わざわざ俺を呼ぶことはないだろう、セシル。いちいち礼を言われたりするのは煩わしい。

 いや……だが、初対面の人間なのだ。あいさつくらいはした方がいいだろうか。

 俺はため息を押し隠し、セシルに支えられて身を起き上がらせている彼のところへ足を運んだ。

「……具合はどうだ?」

 軽く腰をかがめて、俺は彼に声を掛けた。

「あ…… レ……レオン……?」

 クラウドという少年は、海のような深いブルーの瞳を、大きく瞠って俺を見つめた。

「レオン……! レオンじゃん! よかった〜ッ!あー、超安心したァ!」

「うわぁッ!」

 俺は思わず声を上げていた。

 訳のわからない言葉を口走ると、彼は唐突に俺に飛びついてきたのだ。男のくせに、こんなふうに他人に抱きつくなぞ……羞恥心の持ち合わせがないのだろうか?

「なんだよー、もう、居るんなら早くそう言ってくれればいいのに〜ッ!」

 クラウドは、俺の懐に顔ごとを突っ込むと、ぐりぐりと頭を押しつけた。まるで、子犬が飼い主にじゃれつくように。

 ……な、何なのだ、この男は……!?

 俺たちは初対面ではないか…… 誰か知り合いと勘違いしているのだろうか?

 

「……すまないが…… 俺はおまえのことなど知らん」

 俺はしがみついてくる身体を押しのけてそう言った。年はそう変わらないのかもしれないが、身長やウエイトは俺の方が上のようだ。

「まったまたァ〜! もう、何言ってんだよ。俺、クラウドだよ!つまんないジョーダン言ってないでよ!」

「い、いや……だから……初対面だと……」

「もう〜、なんか怒ってんの? あっちの『クラウド』がなんかしたの? 俺は彼とは別人なんだしさ〜。八つ当たりされてもねェ〜 アンタがホロウバスティオンから、コスタ・デル・ソルに飛ばされてきたときは、いろいろ面倒見てやったでしょ!?」

 一歩的にしゃべりまくるクラウド。この男もティーダと同じくらいテンションが高い。

「いい加減にしてくれ! 俺の名はスコール。スコール=レオンハートだ。おまえのいうレオンとやらのことは知らない。ただの人違いだろう」

 やや強い口調でそういうと、クラウドはきょとんとした面持ちで俺を凝視した。

 そして、たっぷり十秒ほどの間隙の後……

「あ……あれ?」 

 と首をかしげるクラウド。

「レオン…… 若い…… まだ……あのレオンじゃないんだ……」

 とつぶやいたのであった。さらに彼の言葉を否定しようとしたとき、クラウドは自分の服装だの、傍らに取り外しておいてあったバスターソードを確認し……

「ああ……ッ やっぱり……!!」

 と呻いた。

 

 

 

 

 

 

「クラウド、大丈夫か? この世界のことで、何か知っていることがあるのか?」

 セシルが辛抱強くそう訊ねた。

 セシル……セシル=ハーヴィ。彼もまた、おのれの住まう次元から、この混沌の世界に飛ばされてきたコスモスの戦士なのだ。

 穏やかで物静かな語り口調…… 気遣いと気配りのできる繊細な性格の彼は、味方の誰からも慕われている。

 暗黒騎士とパラディンというふたつの属性を有する彼だが、俺から見れば、遙かに僧侶としての資質の方が強いと感じる。

「ううん……この世界のことについては全然わかんないよ。少しでも前から居た、アンタたちのほうがよく知っていると思う」

 そういうと、クラウドはよろけながらも立ち上がった。その危なっかしい様子に、ジタンが心配そうな目線を投げかけた。

「クラウド、無理しちゃダメッスよ」

「悪ィ……ティーダ。でももう大丈夫……」 

 そう応えると、クラウドはもう一度俺に向き直った。

「レオン……いや、スコールだな。アンタ、今、いくつだ?」

「……年のことか? それがなにか関係するのか?」

「いいから、答えてくれよ。いくつなんだ?」

「……17」

 正直に俺はそう答えた。ジタンだのティーダだのが、本当かよ!?というような視線を投げかけてくる。……なにか文句があるのだろうか? 俺が17才じゃいけないのか?

「マジすか!? スコール、17だったんスか! オレ、タメっすよ! なんか微妙に年くって……」

「ティ、ティーダ! いや……その……君は落ち着いているから。実年齢よりも多少上に見えるね」

 と、心優しいパラディンの戦士がフォローしてくれた。

 俺はひとつ大きなため息を吐き出すと、再びクラウドに顔を向けた。