〜 ディシディア ファイナルファンタジー 〜
 
<47>
 
 スコール・レオンハート
 

 

 

 

 なにげに周囲に目をやる。

 ここは……どうやら台所続きの居間らしい。

 俺はそこに置かれた、大きなソファベッドに寝かせられていた。手当をするのに、水回りが近いほうがよいと判断したのだろう。

「……セフィ……ロスは……?」

 もっとも訊ねたかったことを、ようやく口に出来た。

 自分の物とは思えないほど、じゃがれた声が出て、意識を取りもどしてから、強烈に喉が渇いているのを自覚する。

「セフィもさっきまでここに居たんだけどね。今は部屋に戻って休んでる」

 クラウドが言った。

 このあたりの気のきかなさは、いかにも彼だ。

 俺が一番知りたいことは、そういった話ではない。

「スコール。セフィロスさんの怪我も軽くはないけど、君ほど重篤じゃない。大きな傷は肩だけだね。血止めをして固定してあるよ。幸い骨に異常はないみたいだ」

 すぐに欲しい応えをくれたのはセシルだった。穏やかな物言いが、不安に満ちた心にしみる。

「そ、そうか……今、俺がこうしていられるのも彼のおかげなんだ。早く礼を言いにいかなければ……! ゲホッゴホッ!」

 咽せたのはヒリついた喉のせいであった。

「まぁまぁ、ちょっと待って。君はずっと気を失ったままだったんだからね。はい、これ湯冷ましの薬湯。冷たい物の方が気持ちが良いだろうけど、かなり失血してるから、このほうがいい。……クラウド、彼に飲ませてあげてくれるかい?」

 後半部は、ぴったりとくっついているクラウドにお願いした。

 なんといっても、彼はソファベッドの定位置から、微動だにしようとしないのだから。

「オッケーまかせろ! 身体上げるのキツイよな? 口移しとかでいい?」

 健康な青年男子なら、とても口にはできない申し出を、あっけらかんと発するクラウド。

 だが、彼は大まじめに言っているのだ。『お断り』するにも、細心の注意が必要となる。

「い、いや、もう大丈夫だ。さっきは目覚めたばかりだったから、身体がいうことを利かなかっただけだ」

「そうか? ま、あんまし冷たくない飲み物だし、口に入れたら俺も苦いもんな。おい、ティーダ、ジタン手伝えよ。向こう側からスコールを支えて起こせ」

 あくまでも自己中なクラウドだが、ティーダとジタンはもう慣れっこなのだろう。いや、むしろそういった態の彼の様子を、楽しんでいるようにさえ見える。

「いや……人手を借りずとも起きられる。この程度、たいしたことは…… 痛ッ……!」「ああ、ほら、スコール。無理しちゃダメっすよ! マジでヤバイんじゃないかって、みんなで言ってたくらいなんスから」

「そうそう。ラグナさんは、祈祷とかしちゃってたし、クラウドはヒステリー起こして、ライトニングに叱れてたし…… ま、もちろん俺らも相当心配したんだぜ」

 ティーダ、ジタンの順に言われて、返す言葉も無くなる。

「その……すまん。そこまで大袈裟なことになっているとは思いもよらなかった」

「いいっていいって。こうして生きてんだからさ。ま、今は素直にクラウドたちのいうこと聞いておけ」

 ジタンがそういうと、ふたりは十分すぎるほど丁寧に、半身を起こしてくれた。

 自分で起き上がったときとは異なり、ほとんど痛みを感じなかった。

 

 

 

 

 

 

「はい、スコール、カップ持てるか? それとも俺が……」

「大丈夫だ。自分で飲む」

 クラウドに最後まで言わせることなく、ハーブティのような淡い色合いの薬湯を啜った。

 

 ……薬湯というからには、やはり苦いものなのだろう。

 だが、今の俺は、砂漠で渇した旅人のように、いっきに貪り飲んでしまった。

 

「すげーな。よくそんなまずそうなの……」

 クラウドが眉をひそめて言う。

「喉が渇いていたんだ。……セシルすまないが、もう一杯」

「うん。まだたくさんあるから」

 そういうと、彼はさきほどよりも、大きな湯飲みに並々と注いできてくれた。

 『信じられない』という顔つきのクラウドをよそに、俺はそのもう一杯をも、軽々と飲み干した。

 ようやく人心地着いた気がする。

『魔女を倒した』

 という実感が湧き、それに呼応するかのように、肉体に血が巡っている感覚を取りもどした。

 クラウドたちとやり取りをしていても、フワフワとした浮遊感に囚われ、夢の中での出来事のようにさえ感じていたのだ。

 

 この世界と、実存する元の世界は別物……

 あの魔女が、元の世界でどうなっているのかはわからない。運良く同時に消滅してくれればいうことはないが、それはそっくりそのまま俺たちにとっても、該当してしまうことになる。

 つまり、今側に居てくれる彼らに、万一のことがあれば、その人物は元の世界でも消滅し、歴史が変わってしまうということだ。

 で、あるのなら、実世界での魔女の消滅は望まない。

 そこで、もう一度俺自身が、仲間と共にとどめを刺せばいい。

 

「スコール、どうしたの? 眉間にしわ寄せて。やっぱ苦かったんだろ」

 からかうように身を乗り出してくるクラウドに、なんとか笑みを返した。

 願わくば……彼も、セフィロスと、ふたたび不幸な関係に陥らぬように、と祈念した。