〜 a life of dissipation 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
 セフィロス
 

 

 

「あの……セフィロスさん?」

「ああ、その……これはまぁ、アレだ」

 物問いたげに、オレを見上げるガキへ説明の言葉を探した。

「ヴィンセントは、かなり神経質な男でな。オレの素っ気ない態度が気になったようで……」

「……セフィロスさんはぼくの想い人なのですか?」

 自分の言葉に重ね合わせるようにそう言われて、一瞬オレは戸惑った。

「こんなふうにあなたのことを綴ってあるなんて…… 大人のぼくはあなたに特別な思いを寄せているのでしょうか?」

「違う。そいつは誤解だ、安心しろ」

 違和感を抱かれないよう、間を開けずに返答した。

「さっきも言ったように、ヴィンセント……つまり、おとなになったおまえは、クソ面倒くさい神経質な男なんだ。オレが黙り込んでいると、おろおろと心配するような有様でな」

「…………」

「だから、オレとの関係を良好にしたくて、そんなふうに願い事を綴ったんだろうよ」

「…………」

 おとなしくオレの言葉を聞いているが、ワイン色の瞳は、だまされまいぞとじっと微動だにせず見つめてくる。

「……でも、この文章はそれだけだとは思えません。特に最後の一文なんて……」

「『愛して』はいろいろな種類の愛情があるだろ。母親みたいに面倒見がいい男だからな。おそらく親愛の情なんじゃないか」

 ……ああ、ヴィンセント。

 本当におまえは、厄介な男だ。デカイほうも小さいほうも、どうしてそう一途に向かってくるんだ。

 おまえの『愛して欲しい』は、そういう意味の愛ではないのだろう?

 家族愛や友愛に近い愛なのだろう?

 おまえがオレと支配人の関係に神経質になるのは、ただ単に『家族であるオレ』が、この家を捨てて、彼のところへ行くかも知れないという不安感なのだろう?

 そうではないのか? オレの解釈が間違っているのか?

 

 

 

 

 

 

「ぼく……あの、初めて逢ったときから、セフィロスさんのことが気になって」

 そう言われてドキッと胸が跳ねた。それは、神羅本社で、初めてクラウドを見たときの感覚に似ていた。

「ああ、そりゃアレだろ。オレのベッドに潜り込んでいたんだからな」

「そういうことじゃなくて…… なんだか、ぼく、セフィロスさんを見たとき、すごくなつかしい感じがしたんです」

「なつかしい? オレとおまえは完全に初対面だろ。大人ヴィンセントとはしょっちゅう顔つき合わせていたがな」

「セフィロスさんは、ぼくのことをどう思いますか?」

 このあたりは子供の率直さだ。物静かで落ち着いた立ち居振る舞いをしていても、訊ねたいことをストレートに口にすることにためらいがない。

「……チビ・ヴィンセントだろ」

「そういうことではなくて。なにか感じませんか? ぼくがあなたに抱いたような感覚を……」

「悪いがオレは無神経なようでな。そんな繊細な感情は持ち合わせていない」

 素っ気なくそういうと、小さなヴィンセントは、ふぅっとため息を吐いた。

「そうですよね。おかしなことを言ってすみませんでした」

「…………」

「この手紙……未来のぼくが書いたものだから、大人のヴィンセントにとって、セフィロスさんは特別なんだと思いました」

 ……やめろ。おまえの特別はクラウドなんだ、オレじゃない。

 それどころか、一時とはいえ、おまえたちを敵に回し、世界を破壊しようとした男だ。

「安心しろ。未来のヴィンセントは、周りの連中、皆に愛されている。その中でもきちんとおまえに似合いの人間を見つけ出すことができるはずだ」

「はい……」

「わかったら、もう寝ろ。その手紙はもとの場所に戻しておけよ」

 そう言うと、素直にコクンと頷くが、目線だけはオレから逸らせない。物言いたげな眼差し、縋るような……それでいて、どこか蠱惑的な光を宿したそれに魅了されそうになる。

 ……やはり子供は苦手だ。大人ならば、こんなふうにぶしつけに見つめてきたりはしない。

「どうした、さっさと寝ろ。ここは昼と夜の寒暖の差が激しい」

「はい…… あ、あの…… セフィロスさん、ぼく……」

 聞かずともわかる。昨夜と同じように、オレに側に居て欲しいのだろう。

 いくら大人びて見えても十才をちょいと超えたばかりのガキだ。見知らぬ場所で眠りにつくのは心細いに違いない。

「いいから、横になってろ。……イロケムシを呼んできてやる」

 そう言い残すと、オレは振り切るように部屋を出た。