End of Summer
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<8>
Interval 〜04〜
 クラウド・ストライフ
 

 

 

  

 

 セフィロスの視点から見た自分の姿……目線がひどく下になるのは致し方ないとしても、なんて小さく見えるのだろう。
 
 確かに俺はセフィロスやヤズーたちに比べれば、ずっと背が低いのはわかっていた。だが、平均並みのレベルではあるし、きちんと鍛えているから軟弱に見えることはないと思っていた。
 
 いや、むしろけっこう出来た身体になりつつあると自負していたのに……

 セフィロスの目線から見た俺は、なんて小さく幼く見えるのだろう……

 

「……なんだ、クソガキ。自分の身体をジロジロ見てどうするんだ?」

「…………」

「おい、クラウド?」

 と、『セフィロス』が、こちらに向かって呼びかけた。

 不審げな彼に、一呼吸置いてから応える。

「……ねぇ、セフィから見るとさ……俺ってすごく小っさく見えるね」

「はぁ?」

「なんかさ……セフィの身体になって、自分のこと見ると……ホント、子どもみたい」

「おまえは昔からガキっぽかったろ」

 やや呆れたように『セフィロス』は吐き出した。

「昔は本当に子どもだったんだから当たり前だろ。……でも今そういう風に見えるのは……なんかショック……」

「はァ? 伸びなかったんだから仕方ないだろ、そんなこと。牛乳飲めなくてイチゴミルクばっかり飲んでるからだ、ガキが。ホレ、退け。冷える」

 俺がそれなりのショックを受けているにもかかわらず、セフィロスはさっさと自分自身の身体を押しのけて、バスルームに姿を消した。

 

「あー、もぉ、落ち込むなァ!」

 乱暴にゴシゴシと髪を拭い、俺はバスローブ一枚を引っかけて浴室を後にした。

 もちろん、このローブもキングサイズのとても大きなものだ。セフィロスの長い腕、均整の取れたやはり長い脚……引き締まった腹……そして厚みのある胸……どこひとつでも難癖のつけようがない、完璧な肉体……

 ……俺は本当にこの人の恋人だったのかと、今さらながら元の恋人の美しさに瞠目するような気分だった。

 

 

「セ……あ、い、いや、『クラウド』……着替えを……」

 背後からヴィンセントに呼びかけられ、俺は物思いを中断させられた。

「あ、ありがと、ヴィンセント」

「まだ髪が濡れている……風邪を引くぞ、『クラウド』」

 そういうと、手にしていた洗い立てのタオルで、髪をやさしく拭ってくれた。彼も夜着にガウンを羽織っているところを見ると、すでに風呂を済ませ、居間でくつろいでいたのだろう。

 

「ほら……冷えると身体に毒だ……」

 やさしい微笑を浮かべるヴィンセント。昨日は外見がセフィロスになってしまったせいか、あまり側に寄ってくれなかったが、今日はいつもと変わらず接してくれる。

「ねぇ、ヴィンセントッ!」

 濡れてしまったタオルを持っていこうとする、彼の細い腕をがっしとばかりに、俺は掴み締めた。

「あ……痛ッ……」

「あ、ご、ごめん! 加減がわからなくて……」

「……あ、ああ……大丈夫だ」

「ごめん……」

「いや……なんだ、どうしたのだ? そんな顔をして」

 少し困ったように首を傾げるヴィンセント。きっと俺は泣き出しそうな面もちをしていたのだろう。

 ……泣き出しそうな『セフィロス』。確かにヴィンセントが困惑するのも理解できる。

「う、ううん……なんでも……ない」

「……クラウド……?」

「ご、ごめんね。あの、ホント、腕、平気?」

「ああ……そんなことは……何ともないが…… どうかしたのか?」

 俺は、尚も心配そうに言い募るヴィンセントを見下ろした。

 そう『見下ろした』のだ。セフィロスの身長ならそれが可能だ。いつも見上げてばかりいるヴィンセントを、見下ろすことのできるセフィロスの身体。

 

「……クラウド……?」

「ヴィンセントって、やっぱ綺麗だね。それに細くて……折れそうだ」

「な、なにを……急に……」

 頬を赤らめるヴィンセント。

「うん……なんかさ、セフィの視点から見ると、よけいにそう感じる」

「……そ、そんな……ことは……ないと思うが……」

「やっぱ、セフィロスってカッコイイよね。背、高くって、筋肉ちゃんとついててさ。顔も身体も大人の男って感じだし……そんでもやっぱしすごく整ってるから。お風呂入って鏡見てたら、つくづくそう思ったよ」

「……ああ、そうだな。セフィロスはとても綺麗な人だと私も思う」

「あ〜あ、いいなァ」

「……? どうしたのだ? おまえだとて、とても整った容姿をしているし、きちんと身体も出来ているし……」

「身長……」

 ボソリと俺はつぶやいた。

「身長だって、別に低いというわけではないではないか。それよりも輝く金の髪や、海の色の瞳など、おまえは美しいところをたくさん持っている。誇るべきだ」

 大げさな物言いのヴィンセント。だが、本心からそう言ってくれているのが、すごく嬉しい。

 

「うん。ありがと、ヴィンセント」

 俺はコクンと頷いてみせた。

「……クラウド、私はこれまでのおまえをとても愛らしいと……美しいと、そう感じてきたが、例え姿形が変容しても中身までが変わるわけではない。私は『クラウド』のことをとても大切に思っている」

 めずらしくも多弁なヴィンセント。

 きっと、俺が今の状況に不安を抱いていると先読みしているのだろう。気を引き立てようと、一生懸命言葉を捜してくれている。

 やさしいヴィンセント。自分のことよりも、他人のことを思いやれる慈しみ深いヴィンセント。

 

 ……俺は時たま不安になるよ。

 アンタのやさしさが、俺だけではなく、他のヤツらに向けられているとき……他の誰かのために必死になっている様子を目の当たりにすると、狭量な俺の心はズキズキと痛んでくる。

 アンタの、そのやさしさ……慈悲深さを愛したはずなのに……

 それが他に向かうと嫉妬してしまう。

 特にそれがセフィロスや…… そうなんだ、セフィロスのように、ひどく優れた人間に向けられているとき、俺はものすごく不安になる。

 

 セフィロスとヴィンセントの因縁は深い。

 かつて、ヴィンセントが愛した女性が産んだのが、セフィロスなのだから。

 

 あの一件……DGソルジャーの目論見を阻止した、久々の大事件のとき、セフィロスが必死にヴィンセントを救おうとした姿が目に焼き付いている。

 またヴィンセントも、最期の最期までセフィロスと一緒に居たらしい。だが、それはヴィンセントの本意ではなく、彼は何としてでもセフィロスだけは、巻き込みたくなかったと泣き笑いのような表情でつぶやいていた。

 

 ……もし……セフィロスが、ヴィンセントを必要としたのなら、彼はさしのべられたセフィロスの手を取ってしまうのではないだろうか。

 ヴィンセントのセフィロスへの想い……贖罪だと本人は言うが、それ以上に強い絆を、あの事件で見せつけられたような気がしていた。