〜 銀 世 界 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 支配人
 

 

 

 

『ストライフ家の人々』

 と、書くと、まるで小説のタイトルのようになってしまう。

 僕は、セフィロスとのことだけでなく、少なからず彼ら一家と関わりをもってはいるのだが、まさかこんな形で、窮地に救いの手が差し伸べられるとは思わなかった。

 

 先週から、コスタ・デル・ソルでは考えがたい異常気象に見舞われた。

 それこそ、連日TVで報道されまくるような。

 ……もっとも、そのTVでさえ、数日で見ることはかなわなくなったが。

 店を開くどころか日々の生活もままならないような状況は初めてであったが、どこか僕は冷静だった。

 生まれてから二十余年、物心ついてから、他人に期待するということをせずに生きてきた。そう言った心持ちで居ると、どのような状況に対してでさえ、どう動けばよいのか、ほとんど本能のごとく推察することができるのだ。

 それゆえ、この家の人たちに、こんなふうに損得抜きで手を差し伸べられたのは、望外であり、ある種の感動さえ覚えたのであった。

 

「おはようございます」

 この家に来た翌朝…… あまり早い時間に起き出してくるのは、迷惑と考え、頃合いを見計らって、居間に行った。

 案の定、ヴィンセントさんはすでに起き出していて、キッチンに立っており、ヤズーはちょうど風呂から出てきたという風情だった。

 

「お、おはよう…… もっとゆっくり休んでいてくれていいのに…… 昨日の今日なのだから疲れただろう?」

 ヴィンセントさんが心配そうに声を掛けてくれた。

 この人は、社交辞令でなく、本当にそう思って口にしているのだ。

 ただでさえ大所帯で大変なところに、よけいな居候が増えたというのが事実であるはずなのに、建前ではなく、本音で我々の来所を喜んでくれている。

 ……正直、僕には理解しがたい思考だ。

 

 

 

 

 

 

「いえ、十分休ませていただきました。ヴィンセントさんのほうこそ、お疲れでしょう」

「い、いや……私はそんなこと……」

「申し訳ございません。ただでさえ、面倒を見なければならない方々が多いというのに」

 いささかおどけた調子で言ってみたのだが、ヴィンセントさんは言葉通りにとってしまったようだった。

「いや……そんなことはないのだ。いつも私の方が迷惑を掛けてしまう側で…… 家の中のことくらいしか、やってあげられることがなくて…… この前は君まで巻き込むような騒動になってしまって…… 一度、きちんと相対して謝罪したいと思っていたのだ」

「え、あ、あの…… そう言うことでは……」

「まぁねェ、ホント、ウチの連中はヴィンセントいないと生きていけないからさァ。兄さんもセフィロスも、面倒掛けまくりなんだけどォ」

 上手い具合に、フォローに入ってくれたのは、機転の利くヤズーであった。

「でも、なぜかヴィンセントって面倒掛けられるとイキイキしちゃうんだよねェ、ホント、不思議。だから、支配人さんもこの家に居る間は甘えればいいじゃん」

「いや……そんな……」

「普段はひとり暮らしで、仕事も家のこともって毎日なんでしょ。たまには大家族で持ちつ持たれつっていうのも悪くないよ。ねぇ、ヴィンセント?」

「そ、そのとおりだ。ヤズーの言うとおり…… そうか……君は誰にも頼らずひとりで生活して、自分のお店まで持って……」

 ヴィンセントさんの眼差しが、徐々に形容しがたい煌めきを帯びてくる。

「本当にすごいのだな、君は…… そんなに年若いのに……しっかり自立していて……思慮深くて、思いやりがあって……」

「い、いえ、あの…… 私はそんなに立派な人間ではありません。崇高な志をもって生きているわけでは……」

「いや、謙遜する必要はない。志などというものは、大声で口にするものではないのだ。ただ、当たり前に日々の糧を得て、定められた生を全うしてゆくこと…… 人としてなにより尊いことだと私は思う……」

「ヴィンセントさん……」

「やれやれ、朝っぱらから説教くせーな。おまえは」

 僕の頭の上から、この場の誰のものでもに声が飛んできた。つづいて、長身のセフィロスがぐいと顔を出した。

 起き出した時分には、彼はまだぐっすりと眠っていたと思ったのだが。

「おや、今日はいつもより早いね、セフィロス」

「おまえも、クソ固い話題に加わってんじゃねーよ、イロケムシ。ああ、寒い、ストーブ付けるぞ」

「お風呂入ってきたんでしょ。ま、いいけど。でも、ガスも残り少ないからね〜」

「チッ、わかってる。……腹減った、メシ」

「あ、ああ、すまない。すぐに……」

「ヴィンセントさん、手伝います。指示をしてください」

 さっさと腕まくりしてエプロンを付けてしまう。

 彼はすまなさそうに眉をひそめたが、さすがにそれ以上、僕を止めはしなかった。