〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<109>
  
 ヤズー
 

 

 

 

「ジェネシス……!」

 ヴィンセントの細い腕に力が込められる。

 普段なら、他人に抱きつくことなど……それが、彼の恋人であるクラウド兄さんに対してでさえ、まずあり得ない。兄さんのほうから、ヴィンセントに飛びつくのは日常茶飯事だが。

 ましてや、我が家の住人でもないジェネシスに対しては、とても丁寧で落ち着いた対し方をしているのに。

 ヴィンセントは、びしょ濡れの姿のまま、ジェネシスにしがみつき、決して放そうとはしないのだ。

「ジェネシス……! よかった……居てくれて……」

「女神? 俺はずっとここにいるだろう? 君の側にこうしているじゃないか」

 小さな子供の言い聞かせるように、ジェネシスがささやいた。一刻も早く落ち着かせて、安静にさせたいと考えているのだろう。

「大丈夫だよ、何も怖いことは起こっていない。悲しいことはもうないんだよ」

 ヴィンセントの濡れた髪を撫でながら、何度も穏やかにくり返す。

 ジェネシスは、乱暴にならない力で、そっとヴィンセントを立ち上がらせた。俺が新しい厚手のローブを片手に待ち構えていたからだ。

 濡れて肌に張り付いた薄手のほうを、手早く脱がせる。彼が恥ずかしがって抗わないよう、ほとんど肌を露出させず、巧みに新しいものと交換する。

 幸い、ジェネシスが側に付いているせいか、ヴィンセントはおとなしくしたがってくれたのだ。

「ヤズー、このまま部屋に連れていくよ。横にならせたほうがいいと思う」

 ジェネシスはひょいとヴィンセントを抱き上げた。彼の方は為すがままだ。

「そうだね。……お願いするよ、ジェネシス」

「後で鎮静剤を頼む」

 その言葉だけは、小声で俺に耳打ちされた……

 

 

 

 

 

 

  ……数日後……

 

「ねぇねぇ、ヴィンセント。俺の出番はまだ?」

「あ…… そ、そうだな……おまえはまだ修習生だったから」

「ちぇ〜っ! あの頃、俺まだ小さかったからなぁ」

「おまえは今でもちっこいだろ」

「うっさい、セフィ! 混ぜっ返さないでよ!」

「……しかし、女神。どうも、君の話を聞いていると、ツォンがずいぶん、でしゃばっているね。非常に不快なんだが」

「あのなァ、てめぇら…… 言っておくが、夢の中の話しなんだぞ? いちいち一喜一憂するな、くだらねェ……」

「とかなんとかいって、セフィロスだって自分の出番気にしてるくせに〜ッ!」

「うるせェ! このクソイロケムシ! ぶん殴られたいか!」

「セフィロス、落ち着けよ。図星をつかれて怒り出すなんて、子供みたいだぞ」

「こ〜のォォォ、変態詩人!よくも〜ッ!」

 どれが誰のセリフか、そろそろわかってもらえるだろう。

 あの日から、もう三日ほど経つ。

 ジェネシスに部屋に運ばれて、鎮静剤で眠らされた後……

 次にヴィンセントが起き出してきたのは、なんと翌日の朝だったのだ。

 正直、鎮静剤の分量を誤ってしまったのではないかと不安になったが、そういうわけではなかった。

 その日の朝、起き出してきたヴィンセントは、常と変わらぬ落ち着きを取り戻し、俺たちを安心させてくれた。

 

「でもさァ、心配したよ。仕事から帰ってきたら、ヴィンセントが寝込んでるって聞いてさ〜。速攻でヤマダー呼びに行こうと思ったよ」

 兄さんがそう言った。冗談めかした物言いは、すでにヴィンセントの調子が戻っているからこそ言えることだろう。

「ああ、すまない…… また、おまえに迷惑をかけてしまった」

 穏やかにヴィンセントが謝罪した。

「違うよ! 謝る必要なんて全然ないってば! でもさー、俺が居ない時だったから、よけいに気になるの」

「俺とジェネシスがついていたからね。何の問題もないよ、兄さん」

「そこが一番の問題だろーがッ!」

 即座に突っ込む兄さんを、ヴィンセントがたしなめる。

「クラウド、彼らにそんな言い方はやめてくれ。……ヤズーもジェネシスも…… 驚かせてしまって本当にすまなかった」

 それから、わずかに困惑した風な面持ちで続ける。

「とても……とても長い夢で……不思議なほど実感があって…… 混乱してしまったんだ」

「ま、確かにね。こんなにも細部まで記憶しているってのがすごいよ。……それにしても、あの主任さん、大活躍じゃない?」

 俺は、オールバックに撫で付けた、黒髪長髪のタークスの主任を思い浮かべた。

「ああ……そう。ツォンはとても親切だったな……」

「他意がなければよいのだがね」

 不満そうにジェネシスが口を挟む。

「なぁ、オレ様はどうだった? まぁ、アレだ。さぞかし優秀な軍人だったんだろうな」

 フツー自分でいう?と、俺に耳打ちする兄さん。

「あ、ああ、そうだな…… 君は、立派なソルジャークラス1stの剣士だった」

「そうだろ、そうだろ」

「とても大きくて、強くて、凛々しくて…… よく食べて……いたな」

「今と同じじゃん」

 ……そして兄さんは、ボコッと後頭部をセフィロスに叩かれていた。