〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 やりかけの書類をデスクに並べる。

 朝は能率がよい。片端からてきぱきと片付けてゆくことにする。

 私の仕事は軍事部門の部門長という立場なのだから、極力現場も見て回りたい。何より目下、もっとも懸念されるのは、LEVEL4地域のモンスター調査と、さらに激化しつつあるテロリストたちだ。

 

 今の社会、神羅の存在は『必要悪』になってしまっている。

 魔晄エネルギーが、ここまで人々の生活に浸透した今となっては、エネルギーとしての利用それ自体に言及する時期を過ぎている。もはや魔晄エネルギーがなければ、日々の生活すら立ちゆかない状況だ。

 魔晄エネルギーは星のエネルギーであり、無理な活用を続けていけば枯渇する危険さえあるのだ。だが、今それを説いたとて……

 

 アバランチと呼ばれるテロリスト集団、そしてウータイを中心とした、反神羅勢力。

 彼らは、魔晄エネルギーを我が者顔で利用する神羅に、強い反発を覚えるのだろう。だが、もし……いや、あり得ないことなのだが、仮に、だ。

 仮に、神羅カンパニーが倒れたとしたら、いったいどこのだれが魔晄エネルギーの統括管理をするというのだろうか?

 アバランチや、ましてや辺境の地であるウータイの者たちに、それを理想的に活用することができるのだろうか?

 反神羅勢力と呼ばれる彼らでさえ、日々の生活の中に、魔晄エネルギーの恩恵を受けているのだから。もはやこの地で生きるすべての人間にとって、魔晄エネルギーはなくてはならないものになっている。

 だが、テロリストの攻撃を無視するわけにはいかない。大規模な抗議行動で、多くの人名が失われたのもまた事実なのだ。

 

 少し真面目にそんなことを考えていた時である。

 扉の向こうのざわめきで、私は気を取り直した。広い執務室は廊下とタークス本部と、ふたつの向きにドアがあり、廊下側にはアルコーブがついているのだが、言い争うような声が聞こえたのは、廊下のほうからであった。

 しばらく迷ったのだが、私は席を立った。

 まさかいきなり59階に侵入者もないだろう。落ち着いて執務室のドアを開けると、目の前にあったのは、薔薇の洪水であった。

「え……あ、あの……」

「おはよう、女神!」

 ひどく懐かしくさえ感じるこのフレーズは……

「ジェ……ジェネシス……? お、おはよう……あの……これ……」

「朝一番で君の顔が見たかったんだ。摘みたての薔薇を携えてね。どうしても夢ではないと確認したくて」

「この花……私に……? あの……ありがとう……」

「ジェネシス! いい加減にしたまえ! こんな時間から補佐官殿を悩ませるなど……」

 ジェネシスの肩を掴み締めるツォン。

 ……ああ、なるほど。

 さっきの言い争いは、ツォンとジェネシスだったのだ。

「私はラザード人事統括に厳重に抗議するぞ!」

「無粋な……下がっていてくれ、ツォン。君に命令されるいわれはない」

「私は補佐官殿付の人間だ! 自己中心的な感情で、彼の気持ちを乱すことを許せると思うか!」

「あ、あの……ふたりとも……落ち着いて……」

 私は必死に止めようと頑張ったが、両人とも私よりも背が高く体格がいいのだ。

「ああ、女神。君のような繊細な人に、こんな朴念仁を押しつけるなんて……! 副社長はどうにも見る目がないな」

「なんだと、ジェネシス。もう一度言ってみたまえ!」

 普段は冷静なツォンなのだが、ジェネシスにはひどくつっかかる。馬が合わない二人ということなのだろうか。

「ふ、ふたりとも! そんな大声で…… ほら、周りの人が吃驚してしまう。さぁ、部屋に入ってくれたまえ。花を飾って……お茶を淹れるから」

「ヴィンセント! そんな悠長な……!」

 と、ツォンが柳眉をつり上げる。

「ありがとう、女神。でも楽しみはまた今度にとっておくよ。今日、ここに君が居たと言うことは、昨夜の出逢いは都合のいい夢じゃなかったということだ」

 ジェネシスは花束を抱いた私の頬に触れ、どんな女性の心さえも溶かしてしまそうな笑みを浮かべた。

「え、あ、ああ、それはもちろん。私はいつでもここにいるから…… 用事があれば……」

「ヴィンセントッ! いけませんッ! この者を相手に甘やかした態度を取れば、貴方の身が危険ですッ! ……こらっ!なれなれしく触れるなッ!」 

 終いの言葉は、ジェネシスに向けて発し、彼は私の頬に触れていたジェネシスの手を、乱暴に叩いた。

「やれやれ。君に見つかってしまったのが運の尽きだね。……興ざめだよ、ツォン」

「私はごく当然のことを口にしているまでだ! 早く下がりたまえ!」

「では失礼しよう。……君との出逢いが現実で安心したよ、ヴィンセント」

 と、早口気味にそういうと、彼はそのまま私の頬に口づけた。

 チュッという音がしたから、私はびっくりして頬に触れた。

「ジェネシス……! 貴様……!」

「ではね、失敬!ヴィンセント。……それから、無粋なバトラーさん」

「この……ッ!」

「ツ、ツォン! 落ち着いてくれたまえ」

 身を翻したジェネシスに、尚もつかみかかろうとするツォンを、私は慌てて止めた。

 

 ……やれやれ、夢の中とはいえ、今日もなんだか大変な一日になりそうだ。