ハローベイビー
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜
<16>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

「……君の話は理解した」

 ヴィンセントは静かな……それでもしっかりとした声でそうつぶやいた。

『っつーわけで、迎えに行くからサ……』

「レノ。君の提案どおりに動こう」

『え……?』

(えええッ!ちょっ……ヴィンセント!何言い出すのーッ!)

 慌ててヴィンセントを止めに掛かる。本当なら携帯電話を奪い返したいところなのだが、彼相手に乱暴な真似はできない。

「……その方がこの子にとって安全だと思われるからだ。君がこの家に赤子を迎えにくることを相手が予測していたとしたら? その後を狙われたら、君も無事では済むまい。DG相手に子どもひとり守りながら応戦するなど並大抵のことではないぞ」

 ヴィンセントは理由を説明した。きっとそれは傍らで、やきもきしている俺に聞かせるためでもあったのだろう。

『……いーんスか? 協力してもらって?』

 半信半疑といったレノの声。

「……ああ。私はクラウドの……その仲間であり同居人だ」

(ちがッ!! 恋人ッ!恋人ッ!)

(うるせぇッ!クソガキ!)

(ちょっ……静かに!ちゃんと聞いておいて!俺たちも動くんだからね!) 

 ヤズーの叱責に、カダージュとロッズも電話のやりとりに一層注意する。

「レノ。ホテルの場所を教えてくれ。子どもを連れてクラウドに行ってもらう。……その後で、敵をこの家におびき寄せてくれ」

(ちょっ……ヴィンセント!?)

 驚く俺に一瞥も寄越さず、ヴィンセントが続ける。

『だが……相手はDGだぜ? アンタは強いんだろうけど、どれくらいの頭数でやってくるかもわからねェのに……』

「いいから言葉どおりに」

『その辺別荘地だろ? 民間人とか……』

 意外にもこまやかな気遣いをみせるレノ。

「大丈夫だ。この時期、別荘を利用する人々は少ない。……それに……他にも仲間がいるのだ。君はただこの家に連中を呼び寄せるよう手はずを整えてくれるだけでいい。こちらには来る必要はない」

『……わかった。アンタが言うとおりにしよう』

「……信頼してもらえて嬉しく思う」

『ハッ、ここまで世話になっているんだ。アンタの言うことは信じるぞ、と』

「……君も十分気をつけてくれ。ではホテルの場所を……」

 そう促すと、レノは説明を始めた。やや神経質な細い字でヴィンセントがメモをとる。……なるほど、セントラルの五つ星ホテルだ。ここからそれほど離れているわけではない。ホテルの代表の名は異なるが、おそらく神羅が出資しているのだろう。

 

「……わかった。では……」

 ピッとヴィンセントが電話を切る。

 思い詰めような面持ちで俺たちを見つめた。

「……すまない、皆……勝手なことをして」

 掠れて消えそうな声で謝罪する。

「いや、おまえにしては上出来だろう」

 ポイと新聞をラックに放り投げて、セフィロスが立ち上がった。妙に楽しげな物言いである。

「セ、セフィロス……?」

「邪魔なガキは別の場所に移し、気になるDGどもを一掃できる良策だ」

「……そう、だね。赤ちゃんいないなら、多少暴れてもどうってことないもんねェ」

 とヤズー。

「……ああ。この子だけは安全な場所に……そう思って」

「やさしいヴィンセントらしい」

 クスッと微笑んでヤズーがささやいた。

「よし、時間が惜しい。さっさと準備をしろ、野郎ども!」

「……なんか楽しそうだね、セフィ」

 皮肉っぽく言ってやったが、セフィロスはまたもやフンと鼻で笑っただけだった。

「退屈しのぎにはちょうどいい」

「まぁねェ、最近暴れていないもの。DGの残党相手なら、思う存分戦えるね。あー、ダイエットになるかなァ」

「ねぇねぇ、ヤズー! 僕たちも手伝うからね!」

「そう!この前は俺、蒼のアスールやっつけたんだから! フツーのDGなんか目じゃないもの!」

「なんだよ、ロッズ! 僕が協力したからだろッ! ロッズひとりで倒したわけじゃないじゃん!」

「カダは怪我して使い物にならなかったくせに!」

「なんだとッ!」

「あー、ほらほらよしなさい、ロッズ、カダ。ふたりとも頼りにしてるからさ。赤ちゃんのために頑張ってくれよ」

 言い争いになるふたりを上手い具合に仲裁し、ヤズーはスッと立ち上がった。

 ……綺麗な顔が妙に生き生きと楽しげだ。こっちも久々の刺激を悦んでいる風情である。

 だが、待ってくれ。納得いかないことがある!!

 

 

 

 

「ねぇ、待ってよ、みんな! 俺だけ赤ちゃん連れてホテルに行けっていうのッ!? それって一番安全な役じゃん! 納得いかないよ!」

 俺は勢いよく椅子から立ち上がった。その拍子に茶器がテーブルで踊る。

「何言ってるのよ、兄さん。『一番大事な役』の間違えでしょ? その子の安全が第一なんだから」

「そ、そりゃ……そうだけど」

「バーカ、油断するな、クソガキ。預け先のおまえの家がコスタ・デル・ソルにあるのが知れれば、同地のホテルだって安全とは言い切れないんだぞ。この家より多少マシって程度だ」

 部屋から持ち出してきたマサムネをいじりながら、セフィロスが言った。

 ……確かに、それはそうだろうけど。

「それにさ、俺たち神羅の連中に会うわけにはいかないんでしょ? ぶっちゃけ俺はそれも面白いと思ってるけど、面倒にはなるよねェ」

 そうなのだ。

 セフィロスおよび、三兄弟の消息を、神羅の連中に知られるのはまずい。DG事件を解決したのは、実は俺たちというよりも、むしろセフィロス始め三兄弟とヴィンセントだ……なんて言ってたら、連中、すっ飛び上がるだろう。

 セフィロスに言わせれば、きっと「別におまえらのためにしたわけではない」ということだろうが、結果的にこの星をオメガの厄災から救ったのは彼らなのだ。

「……俺は……話せばわかるような気がするけど。レノやルーファウスなら」

「あー、よせよせ、面倒だ。厄介なことは御免だ」

 ひらひらと片手を振ってセフィロスが言った。この人にとっては、もはやルーファウスだの神羅だのというのは興味の対象外なのだろう。

 

「こちらに誘導すると言っていたな。連中の仕事は迅速だ。一時間も待たされないだろう。さっさと用意をしろ、クソガキ」

「……わかったよ」

「それから、ヴィンセント」

 セフィロスは傍らのヴィンセントの声をかけた。

「……え、な、なんだろうか?」

「おまえもクラウドと一緒に行け」

「え……ッ? だ、だが……」

「いいから言う通りにしろ。DGの雑魚連中なんざ、オレひとりでも十分だ」

 ケッと口唇をゆがめてセフィロスが笑う。

「……セフィロス……」

「クラウドひとりでは心許ない。もともと連中の目的はそこの赤子なんだからな」

「ちょっ、アンタ、言いたい放題だね」

「事実だろ?」

「ううう〜〜〜」

「うなるな、クソガキ。オレ様はいつでも正しいことしか言わん」

「エッラソーに。ヴィンセントにおむつ取り替えてもらったくせに!」

「てめェ! ぶん殴られたいのかッ!」

「あー、もう、ほら、よしなさいよ。時間ないんだからね」

 と、ヤズー。彼も愛用の銃……一見、剣にも見えるベルベッドナイトメアを手に取った。
 
「……ねぇ、ヴィンセント。俺もセフィロスの意見に賛成だよ。赤ちゃんについていてあげて?」

「ヤズー……だが……」

「セフィロスも言ったように、いくらDGとは言っても雑魚相手なら俺たちで十分だよ。幸い、人も少ない時期だし。ご近所メーワクにならないよう上手くやるって」

「…………」

「その子、ヴィンセントに一番懐いているじゃない? 親と引き離された上、ようやく慣れたあなたの姿まで見えなくなっちゃったら可哀想だよ。……さ、これ、山田先生からもらった薬。忘れないで持って行って」

「……わ、わかった」

「うちのことは僕たちに任せて!」

 ぴょこんと頭を出して、カダージュが言った。傍らのロッズもコクコクと頷いている。

 わずかな間隙の後、ヴィンセントは小さく頷き、カダの額に口づけた。

「……わかった。必ずこの子を守るから……カダージュ、ロッズ、ヤズー……十分気をつけてくれ。……セフィロス」

「なんだ、さっさと行け、ホレ!」

「あ、ああ……わかった。迷惑を掛けるが……あの……頼りにしている」

 なんでそこで頬染めんの〜〜ッ!?っと怒鳴りたくなるが、今は状況が状況であった。さすがにそこまで俺だって大人げなくはない。

「どうか……怪我などしないよう……気をつけて……」

「わかってるわかってる。おまえらこそ気を抜くな。迎えが到着するまで油断するなよ」

 セフィロスはヴィンセントと俺にそう告げたのであった。