嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<10>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

「どうして、俺には黙ってたんだよ……ッ! 仲間だろッ!」

 

 ……例の作戦会議からわずか2日後……俺はセブンヘブンズに居た。

 困惑顔のティファ、プカプカたばこをふかしっぱなしのシド……そして腕組みしたバレットに、ひとり別枠のような顔つきで菓子を貪るユフィ。

 彼らの前で直談判をするのが、俺の役割だった。

 

「早く状況を教えてくれよ!DGとの闘いってどんなカンジになってるの? ヴィンセントは?ヴィンセントはどう動いているんだよッ!今、どこに居んのッ?」

 俺は怒濤の如く詰め寄った。

「……だって仕方ないじゃん。ヴィンセントが黙っててくれって言うんだから。狙いは自分なんだからクラウドには言わないでくれってさ」

 ひょいと片手を上げ、ユフィが宣った。いかにも俺に詰め寄られるのが心外だと言わんばかりに。

「だからってホントに黙ってるヤツがあるかよっ! もしかして、アンタら俺に一言も言わずに事を構えるつもりだったのか!?」

「……ヴィンセントがものすごく必死に頼むからさ……黙っていてくれって……私もクラウドには話すべきだって言ったのよ? それにDGだなんて……相手が相手だし……どうしてもクラウドの力が必要だって……」

 ふぅとため息をつきながら、ティファがつぶやく。

「だろっ! だったら……」

「だからぁ。もう本当にヴィンセントの頼み方が必死だったのよ。フツーじゃないっていうか。……クラウドに弟ができただの子どもがいるだの、怖いけどやさしいお兄さんも居るから……とにかく知らせてくれるなって。ようやく落ち着いたんだからって……コスタデルソルにそっとしておいて欲しいって繰り返すから……」

 ……ちょっ……なんだよ、子どもが居るだのコワイお兄さんだのって……想像がつかないわけじゃないが……ヴィンセント……ごまかすにしても、もうちょっと言葉を選んでくれ……

 

「そうそう、あのツラで泣きべそかいて縋られたら、言うこと聞かざる得ねーじゃねーか」

 シドの野郎がティファの加勢をした。

「うん……まぁ、そんなわけだから。あそこまで懇願されちゃうと、私たちも言い出しにくくて……正直、クラウドのほうから来てくれて助かったわよ、ね、ユフィ」

「まーね。ヴィンセント、アタシにも口止めしてたから」

「そーよね、それで、『ぜんたいか』のマテリアもらったんだもんね、ユフィ?」

「ちょっ……よしてよ、ティファ。しーっしーッ!」

「まぁ、俺のところにゃ、WROの動きは逐一連絡が来る。飛行艇を任されてるんでな。ホレ、例のシエラ号だ」

「……ヴィンセントのこともわかるの?」

 そう訊ねてみる。

「ああん? まぁ、さすがにリーブもアイツに発信器だの盗聴器だの取り付けてるわけじゃねーだろうからな。だが大まかな動きくらいは……」

「ヴィンセントにやらしいことすんなァァアァァ!」

「いや、ちょっ……ちがっ……俺じゃねぇって! リーブの野郎が……」

「まぁまぁ、落ち着いてよ、クラウド。いずれにせよ、私たちのところに連絡は入ってきているんだから。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」

 ティファの言葉に従って、とりあえず引っ込む。

「それでさ、いよいよWROの総力を挙げてDGを叩こうってコトになったんだよ、ホラ、リーブのヤツ、局長じゃん。そんなことしてる間にツヴィエートが直接ヴィンセント狙ったんだよね。神羅屋敷でさぁ。まぁ、このユフィちゃんが駆けつけたから大事には至らなかったんだけどね」

「な、なんだとッ! ツヴィエートッ? ツヴィエートのなんてヤツだよッ! 野郎、よくもヴィンセントを……」

「野郎じゃないよ。女だよ。乳のデカイ……真っ赤な服着てたな……見ればすぐわかるよ。なんかエロエロでさぁ。もちろんユフィちゃんのほうが美人だけどね」

「ヴィンセントのほうがよっぽどエロエロで美人だろうがッ!」

 唾を飛ばす勢いで、俺は身を乗り出し言い募った。

「ちょっッ!側寄らないでよ! アタシは見たままを言ってるだけなんだからね!」

「落ち着いてよ、クラウド」

 ティファの冷ややかな声音でハッと正気に戻る。

 

「……そ、そうだ。そ、それでヴィンセントはッ?怪我の状態はどうなんだよ、ユフィ!」

「だから、大事には至らなかったって言ってるじゃん。傷も2、3日で癒えたよ」

 ホゥッと吐息をつく。

 よかった。重傷などと聞いたら卒倒するところだった。

 ……まったくもう、ヴィンセント!こんなに心配掛けて!

 アンタのためになら何でもする覚悟くらい、とうの昔からちゃんと持ってるんだぞ?
 
 セフィロスが言っていたように、きっと俺のことを思って、悩みに悩んでひとりで姿を消したんだろう。アンタの思いやり深い繊細な性格を思い出せば、すぐに合点がいくよ。

 でもね、そういう優しさは、時には人を傷つけるぞ。

 

 ……俺はアンタの特別な人間なんだろう?そう思ってくれているんだろう? 

 だったら、俺ひとり蚊帳の外にするのはあんまりだよ、寂しすぎるよ、ヴィンセント。

 

 逆の立場だったらアンタはどう思う?

 俺がアンタに何も告げず、独りで身を隠してしまったら?心配するだろ?嫌われたんじゃないかって、不安に思うだろうが!

  

 俺だって同じなんだよ。アンタが行くなら俺も行く。

 もしアンタが……アンタが、どうしても生きていけない、生きていることさえもがツライって言うんなら……俺が殺してあげるよ、ヴィンセント。

 そんで俺も一緒に逝く。ずっと……最期まで、手を繋いで。

 

 

 

 

「クラウド……?」

 ティファの心配そうな声音で、物思いから引きずり戻される。

「あ、ああ、なんでもない。悪い……」

 ……いけない。少々感傷的になってしまっているみたいだ。

 だが、無理もない。ヴィンセントが家を出てから、もう二週間になる。彼と一緒にコスタデルソルに移り住んで、こんな形で離れていたのは初めてのことなのだ。

 

「大丈夫、クラウド? 真っ青だよ? お水、飲む?」

 気を使ってくれるティファ。彼女には昔から心配ばかり掛けてしまっている。

「いや……平気。ちょっと気が高ぶってるみたいだ」

「ヴィンセントのこと、心配なんだね」

 ティファが低くつぶやいた。

「あたりまえだろ……こんなことになるなんて……」

「うん……そうだね」

 そっと俺から目線を逸らせ、彼女は頷いた。

「でもサ、クラウド。悪いけど、あんましマッタリしている時間ないよ」

 ユフィが言う。

 この場所にやってきてから、彼らの話を聞き出しているのだが、これまで最もヴィンセントと時間を共にしてきたのは彼女のようであった。

 WRO襲撃という物騒な事件に際しても、彼女はヴィンセントと一緒に内部にいたというのだ。

 

「ああ、俺だってぐずぐずしているつもりはない。一刻も早く敵の大将ぶっ潰して……」

「……WROのミッドガル総攻撃は明後日だ」

 俺の言葉に覆い被せるように、シドが言った。

「明後日……」

「空路、陸路、二手に分かれる。リーブはWROの総指揮を執るから現場は動けねーだろうがな」

 シドが続ける。

「俺さまァ、もちろん空路だ。シエラ号で空軍指揮を執る」

「アタシも空からだね。先発隊志願だからさァ」

 とユフィ。

「俺たちゃあ、陸路だ、クラウド。俺のクルマにてめぇのバイク積んで、直で神羅ビルに突っ込むぜ。魔晄炉を完全に止めねぇとな」

「……わかった」

 しっかりと頷き返した。

 ヴィンセント、待っててくれよ、もう少しの辛抱だからな。

 すぐに行ってやるから。俺がアンタを守れるところ、ちゃんと見せるから。

 

 

 

 

 ……よし。かなりの情報が掴めた。

 WROが総出で攻撃を仕掛けるのなら、必ずDGもミッドガルに集結するに間違いない。なにより、ヤツらが生み出された場所なのだから。

 おそらくツヴィエートと呼ばれるエリート集団も現れるだろう。

 ……もちろん、ヴィンセントも。

 

 ……ヴィンセントを襲ったヤツ……絶対に許さない。

 女だと言っても容赦するか。

 

 ああ、そうだ。

 俺が家のやつらと別行動を取るのは、セフィロスの支持だった。コスタデルソルにはまともな情報が入ってこないのだ。

 元の仲間連中と、WROは必ず繋がっていると、セフィロスは言っていた。

 そこでひとまず、俺が彼らの元に戻り、状況を把握しセフィロスたちに流す。決戦の火蓋はすぐさま落とされるとヤツは言っていたが、本当にその通りになっている。

 ……認めるのはくやしいが、やはりセフィロスは神羅の「英雄」であり、天才的な軍人であった。

 

「……クラウド、明後日までは身体を休めて。店の部屋に泊まっていきなよ。マリンやデンゼルも楽しみにしているから」

 ためらいがちに、気配りをするティファの志に、俺は甘えることにした。

 

 ……決戦は明後日。

 ……あっという間だとわかっているものの、その間さえも落ち着かない気分になる。

 

 ダメだ、こんなふうに気を張り続けては。

 当日はどれほどの激戦になるのだろう。いや、どんな状況に陥ろうとも、必ずヴィンセントだけは取り戻す。

  

 部屋に案内され人心地つくと、気づかれないよう、家の連中に連絡を取った。