嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<16>
 カダージュ
 

 

 

 

 

 

 

ドガーンッ! ドォォォォン!

 

「うわッ!」

「わぁッ!」

 僕とロッズはしこたまコンクリートの壁に叩き付けられた。

 またヤツの大砲だ。この場所で出くわしてから、いったい何発お見舞いされたことだろう。

 その威力が尋常ではない。うっかりと側に近寄ったら跡形もなく吹き飛ばされそうな勢いなのだ。

 

「アイタタ……」

「大丈夫かよ、カダージュ」

 ロッズが慌てて手を貸してくれる。自分もはじき飛ばされたのに、本当にお人好しのヤツだ。

 家に居るときは、ついつい無神経なロッズに苛つくことが多いけど、やっぱり僕のことをちゃんと気に掛けてくれている。

 

「いてて……平気だったら! 子ども扱いすんな!」

 そんな言い方はよくないと、ヤズーにも叱られるけど、なんかふたりに心配されると、いつまでも、自分ひとりが年少で、守られる立場にあるような気分になってしまう。

 それは僕を不愉快にさせた。

 僕はいろいろ考えることが出来るんだし、戦闘能力だってふたりに劣るつもりもない。

 もっとも三人とも武器の種類が異なるから、一概に比べることはできないのかもしれないけど、剣技なら、兄さんにだって引けをとらないんだぞ。

 

 ドォォォン! グワシャ!

 

 ふたたび大砲が咆吼して、すぐ近くのブロック塀が崩れ落ちた。

 まったくあんなの反則じゃないか!

 

『蒼のアスール』

 兄さんの言っていたように、狼男を彷彿とさせる人物だった。ロッズも大きいけど、根本的に比較にならないほどの巨体なのだ。それは狼というより、ほとんど「羆」といってやったほうがよいありさまで、おのれの身ほどの太さはありそうな大砲を、自由自在に操るのだった。

 おまけにあの腕……鋼のような硬質の筋肉……ケダモノのように長い爪はまるで鎌のようにするどい。軽く引っかけられただけで、小動物などあっさりと真っ二つにされそうな刃物のような鋭さがある。

 

 ドォォォン! ドォォォン!

 

「カダ、ここ危ない! 向こうの材木置き場に移動しよう!」

「よしッ!」

 僕たちは、身を低めた姿勢で素早く木材の影に隠れる。

 ヤツは巨体であるにも関わらず動きも敏捷なのだ。ああいうヤツを相手にするときにはふところに飛び込むのが定石なのだが、なかなかチャンスが掴めない。

 ムカツクけど、セフィロスの言ったことは正しかった。DG……その中でもツヴィエートという連中は特別で、油断してはならない相手だということだ。

 

「……ヤズーどうしてるかな……」

「バカロッズ! 今、そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」

「そうだけどさ……思ったより強いじゃん。ヤズー、ひとりで中央塔行っただろ? ……なんか心配」

 ロッズはすぐにグズグズとべそをかく。そんなことをしているから、セフィロスや兄さんにバカにされるんだ。「ガキ」って言われるんだ(これは兄さんもセフィロスに言われてるけど)。

 僕はもう子どもじゃない。

 そりゃ、年齢で言ったら、最年少なのは本当なんだから仕方ないけど、それでも「子ども」ではないんだ。

 

「……だ、大丈夫だよ、ヤズーは強いもん」

「そ、そうだよな……でも、こいつと同じくらいのヤツだったら、たったひとりで相手するには厳しいんじゃないかな」

「バカ言うな! ヤズーは頭いいんだから! ちゃんと切り抜けるさ! ピンチになったって無理な戦い方をするはずないよ!」

 苦い唾を飲み下し、僕は怒ったように言い返した。

 バカロッズ!不安になるようなこと言うな!

 ……ヤズーに限って……ヤズーに限って、そんな無茶なことするわけないじゃないか!

 

「なぁ、カダ。早くヤズーと会いたいよ。ヴィンセントもどうしてるのかなぁ……」

「……僕だってヤズーのこともヴィンセントのこと心配だよッ!」

 敵に気づかれないよう気をつけつつ、するどく言い返す。

「だから早くここを片付けて、ヤズーの加勢にいかなくちゃ! ヴィンセントだって待ってるよ!」

「そうだよな……」

「いいか、ロッズ。僕に作戦がある」

「うん」

「僕がヤツの隙をついて飛び出すから……」

 いささか危険かと考えが、僕は迅速に決着をつけたかった。

 ヤズーに「ちゃんとできたよ!」と早く報告したかったし、プライドもあったし、なにより、ヴィンセントを捜しに行きたかったんだ。

 

  

 

 

  ドゥン!  ドドォォォォン!

 ヤツの手にした大砲が吠える。

 バズーカを数百倍ほどにも強力にしたような、ヤツの武器は発射する際、蒼い閃光を放ち、一瞬あたりが真っ白になるのだ。それはもちろんほんのゼロコンマ何秒の間だけだったが、確実にヤツの視界も奪われているはずだった。

 

 ドォォン! ドゥゥゥン!

 大砲の連射が終わる瞬間……そう最期の一射を見極めて、僕は空に飛んだ。双刃を構えたまま、重力に任せて下降する。

 

「ぐぉぉぉぉ!」

 アスールが吠えた。

 それこそ羆のような叫び声だった。

「やぁぁぁ!」

 まっすぐに突っ込んでゆく僕に、大きな腕をぐんと突き出す。

 双刃が、グローブのような巨大な掌を串刺しするように、ズブズブと飲み込まれた。

 

「ぐぅおぉぉぉぉぉ!!」

 ズブズブという嫌な音を立て、柄巻ギリギリまで沈んでゆく。

 僕の武器、双刃は、二枚の刃が、一つの柄から生えている。この剣で斬られると、傷口が治りにくいのだ。短い間隔で肉が破れると縫合もしにくい。ある意味、僕たち三人の武器の中で、一番残虐な道具とさえ言えよう。

 だが、巨漢のアスールは、なんと肉に剣を突き刺したまま、空いた左手で、僕の首を掴んだ。

 喉元でガッという音が確かに響き、次の瞬間、瞼の裏が真っ赤になるような強烈な圧迫感が僕を襲った。

「ぐぅ……ッ!」

 足は空に浮いたまま、喉だけをささえに、僕はまるで絞首刑のような格好になった。

「ごッ……ぐぅぅ……ッ!」

 鼻の奥が熱くなる。鼻血が出ているのかも知れない。

 僕は必死になって、ヤツの片手に突き刺した双刃を抉るように突き動かした。

 

「グゥアァァァァァー!」

 悲痛な叫びを発すると、ヤツは差し貫かれた右手を激しく振った。

「ううぅぅッ」

 首が苦しい。

 ただでさえ、締め付けられているのに、双刃を握ったままだから、ヤツの動きにあわせて僕の身体も引っ張られるのだ。

 

 ……苦しい……くるしい……

 ロッズ、もう持ちそうもない……! 

 

 もうダメだ……と思った瞬間だった。

 

 ズガァァァン!という、これまでとは異なる硬質な音がした。

 そして、ぐしゃりという何かがつぶれる音。

 

 喉を締め付ける戒めが外れた……と思うと、僕はものすごい力で崩れかけたブロック塀に叩き付けられた。

 情けないけど、僕が覚えているのはそこまでだった。