嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<26>
 セフィロス
 

 

 

  
 

 

「セフィロス……ッ!」

  緊張を帯びたヴィンセントの声が虚空に響く。

 

 オレとネロとの距離が縮まったことに不安を覚えたのだろう。

 銃を構える腕を下ろすことはなく、そのまま、横飛びに突起物に飛び乗り、さらに上のプレートへ追いかけてきた。

 だだっ広いだけに見えた暗黒の空間に、白い楕円状のプレートが浮いている。もちろん、ヤツの吐き出した汚猥な昆虫どもも、そこにへばりついたり、影に身を隠したりしているが、一向に落ちる気配もない。

 

「セフィロス……ッ!」

  ヴィンセントの紅い瞳が時折朱金に輝き、大きく揺れる。

                                                                     

(……そんな顔をするな)

 声には出さず、そっとささやく。

 一度「助ける」と口にしたならば、必ずおまえのことは守り通す。ただし、おまえのいうとおり、今回の相手は尋常の輩ではないらしい。

 決着をつけるのに、いささか時間が掛かるかもしれん。

 ……だが、おまえは必ず「オレに救われることになる」。

 

「セフィロス……」

「オレのことは気にするなッ! そのまま周囲の連中を追い払え!」

 ヴィンセントにそう命じると、ネロの姿を追った。揺らめくように身を影に窶し、容易に近寄れない。

 もちろん、例のムカデの化け物どもが邪魔をしてくれるので一筋縄ではいかないが、この漆黒の空間でヤツを見失ったとしたら、あまりにも分が悪くなる。

 

「おい、クラウド! 貴様も援護しろよッ!」

「し、してるじゃんかよッ か、数が多すぎるんだよ、キモッ!」

 一応、クソガキなりに、必死に虫どもを斬り倒し、オレの動きをカバーしてくれてはいるのだろうが、確かにクラウドの言うとおり雑魚の数が多すぎた。

 

 キシャアァァァ!と角を持ち上げ、クソデカイ化け物ムカデが襲ってくる。

 

 ガギギギギ! ギチギチギ!

 耳元で気色の悪い音がした。

 

 対応が遅れた……と思った。ネロの姿に気を取られて、背後に意識を回す余力がなかったのだ。

 

「チッ……!」

 オレが舌打ちをし、後ろを振り返った……その瞬間である。

 

 

 

 

 ズキューン! ダンダンダン!

 

 間近で銃声が響いた。

 ボトボトと虫の落ちる音。

 ヴィンセントの援護射撃か……?

 

「ヴィンセント……! おまえ、引っ込んでいろと……」

 オレはわずかな間隙を縫って、背後を振り返った。

 

「ふふ、は〜ずれ。残念でした★」

 そうささやいた人物はヴィンセントではなかった。

 くるりと後ろ宙返りをすると、そのままの姿勢で続けざまに銃を放つ。

 ヴィンセントのケルベロスよりは、幾分軽い音が虚空に響いた。

 

 ズキューン! ダンダンダァァン!

 

「イロケムシ!」

 オレは叫んだ。

「ちょっとォォ! この場面でそれはないでしょ? せっかく加勢に来てあげたのに」

 波のごとくうねるの闇が、ヤズーの豹のようにしなやかな躯を浮かび上がらせる。目の覚めるほどの美貌が、妖しく輝き、長い髪が虚空に銀の軌跡を描いた。

 

「おまたせ、ヴィンセント。……あらら、しばらく見ないうちに、ちょっとやつれちゃったね、可哀想に」

 タッとヴィンセントの近くに着地し、心配そうにその白い面を覗き込む。ヴィンセントは惚けたように硬直したままだ。震える唇が紡いでいるのはヤツの名なのだろう。

 

「うおらぁぁぁぁ!」

「えーいッ!」

 続いて現れたのは、ガキふたりだ。

 ロッズの野郎が特殊な拳具で虫どもを殴り飛ばし、カダージュのガキが、双刃で次々に斬り裂いていった。

 俄然戦況は楽になった。

 

「ヤ、ヤズー……カダージュ……ロッズ……!」

 ヴィンセントがガキどもの名をつぶやく。

 案の定、ヤツの兎のような瞳には大粒の涙が盛り上がっている。こんなときにも関わらず、だ。

 失笑したくもなるが、ネロに肉薄したオレはその場合ではない。

 

「ヴィンセントッ! よかったッ 僕、心配したんだよッ!? 黙っていなくなっちゃうなんてひどいよ!」

「ヴィンセント、怪我とかない? 俺、ヴィンセントに嫌われたんじゃないかって……すごく不安で……」

 ぎゃあぎゃあと騒々しい声を上げ、細身のヴィンセントにしがみつく、ふたりのクソガキ。

「カダージュ……ロッズ……」

「あー、ちょっとォ、ごめんね。感動の再会は、あいつをやっつけてからね。どうやら幹部クラスみたいだからねぇ」

 イロケムシが割って入った。

「おい、ボケナスども! ボサッとしているな! 本体はオレが殺る! 貴様ら、雑魚を一掃しろッ!」

「はいはい、神様」

「はーい、チッ、いばりんぼ!」

「はぁ〜い」

「ちょっ……俺にまで命令すんなよ、セフィ!」

 それぞれに返事を返すと、ヤツらは四方に飛んだ。