〜 ジェネシス逗留日記 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 ジェネシス
 

 

11:30

 

「……最悪だ。なんでオレ様が貴様の車の助手席に座らなきゃならないんだ」

「仕方ないだろう。自分の車のほうが慣れているんだから」

「そういうことを言ってんじゃねェ! ったく、テメーの点数稼ぎにオレ様を巻き込むな!」

 長い足を乱暴に前に放り出し、セフィロスがぶつぶつと文句を垂れた。

「ああ、こんなことで点数が稼げるならいくらでもするんだけど…… やっぱり高嶺の花なのかなぁ……」

「はぁ? 知るかよ。だがな、言っておくがあいつは面倒くせーぞ。妙に世間から外れた感覚をしているしな。男のくせにすぐ泣くし」

 そう言いながらも、セフィロスの面持ちは穏やかだ。俺の手前セフィロスは認めないだろうが、彼自身、女神に惹かれているのだと思う。

「そこがまた素敵なところじゃないか。あれほど他人のために必死になれる人がいるなんて……まだまだこの世も捨てたもんじゃないと思うよ」

「他人のためより、自分のために生きてこその人生だろーがよ。……チッ、ったくなんでテメーと人生語りしなきゃなんねーんだ!」

 吐き捨てるようにセフィロスが言う。

「おまえのほうから言い出したくせに。……まぁ、いいさ。彼の名さえ聞けなかった永すぎる日々から比べれば、今はまさに天国だ」

「あーあ、やれやれ」

「おまえだって、チョコボっ子のときは必死だっただろ?」

「昔のことを思い出させるな。オレはあのガキの容姿が気に入ってただけだ」

 照れ隠しにそんなことを言い出すセフィロスに、それ以上言葉を重ねることはせず俺はアクセルを踏んだ。

 

 

11:40

 

 俺たちはあっという間に目的地についた。

 車でなら五分程度の距離である。

「ここが青物市場だ。ヴィンセントの一番の気に入りの場所だな」

「ああ、いいね。露天で……開放的な雰囲気が!」

 あながちお世辞でもなく本気でそう思った。

 俺のマンションの所在は、コスタ・デル・ソルでもノースエリアと呼ばれる地区だ。

 四つのエリアの中では、もっとも都会的な場所で、歓楽街や洒落たカフェなどもある。海を渡る舶来品や、めずらしい商品を求めて多くの人が行き交う地域だから、オペラハウスや美術館、博物館といった文化施設も整っているし、スポーツジムや公園、アスレチックといった楽しめる設備も多くある。

 だが、ここ、イーストエリアは、別荘地が多い場所で、季節外れの今頃は、のどかな田舎町といった風情である。車道を走っていても、すれ違う車はほとんどないし、高価なショップなどが無いかわりに、こうして露天商などが開かれている。

「オラ、さっさと行け。俺は車で待っている」

 と、素っ気ないセフィロス。

「そういうなよ。せっかくふたりで来たんだ。話でもしながらゆっくりと回ろう」

「あぁ? 早いとこヴィンセントのところに戻りたいんじゃねーのか?」

「俺の気持ちとしてはね。でも、女神はすぐに気を遣ってしまうだろう? ひとりでのんびりする時間も必要だと思うんだ」

「あー、そうかそうか。どうでもいいがな。……チッ、ったくホラ、さっさと行くぞ」

 セフィロスは煩わしげに出てきたが、照りつける太陽にさらに舌打ちしたのであった。

 

 

12:00

 

「あ、おい、ジェネシス。ちょっと待て」

「ん? これでメモに書かれたものはそろったと思うが?」

「せっかくお使いに来てやってんだ。欲しいものくらい買ってもいいだろ」

 そういうと、彼はまるまると大きく実った、グレープフルーツを指さした。

「あれ、買ってこい」

「自分で言えばいいじゃないか?」

「こういう田舎のババァはウゼーんだよ」

「セフィロス。まったくおまえは……」

 いちいち説教するのもバカバカしいので、俺はさっさと買い物に行くことにした。

「失敬、ミセス。そちらのグレープフルーツを一籠いただけるかな」

「おんやァ、兄ちゃんいい男だねェ〜、こんなバァちゃんつかまえてミセスとは嬉しいねぇ。さぁ、こいつはおまけだよ!」

 いかにも田舎で生まれ育ったといわんばかりの中年女性は、ひどく人なつこくそういうと、グレープフルーツの袋に大きなザクロをゴロゴロと入れてくれた。

「ありがとう、ミセス。貴女の好意に連れも喜んでいるよ」

「ああ、あっちのギンパツの兄ちゃんだね。たまにヴィンセントさんのお供で見かけることがあるよ」

 おやおや、名前まで知られているなんて。そういえば、ヤズーが、『ヴィンセントは商店街のアイドルなんだよ』といたずらっぽく言っていたっけ。

「俺もヴィンセントの友人なんだ。あっちの彼もそうなんだけど、シャイでね」

「あっはっはっはっ、あんなにデッカイのにねェ!」

 と彼女は豪快に笑ってから、俺を解放してくれたのだった。