〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<8>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

「……まぶしい」

 ヴィンセントが低くつぶやいた。

 ニブルヘイム独特の曇り空を見上げても、俺にはまるきりそうは感じられない。

 だが、ずっと地下室で眠っていたらしい彼にとっては、ただ外に出たというだけでそう感じられるのだろう。

「……あ、あのさ、アンタ、ホントにずっと棺桶で眠ってたの?」

 気に障らないよう訊ねたつもりだったが、俺の物言いがおかしかったのだろう。アンティックドールのような、美しくも表情のない顔が、ほんのわずかに人間味を帯びて笑った。

「……別に幽霊ではない。……どう説明すればいいか……私の身体は……」

「あ、あの、別に言いたくないことなら、無理に聞こうなんて、思ってないから! ホント、ごめん。無神経なこと言って!」

 手振りさえ交えて弁解する俺に、ふたたびティファが怪訝な眼差しを送ってくる。

『なにを一人で動揺しているんだか……』

 といった感じだろうか。

 だが、彼女にそう思われようと、ヴィンセントへの俺の関心は尽きなかった。

 もともと、他人に興味をもつタイプではないとの自覚はあるのだが、ごくまれに……数年にひとり、ふたりほど、心の琴線に触れる人物が現れる。

 彼はまさにその対象であるらしかった。

 

 

 

 

 

 

 神羅屋敷での探索が終われば、もはやニブルヘイムに居る必要はない。

 俺としては早々にこの村を去りたかったが、ヴィンセントの都合もあるだろう。

 そう考えて、俺は彼に訊ねてみた。

『やり残したことはないのか』

『挨拶をしなければならない相手はいないのか』

『コレル山を越えるにつき、体調はどうなのか』、などだ。

 

 彼の返答はただ一言。

『問題ない』

 とだけだっだ。

 

「でも、ずっとあの地下室にいたんだろ? 今日は無理をしないで、宿で休もう」

 そう申し出た俺を、女性三人組が呆れた面持ちで眺めていた。

 つい最近仲間になったユフィなどは、ふくれつらでこういったものだ。

「ちょっと、クラウド! アタシのときには何も言ってくれなかった! さっさとウータイから引き上げたくせに!」

 ヴィンセントが少し困ったように首を傾げた。こんなしぐさも、操り仕掛けの人形のように見えて、俺の心は不思議なほど波立つ。

「おまえと彼では状況が違う。だいたいユフィは無理にくっついてきたんじゃないか」

「ひっどー! なんだよ、クラウドのトーヘンボク! ひいきだ、ひいき!」

「そんなんじゃないだろ! うるさくいうなら、置いていくぞ!」

 そう叱りつけたところ、背後からの低い声が俺をたしなめた。

「……よしたまえ」

「え…… だって、あの……」

「女の子に……そのような乱暴な物言いをしてはいけない」

 低くて小さくて……本当に聞き取りにくいはずなのに、その場にいた皆が黙って聞き入った。この人には他人の関心を引き寄せる力があるのだと思う。

「でも、ユフィが……!」

「君は、彼女よりも年長で男子だろう。クラウド・ストライフ」

 真顔でそう叱られ、俺はうっと口を噤んだ。

 俺が沈黙したのを良しとしたのか、ヴィンセントはそれきり俺たちのやりとりに興味が失せたようにすっと身を離した。

 

 結局、その日はもう一晩宿屋に泊まることになった。

 ニブルヘイムにやってきたそのときから、一刻も早くこの地を去りたいという態度を隠さなかった俺に、ティファなどは大分気を揉んでくれたようだった。

 だが、宿に戻っても、あの追い立てられるような焦燥感は感じなかった。

 

『鎮静作用』とでもいうのだろうか。

 ヴィンセントと共にいると、不思議と落ち着いた気分になれる。

 そんな自身に戸惑いを感じないといえばウソになるが、彼の存在に感謝しつつ、ニブルヘイムで二日目の夜を迎えるのであった。