〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<17>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 せめて……せめて、火の番くらい……!

 

 俺は気迫満々で、焚き火の前に陣取った。

 今朝方の風呂場で、誓ったことがある。そのうちのいくつかは、どうにも叶えられそうにないのだが、せめて皆の睡眠を守るくらいのことはやり遂げられて当然だ。

 俺はリーダーなのだから。

 

 ……今日のリーダーはダメダメだった。

 モンスターはそれなりに倒したけれど、体力を消耗しすぎた。飛行系の連中と剣使いの俺では相性が悪いとはいえ、ヴィンセントが銃弾一発で的確に、相手の弱点を突いているのに、俺は二度三度と剣を振らねば倒せない。

 なぜかヴィンセントは、この周辺に生息するモンスターにくわしく、皆をフォローしつつ、最低限の動きで最大の成果を上げるのであった。

 

「……クラウド、交代の時間だ」

 夜半過ぎ、ウトウトと船を漕いでいた俺の肩を、やさしいぬくもりが触れた。それがヴィンセントの手だと知れたのは、夢うつつからようやく戻ってきたときであった。

「えッ? あ、もうそんな時間?」

「……大丈夫。火は守られている。テントに戻って休んでくれ」

 ヴィンセントはそういうと、静かに腰を下ろした。

 俺はこっそり彼の顔を覗き込んだが、寝ぼけ眼をしていることもなく、まるで今までごく普通に起きていたようにさえ思えた。

「ヴィンセント、ちゃんと寝たのか?」

 思わずそう訊ねる。

「……就寝時間が早すぎたがな。一応、眠れた」

「ホント? ねぇ、別に交代しなくていいよ。俺、全然眠くないし、三時過ぎには、バレットたちが来るから」

「……全然眠くないという顔ではないぞ」

 そういうと、ヴィンセントは俺の前髪に、そっと触れた。子供扱いされているのに…… きっとティファ相手だったら、即座に「やめろ」と言って、その手を払っていたに違いない。

「眠くないもん」

 そういってから、慌てて口元を押さえた。つい、昔の口癖が出てしまった。

 神羅にいた頃、ずっと同室だったザックスや、セフィロス相手には、こうした子供じみた物言いをしていたのだ。

 話題を逸らそうとアタフタする俺に、わざと気づかぬ振りをしてのことなのか、ヴィンセントは俺のとなりに腰を下ろした。

 パチパチと爆ぜる炎が、ヴィンセントの端正な横顔を照らし出す。

「……では、眠くなったら、そのまま眠りたまえ。火の番は私がしよう」

 静かにそう告げられて、俺はてこでもここから動くものかとしっかり座り続けた。

 

 

 

 

 

 

「ん…… あ、あれ?」

 ほんの少し、目を閉じたつもりだったのだが、ヴィンセントのくべた太い薪が、ほとんど木炭になっているのに驚いた。

「ご、ごめん、俺、寝ちゃった……?」

「……ほんの三十分程度だ。だから、きちんとテントで眠れと言ったのに……」

 俺は自分が遠慮無くヴィンセントに寄りかかっていたことに気づき、慌てて身体を離した。炎の暖かさも手伝ってのことだろうが、彼と触れ合っていた肩口から胸の辺りがたいそう心地よく、睡魔に襲われたのである。

「……おまけに寄りかかっていたみたい……ホント、ごめん。情けない」

 しょぼんとうつむきそうつぶやくと、ヴィンセントはわずかばかりの疑問符を交えつつ、口を開いた。

「……おまえはよく謝るな。だが、どれひとつをとっても、謝罪を必要とする事柄は皆無だ……」

 そう言いながら、ヴィンセントがカップを差し出してくれた。

 中身は眠気覚ましのコーヒーかと思ったが、薄い肉片の浮かんでいるバジルのスープだった。

「夕食をとってから大分時間が経っている。こんなものでも腹の足しになるだろう」

「……ヴィンセントって……母さんみたい……」

 ふたりきりで火に当たっているシチュエーションのせいだろうか。俺はぼんやりとそんなことを口にしていた。

「母さん……? ふふ、そうか。この年まで生きてきて、そんなふうに言われたのは生まれて初めてだが」

「あ、そ、そうだよね。また俺、変なこと……」

「変なことではない…… おまえの言葉にはそれぞれ、きちんと意味がある」

 俺はスープを一口啜り、その旨さにほぅっと大きく吐息した。

「美味しい。ううん、ヴィンセントの作る料理って、ただ美味しいだけじゃなくて、ホッとする。……すごく、落ち着いた気分になれる」

「……そうか」

 言葉少なに彼は応じた。

「あの…… その……」

 俺はしっかりと両手でカップを包み込みながら、ヴィンセントを見上げた。

 こうして隣り合っていても、わずかに上向かねば彼の顔を直視できないのが少々悔しかったが、これから語ろうとすることについて思いを馳せれば、そんなことなどひどく些細なことに感じられたのだ。

「あ、あの…… 俺……」

「ん……?」

 やさしく先を促してくれる。言い淀む俺を焦らせることなく、安心させてくれる低い声が、やわらかく夜闇を包む。

「……まだ、俺とセフィロスのこと…… この旅のこと……話してないから……」

「…………」

「ヴィンセントになら……本当のこと、話せそうだから……さ」

 俺の前置きに、彼は静かに、

「……無理に聞き出すつもりはないと言ったはずだ。おまえが楽に話せるようになるまで、時を置いたほうがいい」

 と、止めた。

「……ううん。たぶん、楽に話せる日は来ないと思う。それに……なんだか、ヴィンセントに聞いてもらったほうが、俺……」

「クラウドがそういうのなら…… 私でかまわぬのならば、今宵はおまえの心に寄り添おう」

 ヴィンセントにしか言えないセリフで、彼は俺の傷口に手を触れた。

 鈍い痛みと、血の臭いを思い出す。

 

 見つめた目を反らせ、爆ぜる炎を眺める。

 一度たりとも同じ形状を保つことのない火は、在りし日のおのれを思い起こさせた……