Love letter
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<4>
 
 セフィロス
 

 

 



  

 

 受話器を手に取り、手紙に書いてあるナンバーをゆっくりと押して行く。

 ソファにでも座って掛ければよいものを、何故か直立したままコールしているのだ。

「……あ、あの……ヴィンセント・ヴァレンタインと申します」

 いつものオドオド声で、招待状をもらった旨を話し、女性を呼び出して欲しい用件を説明した。この前の手紙から、相手の女はいわゆる良家の子女であると推察される。きっと今の電話には執事あたりが出たのだろう。

 クラウドが穴が開くほど、じっとヴィンセントを見つめる。

 電話口に、当の女が出たのだろう。ヤツはグッと息を詰め、気を落ち着かせるように、一度両目を綴じ合わせた。受話器を握る指の、関節の辺りが白くなっている。

「初めまして、ヴィンセント・ヴァレンタインです」

 と名乗ってから、続けざまに言葉を紡いだ。きっと事前にセリフを考えていたのだろう。

「……せっかくですが……ご希望には添いかねます……」

「あ、あの、貴女は私という人間を誤解しているだけで……」

「い、いえ、決してそんなつもりは……」

「は、はぁ……ですが……」

 徐々に弱くなって行くヴィンセントの声音。

 まともな面識もないヴィンセント相手に、あそこまで熱烈なラヴレターを送ってくるような女なのだ。きっと気性もハッキリしているのだろう。

 ただでさえ、フェミニストで女には弱いヴィンセントなのである。電話の様子から、徐々に押し切られそうな雰囲気であった。

 余談だが、クラウドの眼がだんだんと座ってゆくのが面白い。

 

「え、ええ……ですが……あの……いきなりそちらに伺うわけには……」

「え、ええ……で、でも……当然のことをしただけですので……」

「あ、あのッ? ……あ……」

 慌てふためき裏返ってしまったヴィンセントの声。それにオレたちは揃って、耳をそばだてた。

「あ、あの……す、すみません…… こ、言葉が上手く……なくて……」

 おろおろとなだめる。

「ど、どうか……その……泣かないでください。そんなつもりでは……ええ、本当に……その……」

「決して不快に思っているわけではなくて……本当、です……」

「は? はぁ……で、では……どこか……別の場所なら……あ、は、はぁ……わ、わかります」

「はい……はい、は、はぁ……ええ、わ、わかりました。い、いえ……とんでもない。……はい、……はい。そ、それでは……明日……」

 最後の言葉に、見る見るうちにクラウドが眉間に深いシワを刻んだ。

「あららァ、負けちゃった……?」

 と茶化すのはイロケムシ。

「い、いや……その……泣き出されて……しまって……」

 ちらちらと、怒り心頭のクラウドに目線を寄越しつつ、ぼそりとヤツはつぶやいた。

「さすがに……電話だけで……断ることができなくて……」

「う〜ん、うふふふ、そうだよねェ。女の子に泣かれちゃうと困るよね〜」

「あ、ああ。あ、あの、クラウド……?」

「ねぇ、ヴィンセント、会うの!?」

 掛けられた声に、覆い被せるようにしてクソガキが怒鳴った。

「え……あ、ああ……電話だけでは納得してくれない様子で……」

「なんだよ、それッ! 図々しい女ッ!」

「す、すまない、クラウド……私は話が……どうも上手くないようで……」

 ひどく申し訳なさそうに、ヴィンセントが謝罪した。

「ヴィンセントが謝ることないよ。ってゆーか、フツー、察しない? 何が何でも会いたいなんて言ってくる、その気が知れないっつーの!」 

 苛立ちをぶつける相手が見つからないのだろう。

 激しい口調で捲し立てるものの、目の前の困惑しきったヴィンセントのツラを見ると、それ以上の苦情を並べることはしなかった。

「ん〜、まぁ、仕方ないんじゃない? 少なくとも相手は本気みたいだし。電話でジ・エンドっていうのも納得いかないんだろうしね。それで、どこで会うことにしたの?」

 と、ヤズー。

「あ、ああ。手紙には自宅に招待……となっていたが、それはもちろん断った」

 少しだけ力をこめてヤツはそう言った。

「それで?」

「あ、ああ。セントラルホテルのカフェテラスで……その……面会を……」

「ふんふん、なるほどね。お茶くらい一緒させて欲しいってことかしらね」

「そういうことなのだろうか、ヤズー?」

「まぁ、いいじゃない。一生懸命なのはよくわかるし。一度会って話してあげるだけでも満足してくれるかもよ」

 と、イロケムシにしては、やや希望的観測が強い意見を口にした。クラウドは未だにむくれていたが、話の流れとしては納得したらしい。それ以上、文句を言う様子もなかった。 

 やれやれ、この生真面目すぎる男のことだ。

 目の前で年下の女に泣かれてしまったら(ヤツの実年齢を考えれば年下に間違いないはずだ)、はっきりと拒絶の言葉を口にするのも難しかろう。それどころかなし崩し的に、押し切られる危険性だってなきにしもあらずだ。

 もちろん、現段階でヴィンセントは、きっちり話をするつもりではあろうが……とにかく優しすぎる男なのだ。

 そしてオレの杞憂はあっという間に現実化するのであった。