LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<5>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 

 

 そろそろ頃合いかと感じ、助け船を出そうとしたところ、ジェネシスが上手く後を引き取ってくれた。

「チョコボ、彼を責めるのはやめてくれないか?」

「クラウドだってば!」

「ああ、そう、クラウド……クラウド・ストライフだったな」

「…………」

「……すまなかった。ずっと想い続けていた女神に逢えて、興奮してしまったようだ」

「…………」

 子供のように頬を膨らませたまま、無言を通す兄さん。

「確かに俺はずっと昔に彼の存在を知り、思いを重ねてきたけれど、それは俺だけの話であって、女神は俺のことなど知らないのだから。ずいぶんと不躾な物言いをしてしまったと思う。すまなかった、クラウド、それから女神……いや、ヴィンセント」

「あ、あの……そ、そんな……私は……不快に思ったりなどは……」

「ありがとう。やさしいね、女神」

 整った面差しを、柔和に笑み崩してヴィンセントに微笑み掛けるジェネシス。人慣れしないヴィンセントは、こういったストレートな感情表現に弱い。

「あ……」

 と、つぶやき、赤くなった顔を隠そうとうつむいてしまうのだ。ジェネシスはそんな彼に苦笑しつつ、言葉を続けた。

「本当はこんなふうに思いを伝えるつもりなどなかったんだ。幾通りも君との出逢いをシミュレートして……告白の言葉を考えていた」

「え……、あ……」

「だって、目覚めた君と初めて会うんだよ? この上なくいい印象を与えたいじゃないか?」

 クスッといたずらっぽく笑った彼は、ようやく年相応の青年に見えた。

「ジェ、ジェネシス……」

「どんな言葉を使えばいいか、どういう言い回しが効果的か……いや、言葉を掛ける前に、服装は?物腰は?そして告白のシチュエーションは? ……まるで少年のように空想したものだ」

 ひどく楽しげなジェネシスの口調に、セフィロスが

「妄想の間違いだろ」

 と茶々を入れた。ふたりの慣れた雰囲気のやり取りに、ヴィンセントはつられたように顔を上げた。

「ジェネシス……その、あ、ありがとう」

「そこでお礼を言うのかい? やはり君は俺が思っていたとおりの……いや、それ以上に可愛い人だ、女神」

 周囲の連中が一斉に赤面しそうなセリフを、臆面もなく口にするジェネシスである。端で聞いているだけの俺までも赤面しそうになる。

「相変わらずだな、変態詩人。たいした夢想家だ」

「ふふふ、セフィロスの物言いは変わらないなぁ」

「ほっとけ」

「女神が俺の友人になってくれるのなら、少しずつ時を重ねて、俺を知って欲しい。……ずっと待っていたんだ。君の名を聞かせてもらえるまで、気が遠くなるほど長い時間をね」

 形のよい長い指、男らしくやや骨張った白い手をそっとヴィンセントに差し伸べ、ジェネシスは低くささやいた。

「…………」

「だから、今少し、待つ時間が長くなっても耐えられるよ、女神」

「え……? あ、あの……」

「逢えて嬉しかった。……今日の日まで、なんとか長らえてきてよかったと……今、心の底からそう思えるよ」

 大げさな物言いに失笑しそうになるが、ちらりと見遣った彼の面持ちがあまりにも真摯で……なんと表現すればよいのか、戦場を切り抜けてきた兵士というか、死病から奇跡的に生還した人間のようで、俺は強く気を引かれた。

「ジェネシス……」

「さてと、今日はこれで退散するかな」

 ころりと明るい口調に戻って、ジェネシスは立ち上がった。

「あー、早く帰れ帰れ。そして二度と来んな!」

「セ、セフィロス! どうして君はそういう……」

 セフィロスの口の悪さはいつものことなのに、それを慌てていなすヴィンセント。

「いいんだよ、女神。セフィロスの『二度と来るな』は、『またな』と同意語だからね」

「アホか、てめェは!二度と来るなっつーのは、ツラ見せんじゃねーぞって意味だ!」

「うんうん。じゃあな、セフィロス。ああ、そういえば、チョコボ……いや、クラウド」

「なんだよッ! 馴れ馴れしく名前呼ばないでよ!」

「クラウド、そんな言い方はよしなさい……!」

「いいってば、女神。……案外似た者同士の恋人だったのかもね、おまえたちは」

 ジェネシスは昔を懐かしむように、セフィロスとクラウド兄さんを交互に眺めつつ、楽しげにつぶやいた。くすくすと笑うジェネシスに、兄さんが山猫のごとく牙を剥いた。

「ギャーッ! ヴィンセントの前でそういう昔話はすんな!」

「ああ、そうか。ごめんごめん。ついね」

「『つい』じゃねェ! ハイ、バイバイ!さいなら!二度とこないでよね!」

「ク、クラウド……」

「ああ、そうだ」

 あっというように、足を元に戻すジェネシス。

「なんだよ!」

「いや、思い出した、チョコボ。そういえば、おまえ、わざわざサイン会に来てくれたんだよね。なんだか嬉しかったよ」

「べ、別に!アンタだって知ってたら行かなかったよ!」

「そういうなよ。じゃ、はい、お別れに」

 そういうと、ジェネシスはぐいと兄さんの片手を引っ張り、手のひらを上向きに返すと、さらさらとサインをした。

「ギャーッ! アンタ、なにしてくれてんの!」

「これからも応援よろしくな」

「するかよッ!」

 意味がわからず、不思議そうにふたりのやり取りを見つめるヴィンセント。

「じゃあね、女神、チョコボ……それから、とても綺麗なセフィロスの息子さん」

 ジェネシスは俺を見た。改めて確認するような見つめ方だった。ほとんど会話をしていないのに、なんだかすべてを見通されているような笑みを浮かべて。

「おい、ボケ詩人。気色悪ィこと言うな!確かにオレ様の思念体だが、今は完全に別個の人間だ。完璧に赤の他人だ!」

「冷たい言い方〜、ねぇ?ジェネシス」

「ふふふ、でも、セフィロスが変わって無くて安心したよ。彼は昔からこうだったからね」

「神羅ソルジャーだったってことは、ずいぶん古いおつきあいなの?」

「そうだね。昔はずいぶんいろいろ一緒にバカをやったもんだよ」

「へぇ〜、是非是非、聞いてみたいっ!」

 まんざらお世辞でもなく俺は両手を組んでそう言った。

「わ、私も……ッ!」

 わざわざ立ち上がって、言葉を重ねたのはヴィンセント本人だった。

「ヴィンセント、イロケムシ! くだらんことを言ってるな! さっさとそいつを外に出して、塩まいとけ!塩ッ!」

「あっはっはっ、じゃあね、みんな、ごきげんよう!」

 表通りまで見送ろうと後に続くヴィンセントに、軽く手を上げて制し、彼は颯爽と退場した。いや、本当に舞台劇のヒーローのように『颯爽と』だ。

 なんとなく、取り残されたような気分で俺たちは居間に残っていた。だれひとり、自室に引き取ることなく……