LOVELESS
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<23>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 

「……ああ、おたふく風邪のことだな」

 ふたたび、耳を済ませると、ヴィンセントの低い声がようやく聞き取れた。ジェネシスの言葉は注意しなくてもわかるのだが。

「そう。さすが女神、よくわかったね。『ムンプスウィルス』だの『流行性耳下腺炎』って言っても、セフィロスもザックスもきょとんとした顔しているんだから」

「あははは…… いや、私もたまたま耳にしたことがあって、覚えていただけだ。君は医学的な知識にも長けているのだな」

「そんなことはないさ。ああ、そう、それでね。金髪チョコボくんはいきなり発症してしまって、同室のザックスもオロオロ、一般寮だし万一感染でもしたらコトだからな」

「それは……そうだな。私は寮とやらには入ったことはなかったのだが、きっと多くの者たちがそこで起居しているのだろう」

「そうだね。ソルジャーの若い子たちやチョコボくんみたいな修習生がね」

「そ、それで……? その当時はセフィロスがクラウドの側にいたはずだと思うが……」

(ちょっ……ヴィンセントってば、何聞いてんの!? もう、昔話なんて……)

(怒鳴りたいのはオレのほうだッ! ジェネシス、あの野郎……)

(シーッシーッ、ふたりとも!)

 

「ああ、もちろん。セフィロスも大騒ぎだったよ。新妻の出産に立ち会う使えない夫そのものだったな。クマみたいに室内をうろうろ歩いてね。ひどく心配して……」

「あ、あのセフィロスが? そうか…… ふふふ、おたふく風邪は大変だったろうが……心温まる良い話だな……」

「そうだねぇ。結局あの子はメディカルセンター行きになったわけだけど、注射のときも手を握ってやっててね。心細そうなチョコボのために、ほとんどセンターに居続けだったんだよ」

(へー、意外……昔は案外……)

(そんな目で見るな、イロケムシ。若気の至りだ!)

(へっへーんだ! 若気の至りは俺のほうだもん。あの頃はさァ、子供だったからァ。まだ、人を見る目とかなかったんだよねェ。だいたいセフィは……)

(なんだと、この野郎、もういっぺん言ってみろ!)

(もう、ふたりともケンカしないでよ、こんなところで!)

 

「……本当にセフィロスと君は仲が良かったのだな…… 仕事はいろいろと大変なことはあったろうが…… もし、私もそのとき側に居られたら……きっと…… あ、いや、失敬。つまらないことを……」

「ふふふ、君が側に居たなら、必ず数多のライバルを押しのけ、俺が勝利してみせるよ。スタートラインが一緒なら絶対にね。チョコボやセフィロスにも負けないさ」

「……ジェ、ジェネシス…… ハハハ……まったく君という人は……物好きなのだな……」

(へぇ〜……ヴィンセントが笑ってる。なんか良い雰囲気になってきてるね)

(どこがだよ! 何だよ、絶対勝利してみせるって! ……なんかヴィンセントがけっこう嬉しそうなのが気にくわないんだけど)

(……豆柴みてーにギャンギャン泣き喚くクソガキに比べりゃ、どんな野郎でもいい男に見えるだろうさ)

(セフィ、なんか言った!?)

(ちょっ……兄さんもセフィロスもよしなさいよ)

 

「そうそう。確かにね。セフィロスが金髪チョコボを選んだのは、かなりセンセーショナルな事件だったかもね。みんな大騒ぎだったよ」

「ああ……ハハ……そうだろうな。クラウドはまだ修習生だったのだろう? セフィロスはトップソルジャーで……」

「そう。『まさかあのセフィロスが!』ってね。ルーファウス神羅などはセフィロスを気に入っていたからね。そういう意味ではソルジャー部門でも大変だったかな」

「ああ……なるほど……」

「でも、まぁ、結局セフィロス本人がまわりの思惑など歯牙にも掛けない男だからね。比較的早く沈静化していったよ」

(そう。セフィは気配りとかない人だったもんね、あの時代から。俺なんてさ、寮のみんなやザックスとかに気ィ使ってさァ〜)

(アホか! 気を使ってもらってたのは、おまえのほうだろうが! オレ様だって、ずいぶん……)

(あー、わかったわかったから。ヴィンセントの声が聞こえないでしょ!)

 

「ハハハ、周りで見ている分には面白かったよ。セフィロスは玄人ばかり相手にしてたから。何も知らないような子供に入れ上げている姿が……そうだね、なんといえばいいか……感慨深いというか、不可思議なような……」

「く、玄人……?」

「あー、女神にはあまり馴染みのない世界だろうけどね。ようは後腐れが無くて気楽だったんだろう」

「そ、そうなのか……」

「面倒事が起こらないからね。セフィロスはあの頃からひどく面倒くさがり屋だったよ。フフ……」

「あ、確かに……毛布を落としてもつま先で拾ったりするし…… 起き上がって手を伸ばすのが煩わしいようで……」

「あっはっはっはっ! それはいい。君はずいぶんとよく彼の面倒を見てやっているようだね、ヴィンセント」

(ははは……相変わらずズレてるなァ、ヴィンセントは)

(ヤズー、注目するべきはそこじゃないでしょ!? 聞いた? 玄人ばっか相手にしてるって。この不誠実な態度! どれほど子供だった俺が不安に思ったか……)

(黙れ、このアホチョコボが! ギャンギャン泣き喚いて手こずらせやがったくせに! クソ〜、ジェネシスのヤロウ……よけいなことばかり話しやがって)

(自業自得だろ、セフィは)

 あーだこーだとケンカを始めるふたりに溜め息を吐く。

 家を出たときの、セフィロスの様子から、かなり緊張してやってきたのだが、ふたりの姿が視界にある間は問題ないと踏んでいるのか、彼自身もだいぶリラックスしているように見えた。

 そうでなければ、招かざる闖入者の兄さんと口喧嘩をやりあったりはしないだろうから。