〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<17>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 コツン……という、軽い物音で、オレはめずらしくも目が覚めた。

 いつもなら、一旦寝入ってしまえば、この程度の些細な物音で目覚めたりはしないのに。もちろん、戦場でのミッション中ならば、五感は敏感になるが、ここはのんびりとした海辺の田舎町、コスタ・デル・ソルなのだ。

 

 コト……キィィ……

 

 ゆっくりと部屋の扉が開いた。

 

 ……誰だ? こんな夜中に。

 きっちりとカーテンを引く習性のないオレは、青白い月明かりの中、映し出された影を見た。

 ふわふわと尖った髪が、チョコボの尾のようなシルエットを作っていた。

 

「……何してやがる、クソガキ。オレ様の寝首でも掻きにきやがったのか?」

 そう、意外にもぼんやりとドアのところで突っ立っているのは、クラウドであったのだ。

「…………」

「……おい?」

「…………」

「おい、なんだ? どうした?」

 立ちつくしたまま微動だにしないヤツに苛つき、オレは声を荒げた。気の短いのは皆も承知のことだろう。

「……おい、クラウド?」

「…………」

「クラウド! しっかりせんか、寝ぼけてやがるのか!?」

 睡眠を邪魔された当てつけに、ややキツイ物言いをしてみたが、うつけたように立ちつくすヤツは、なんの反応も見せなかった。 

 さすがに様子がおかしい。

 寝ぼけているにしても、これだけ声を掛けているのに。

 それにいくらコイツがガキンチョだとはいえ、赤ん坊じゃあるまいし、夜中に寝ぼけてうろつき回るなど……

 ベッドから降り、ツカツカと小柄な影の方に向かう。

 大人になったとは言っても、オレよりはずっと低いところにある、クラウドの両肩を掴み、強く揺さぶった。

「おい、何を惚けてやがる!」

 もう一度強い口調で叱りつけたとき、それまで項垂れているばかりであった身体が、ビクッと反応した。

 

 

 

 

 

 

「……あ……あ……?」

「おい、クラウド? どうした? なにか悪いモンでも拾い食いしたんじゃねーだろうな?」

「あ……セ、セフィ……」

 顔を上げてオレを見るが、どうにも正気づいたという雰囲気ではない。目は開いているが、どこか虚ろで焦点合っていないようなのだ。

「セフィ……無事…… よか……った……」

「はァ? 何を言ってるんだ、おまえは? 貴様の部屋は廊下のあっち側だろ」

「おれ……おれ…… 心配したんだよ……? もう、二度と逢えないかもって……」

「おい? どうした……なにを……?」

「セフィ…… セフィ……ッ!!」

 マリンブルーの双眸に、ブワリと涙が盛り上がった。

 オレを呼ぶ声が、涙で掠れて聞き取れなくなる。

「セフィ…… もう……どっか行っちゃヤダ……」

「…………」

「おれも……セフィと一緒に行く…… ひとりで置いていかないで…… おれ……おれ……」

 クラウドの腕がのび、胸元にしがみついてくる。

 熱い涙が、シルクのローブに染み込み、まだら模様を作った。

「セフィ…… セフィ……ッ! よかった……」

「……おい、落ち着け」

「セフィ……! セフィ……ッ おれのこと、ちゃんと好き……? 置いていかないって約束してよ……ッ」

「クラウド! おい、しっかりしろ、目を覚ませッ!」

 しがみついてくる、腕を退かせ、オレはもう一度、彼の肩を揺すった。

 いったい何だってんだ。迷惑なアホチョコボが!

「クラウドッ!」

 オレは、クラウドの頬を、二、三発叩いた。それなりに力を込めてだ。

 眠気のいらだちと、様子のおかしなクラウドが解せず、一刻も早く正気づかせようと考えたのだ。

 ……というかまぁ、苛立ちが先立って、勝手に手が動いていたのだ。

「クラウド! このボケナスッ! アホチョコボッ!」

 

 ばっちん!!

 

 さすがに力を入れすぎたか?と、感じた一発で、クラウドがきょとんと、目を瞠った。

 そこには、先ほどまでの熱に浮かされた様子はなくなっていた。

「クラウド? 正気に返ったか?」

「…………」

 不思議そうに周囲を見回す。

 そして、もう一度、目の前のオレのツラを凝視すると、糸の切れたマリオネットのごとく、ガクンとその場に崩れ落ちたのだ。

 幸いにも抱き留めるオレの手の方が早かったから、床に頭を打つという災難は免れたようであったが。

 

「……いったい何だってんだ……?」

 ささいやいた問いかけに、誰も答えてくれる者はいなかった。

 デジタル時計の、ほの明るい文字盤が、午前三時過ぎを指していた。