〜 あの懐かしき日々 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<21>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

「おや……これは…… いらっしゃいませ」

 通い慣れたクラブに、ヤマダー医師を伴って訪れた。

 この店は静かで落ち着く。ふたりで会話するにはもってこいの場所だ。

「ああ、久しぶりだな」

 ヴィンセントそっくりのツラをした支配人の青年にそう応じると、オレたちはいつもの席に案内された。

 『いつもの』というのは、ダンスホール近くではなく、ひとりで飲むのに、最適な奥まったカウンター席だ。目の前で好みの酒を注文できるし、人目につかず有り難い。

 オレが来ると、支配人は必ずその席を奨めてくれるのであった。

 

「おんやぁ〜、チミ、ヴィンセントくんかね、コレ?」

 案の定、ボケ医者が支配人の顔を覗き込んで、間抜けたコメントをつける。

「もう酔っぱらっているのか、ボケ老人。ヴィンセントとはさっき診療所の前で別れたばかりだろ」

「そうだよねェ。あ、チミは髪の毛が短いもんねェ、コレ。親戚か何かかね?」

 じろじろと無遠慮に眺めるジジイに、支配人は苦笑を漏らした。不愉快に思ってのことではないだろう。

 だいたい彼は他人に見られることに充分慣れている。

 美術品を干渉するようなキチガイ芸術家の瞳にも、また高価な宝石を愛でるような変態成金の眼差しにも、この男はまったく臆することはないのだ。

 そのまま淡い微笑を浮かべ、速やかに席に誘導してくれた。

 このあたりの図太さはヴィンセントと好対照である。

「晩メシがまだなんだ。適当に頼む」

「はい。あの……お連れ様も、同じもので?」

 オレよりあきらかに年上のジジイに気を使い、そっと声を掛ける。

「えー、あー、そうねェ、コレ。健康によいものを出してくれたまえよ、ソレ」

「あ、はァ……」

「店の人間を困らせるな。ああ、オレと同じでいい」

 そう言って彼を下がらせる。

 最初に、軽い飲み物が来て、そいつを空けると一息ついたという気分になった。ヤマダーもそう感じたのだろう。

 やれやれとつぶやきつつ、ネクタイを緩め、楽な姿勢を取った。

 

「で、何の用かね、セピロスくん」

「セフィロスだ。ヤブ医者に訊きたいことがある」

「ほぅ、このヤブ医者にねェ」

「いちいち繰り返すな。アンタのことを一応信用して尋ねたいんだ」

 そう前置きをする。

 見た目は、不健康な無気力医者だが、明敏な人間であることはヴィンセントの一件でよく知っている。だからこそ、この男に気がかりなことを訊ねようと考えたのだ。

「あのふたりを置いてきたのも意図的だったのだろうがよ、コレ。なんだね、なんぞ聞き難いことなのかね」

「まぁな……」

 食前酒を軽く呷ると、オレは口火を切った。

 

「診療所での話なのだが……もう少し具体的に訊かせてもらいたい」

「はぁ、チョコボくんのストレッサーの話かね。そうは言われても、あれだけの情報じゃ言えることはすべて言ったと思うよ、コレ」

「ヴィンセントの前では話さなかったことがある」

「ふんふん? いやぁ〜、美味しそうだねェ、コレ!!」

「お待たせいたしました。……っと失敬、タイミングがよくなかったようですね、セフィロス」

 支配人が空気を察したのだろう。そんなふうに謝罪してきた。

 別に彼の耳に入っても、困るような話ではないが……無用に心配させるのは本意ではないので、一旦言葉を区切ったのだ。

「いやー、これ、上手いねェ。ビーンズ……あー、いわゆる豆だねェ。豆は身体にいいからね、コレ。でも、すいぶんとシャレた『でこれーしょん』が為されているネェ〜」

「あ……はぁ、お気に召したのなら幸いです。お料理は並べて参りますので、どうぞごゆっくりなさって下さい」

「ああ、用があれば呼ぶ」

 深刻な話ではないというように、軽くそう言い置き、ひとまずは心づくしの夕食を味わうことにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

「……ふぅん、なるほどねェ」

 オレの説明を聞き終えると、ヤマダーは顎をつまみながら、何やら考えている様子であった。

 誤解されぬよう言い置くが、クラウドの症状のみの説明であって、過去の経緯など、詳しいことまでは話していない。

 オレとしては一般的な解釈を聞ければそれでいいのだ。

「どうもそれはただ寝ぼけていたというだけではなさそうだねェ〜」

「そのときのアレの物言いや仕草は、ガキの頃を思い出させた。……なんというか、外見は当然変わらないのに、中身だけ子供に戻ったような、な」

「幼児退行かね?」

「いや、そこまではいかねーだろ。オレがチョコボ小僧と初めて知り合った頃……そうだな、14〜17才くらいかな。はっきりとは言いきれんが。そんな印象を受けた」

「ふぅん」

 医者のくせに気のない相づちを打つヤマダー。

 この野郎、ちゃんと聞いてやがったのか!?

「で、どうなんだ?  ヴィンセントが居たときはあまり詳しく説明はできなかったからな。あいつはひどく心配する男だから。……チョコボ小僧に何が起きてるんだ?」

 心地よさげに食後酒を飲み下すヤマダーに詰め寄った。

「むー、そうねェ。あんまし心配はないと思うんじゃがねェ……コレ」

 と前置きをしてから、ヤツはのんびりと口火を切った。

「セピロスくんは、当時、チョコボの子の側に居たって言ってたよねェ、コレ」

 ついに『チョコボの子』になってしまったクラウド。周りの連中が聞いたとしても、何を話しているかは理解できないだろう。

「ああ、ちょうどその頃だ。あれが14才くらいの時に、初めて知り合ったからな」

「ふむふむ、それから数年は見ているわけじゃね、コレ」

「そうだ」

「ん〜、これはむしろ側に居たセピロスくんに訊きたいのだがね、コレ。その当時、チョコボ子の生活で、何か大きなトラウマになるような出来事はなかったかね?コレ」

「トラウマ……」

「どうもね、チミの話を聞いているとね、コレ。あー、クラウドくんだっけ。彼はその当時の『やり直し』をしているように見えるのだよね、コレ」

「『やり直し』……?」

 オレは、医者の言葉をオウム返しにした。