Radiant Garden
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<10>
 
 ジェネシス
 

 

 

 

 数日後……

 

 俺は今、真っ昼間のストライフ邸に居る。

 

 セフィロスがひどく急かすので、俺は担当の編集者を驚かすような偉業を成し遂げた。締め切りよりも3日も前に原稿を仕上げたのだ。

 その翌日、かねてより目星を付けてあった、『空間のよじれ』をセフィロスに教えた。すでに俺はこの時点で、セフィロスと同行するのを観念していたからだ。まさかセフィロスが、家の人間に何も話していないとは思っても見なかったのだ。

 

「大丈夫だよ、女神。その場所からなら、確実にホロウバスティオンに行けるから。それに、俺も彼に同行するからね。きちんと帰ってくるよ」

 丁寧に説明する俺の隣で、セフィロスがふて腐れた表情で足を組んでいる。

「そ、それは……私はセフィロスに『行くな』などという権利はないし…… う、鬱陶しく思われたくないから……」

 ヴィンセントは、セフィロスと目線を合わせず、下を向いたまま小さくささやいた。

「セフィロス、おまえ、女神にそんな言い方をしたのか? まったく……どこまで無神経なんだ」

「コイツが勝手に、鬱陶しいだのなんだの勘違いしてるだけだろ。ああ、面倒くせェ!」

「きちんと話をしておけと言ったじゃないか。おまえの面倒くさがりは一生治らないな」

「だから言ってんだろ!? ウチの他の連中を連れ出すわけじゃなく、心の底からどーでもいい貴様と行くんだから、わざわざ心配掛ける必要はないってよ!」

 口を尖らせて言い返す。

「おまえねェ。いきなり居なくなったら、ヴィンセントがどれほど心配すると思っているの? だいたいそれだけ身の回の世話をしてもらっているんだから、きちんと挨拶をしてから出かけるのは当然だろう?」

「い、いいんだ、ジェネシス。私が勝手にしていることで…… た、ただ……」

「ただ、何だい? もしも君がどうしても行くなというなら、セフィロスを説得するけど」

「バーカ! ふざけんな! このオレ様がテメーなんぞに説得されるか! もう『ゆがみ』の場所は聞いたからな! 自力で行くぜ、フフン!」

 子どものように、小鼻を膨らませる。

「セ、セフィロス……!」

 おろおろとヴィンセントが、いきりたつセフィロスをなだめにかかった。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……ジェネシス。では彼のことをよろしく頼む。君が一緒に居てくれれば、私も安心できる」

 あきらめたように、ヴィンセントがつぶやいた。

「ごめんよ、女神。こんなことなら、セフィロスに『空間のよじれ』など教えなければ良かったよ」

「い、いや……そんなことはない! 君には何の責任もないんだ。すまない、気を遣わせてしまって……」

「あぁ、もういいだろ! 大の男が旅に出るのに、いったい誰の許可がいるってんだ! オラ、ジェネシス! イロケムシとガキどもが帰ってくる前に出かけるぞッ!」

 どこまでも無神経にセフィロスが言った。あまりの傍若無人な態度に、思わず口を開き掛けたが、彼はそのまま言葉を続けた。

「言っただろ、ヴィンセント。オレはただ出掛けるだけだ。必ずここに戻ってくる。約束は破らん」

「あ、ああ、ああ、そうだ。その通りだ…… 信じている。私は君のことが好きだ。とても大切なんだ。その君との約束ならば……信じて待っていられる」

 ヴィンセントは淡い笑みを浮かべると、頷いてみせた。

 

 瞬間……ズキン!

 と胸が痛んだ。チョコボっ子相手には感じたことがなかったのに。

 なぜか、ヴィンセントがセフィロスに向けるまなざしは、いつでも切なすぎて、こちらのほうが苦しくなってしまうのだ。

「おい、セフィロス。俺もきちんと約束とやらを聞き届けたからな。帰るときに駄々をこねるなよ」

 ヴィンセントの前で、きちんと確認する。

「わかったってんだろ! 貴様、いい加減しつこいぞ!」

「これくらい、言い聞かせておかないとね。長年の経験上だ」

 皮肉っぽくそう言ってやると、ヴィンセントがプッと吹き出した。ようやく笑顔が見られて安心する。

 

「……ジェネシス……」

 穏やかな声で名を呼ばれ、俺はあらためて女神を見た。

「ジェネシス…… 本当に……いつもいつも、気遣いをありがとう」

 そういうと、俺の利手は、ヴィンセントの両手に包まれていた。真夏のような気候の中でも、ひんやりと冷たい感触が心地よい。

「大切なのは君も同じだ。十分に気をつけてくれたまえ。決して無茶をせず……怪我などしないでくれ」

 きゅっと両手に力が込められる。

 ドッと心拍数が上がるのを自覚する。

 ああ、俺は今、無様に赤面などしていなかろうか。

「大丈夫だよ、女神」

 開いた方の手で、軽く彼を抱き寄せる。その頬に口づけると、

「俺も君に約束をするよ。必ず無事にふたりで帰ってくるから」

 そう言うと、彼はようやく安心したようにホッと吐息を付いたのであった。