Radiant Garden
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<20>
 
 レオン
 

 

 

 

 ……翌朝。

 七時前に目が覚める。取り立てて急ぎの用件はないのだが、やはり来客があると、気が張るのだ。

 となりに眠り込んだクラウドは、いっこうに目を覚ます気配もない。こういうところは、本当にうらやましくなる。

 朝食……とはいっても、かつて世話になったストライフ家での食事を思い起こせば、それなりに仕込みをしておかなければならない。まったく、セフィロスは朝っぱらから恐ろしいほどに食べるのだ。

 どうにも不思議な男で、食べなければ食べないままでも平気なようだが、食事をするならしっかりと食べるというクセがついているように見える。そのあたりはいかにも元軍人という感じがするが、それでも限度というものがあろう。

 

 手早くシャワーを済ませると、早速準備に取りかかる。

 パンに生地は昨夜、発酵させたものがあるから、それを焼けば大丈夫だ。さすがにフランスパンを三本も焼いておけば十分だろう。魚介類のサラダに、温野菜のスープ、牛肉のトマト煮込み…… そうそう、茶の用意もしておこう。クラウドやセフィロスは、茶葉などにはこだわりがなさそうだが、ジェネシスはずいぶんと上品な舌をもっているようだ。

 昨日、夕食後に淹れた紅茶を誉めていた。確かにそいつはラグナがわざわざ送ってきたもので、大統領官邸で使用されている銘品だ。俺はどちらかというとコーヒー党なので、紅茶を飲む機会は少ない。クラウドはもっぱらいちご牛乳ばかりだ。

 

「ただいま。……あれ? レオン、早いね」

 ダイニング兼の居間にひょっこりと顔を出したのは、当のジェネシスであった。

「ジェネシス? なんだ、もう起きてたのか?」

 こちらのほうこそ驚いてそう返事をする。

「うん、少し前にね。ちょっと散歩をしてきた」

「散歩……?」

「だって、この世界はとても綺麗だろう? 昨日はほとんど見る間もなかったからね。この家から、ほんの十分ほどのところに、美しい湖があるんだねぇ。まるでナルキッソスがのぞいてしまった鏡のような湖面だった。……ああ、できれば女神も連れてきてあげたかったなぁ」

「……女神?」

 どうにもこの人の詩的な表現というのは、俺のような雅を解さない人間にとって、あまりに冗長すぎる。

「ああ、失敬。女神というのは、ヴィンセントのことだよ」

 ヴィンセントのことだよ……って。まがりなりにもあの人は男性ではないか!

 そんな比喩表現で、誰をしているのかなどわかるものか。

 

 

 

 

 

 

「ねえ、レオン。君も教会行けば跪くだろう? あの聖母マリア像にさ。ヴィンセントは、そこらにある陳腐な石膏像とは違うけど、あの慈悲深い美しさや、人とは思えないような美貌…… やはり女神と呼ぶのが似つかわしいと思わないかい?」

「え……あ、まあ……」

 確かにヴィンセントさんは、類い希な容姿をしていたし、とてもやさしく温かい人だった。……だが、さすがに男性に対して、面と向かって『女神』とは呼べないと思うのだが。

「賛同者が居てよかったよ。まったく、ウチのセフィロスときたら、あんな儚げな人に向かって、泣き虫だのトロいだのと……野蛮人が……! 聞いてあきれるだろう?」

「…………」

 ……どちらかというと、俺はジェネシスの口上にあきれるばかりであった。

「おい、テメー、レオンをひっつかまえて困らせてんじゃねェ。いつまでたっても朝飯になんねーじゃねーか」

「ああ、セフィロス、おはよ」

 ちっとも驚いている様子でないのは、とっくにセフィロスが居ることに気づいていたからだろう。

「レオン、あの男のことはビョーニンだと思って放っておけ。おい、シャワー借りるぞ」

 言いたいだけ、そういってから、セフィロスはさっさとバスルームの方へ行ってしまった。

「まったく失敬な男だな。……まぁ、昔から変わらないだけだけど」

 気を悪くするでもなく、ジェネシスはそういうと、軽く腕まくりした。

「さ、手伝うよ。寝坊助の『クラウド』くんも、そろそろお目覚めだろう」

「あ、いや、客人に……」

「世話になっているのに、何もしないなんてかえって落ち着かないんだよ。俺は一人暮らしだし、そこそこは働けると思うよ」

 そういうと、あっという間に、洗いかけだった野菜を手早く処理し始めた。

 なるほど一人暮らしなだけはあって、手際がいいし、ムダな動きがない。

 ……しかし、どうにもこの人のペースに乗せられているような感じだ。俺自身が他人の気持ちに鈍感なせいか、こうして先回りして気遣いのできる人間を見ると、いかにおのれが愚鈍であるかを思い知らされるようだ……