Radiant Garden
~コスタ・デル・ソル in ストライフ一家~
<55>
 
 レオン
 

 

「初めて見る顔だな。君の目的も、あの無粋な兵器を壊すことなのかな」

「……レオンだ。当然、心を奪い取る兵器は破壊する。それからもうひとつ、おまえたちが連れ去った人を返してもらうためにきた」

 俺はそう答えた。『無粋な兵器』などというからには、必ずしもこの男は、ゼムナスのやり口に賛同していないということなのだろうか。それから、『まだ準備が出来ていない』というのは……?

 戦闘の準備がという意味ではないだろう。彼は後ろ手に、巨大な鎌を握っていた。寸でのところで、俺はあの鎌に首を刈り取られるところだったのだから。

 

「ああ……『死の大天使』ね」

 少し間を置き、マールーシャはにやりと口元を持ち上げた。

「『死の大天使』はホロウバスティオンの住民にとっても、脅威であるかと思っていたのに」

「……誤解があるな」

 突っ慳貪にそう答える。

「少なくとも、あの男はホロウバスティオンの住民ではないだろう。それにまだ、ノーバディにされたわけでもない。どうして赤の他人の君が、わざわざ助ける必要があるんだ?」

「知り合いだ。少なくとも俺にとっては大切な人だ」

「知り合い……? 命を賭けるには、ずいぶんと軽すぎる理由だな」

「マールーシャ……だったな。アンタと問答をしている時間はない。退かないのなら、力づくでも引いてもらう」

 一度下ろしたガンブレードを、ふたたび彼に突きつけた。

 邪魔をする輩はすべて倒すと決めているのだ。ここでこの男とやり合うのに躊躇はなかった。

「そうか、仕方がないな。ここで侵入者を食い止めるのが俺の仕事だからな」

「気乗りがしないのなら退いてくれないか」

「……言っただろう。今はまだ、ゼムナスに従う必要があるんだよ」

 巨大な鎌が、風を切って、前方に構えられる。

 やはり戦うしかないようだ。

 

 

 

 

 

 

「気をつけて、レオン。マールーシャは幻術を使う」

 リクが小声で耳打ちしてきた。

 なるほど、さきほどの霞といい、不思議な香りといい、アクセルのような肉弾戦タイプではないということだ。

「わかった。……時間がない。早く終えるぞ、リク」

 リクと俺は、マールーシャを挟む込むように二手に跳んだ。数で勝っているのならば、今は卑怯だのなんだのという場合ではない。ましてや幻術の使い手というのなら、動きを封じてしまうのが得策だ。

 

 間合いを調整し、銃撃する。

 マールーシャが、手を持ち上げると、巨大な鎌が首をもたげ、彼の前方で回転した。kィンキィンと高い音を立て、弾丸をはじき跳ばす。

「それなら……!」

 リクと同時に、剣を構え彼に肉迫した。銃での遠距離攻撃はあくまでも、敵との間合いを調整するためのものだ。やはり、俺は剣を操る方が向いている。

「ハッ!」

 入ったと考えた瞬間、ヤツの長身は俺の背後に移動していた。

「クッ!」

「はははッ!速いね、みごとなものだよ」

「マールーシャッ!」

 リクのキーブレードが、間一髪のところでかわされた。

「ここは華の虚空……」

 マールーシャが謳うようにささやいた。桜色の口唇が、笑みの形に引き寄せられる。

 彼の身体から、ピンク色の花弁が、渦を巻いて現われた。濃い薔薇の香りが強くなる。

「なんだ、これは……噎せ返りそうだ。息が苦し……」

 身体が花に埋められて行く。薔薇の花はあっという間に周囲を多い、足元さえも自由に動かせなくなってきた。

「花が……!」

「幻術だ、レオン!」

 遠いところから、リクの声が聞こえた。

「これが幻……? 馬鹿なこんな強い花の香り……花びらに足が取られて……」

 俺は視界を奪う花の群生に、剣を振るった。それらは、一瞬にして霧散し、ふたたび薔薇の花を形作る。

 ……こんな場所で、時間を取られている場合ではないのに……

 イライラすればなおいっそう、花の幻術に惑わされそうになるのであった。