Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<33>
 
 ヴィンセント
 

 

「……セフィロス……?」

 私は、クラウドの寝室から出てきた彼に、思わず声を掛けた。

 クラウドの怒鳴り声を耳にしたこともその理由だったし、見慣れぬ沈痛な面持ちに、心がざわめいたのだった。私はずっと王子の城に居たから、離れていた間の出来事はくわしく知らない。

 大まかなことは、ヤズーが色々と教えてくれたが、耳で聞くのと、体感するのでは雲泥の差だろう。

「ああ、ヴィンセントか。ちょうどいい、クラウドに何か持っていってやれ。……フフ、熱が引いたと思えば、すぐに空腹を訴えるか。ガキは現金なもんだな」

「わ、わかった。後で消化によいものを用意しよう」

「よろしく頼む。……じゃあな」

 私と目線すら合わせずに、宛がわれた私室に戻ろうとするセフィロス。消沈したその後ろ姿に、ふたたび声を掛けた。

「あ、あの……ッ!」

 変に大声になってしまったせいか、セフィロスは不審げな面持ちで、私を振り返った。

「あ、あの……」

「なんだ?」

 苛立ちを抑えた声音で聞き返され、後悔しかけるが、気を取り直して言葉を続ける。

「そ、その……君もすごく疲れているように見える。城から脱出するときにも感じていたのだ。なんとなく、いつもと違うな……と」

「…………」

 私の問いかけに、セフィロスは黙り込んでしまった。やはりよけいなことを言ったのかもしれない。クラウドや、カダージュらはともかく、セフィロス相手に子供の具合を心配するような口出しは、かえって不快に感じられたのかもしれない。

「あ……その、よ、よけいなことを訊ねて、すまない。つ、つい、心配で……気になってしまって」

「……相変わらず、おまえは他人事には無駄にするどいな」

「せ、詮索するつもりはないのだ。ただ、もし何か気がかりがあるのなら……」

 私がそこまで食い下がると、セフィロスはあきらめたようなため息を吐いた。

「……ここじゃ、クラウドに聴かれる。こっちへ」

 そう言って踵を返した彼の後を、私は小走りで追った。

 

 

 

 

 

 

 広間へ移動した我々だったが、そこには、幸い誰もいなかった。

 疲れた様子で長椅子に腰を下ろしたセフィロスに、私は急いで茶を賄った。

「……ヤズーに、城での話は聞いているのだが……」

 そう切り出した私の言葉に、セフィロスは覆い被せるように言った。

「クラウドを危険な目に遭わせた。……すまなかったな」

「え…… いや、そんな……」

 きっとそれは、クラウドと特別な関係にあると私への謝罪だったのだろう。

「君が謝ることではない。結果的には白雪姫も、君たちも無事に帰ってきてくれたのだから……」

「あの王子の助力があってのことだ」

 ふたたび遮り、彼は断定的に言い放った。

「……オレはいつから、こんなに衰えたのだろう」

「え……? な、なにを……」

「指揮能力、洞察力、注意力……そして戦闘能力……! 少なくとも数年前は、軍人として最高峰に在ったはずなのに……」

「セフィロス……」

 何の冗談だと聞き返したかったが、沈痛な面持ちで己の手を眺めている彼に、そんな軽口はたたけそうになかった。

「……おまえはそう感じないのか? 今回のことだけじゃない。これまで嫌と言うほど、面倒な出来事に巻き込まれてきたではないか。そのつど、誰よりも間近に、オレの戦闘を見てきただろう」

 ……確かに。

 確かに、セフィロス自身が望んだことは一度もないが、彼が剣を振るう機会は数多かった。

 ネロやヴァイス……DGソルジャーとの一件も、ミッドガルでの攻防戦でも、彼は存分にその力でもって立ち向かってくれた。

「……巻き込んだのは、私の方だ」

 低くそう言い返した。セフィロスは黙したまま、目を伏せている。

「でも……そのどんなときでも、君は強かった」

「…………」

「いつでも私やクラウドを庇ってくれて……他の誰よりも……ずっと強かったではないか」

「……おい、泣くな。どうしておまえはオレといると、そうして泣いてばかり居るんだ」

「……君が真顔でおかしな事を言い出すからだ……! 君の能力は衰えてなんかいない。セフィロスはいつでも……強くて賢くて…… 私は……君のことが……」

「……やれやれ、べそべそ泣くな。おまえが落ち込むと、クラウドやら、あのジェネシス王子が大騒ぎしやがる」

「セフィロス……!」

 立ち上がった彼の腕を、私は夢中でひっつかんだ。しなやかな筋肉の感触が、手の平ごしに伝わってくる。

「……つまらんことを言ったな。忘れてくれ」

 乱暴な力でなく、彼はそっと私の指を外した。

「これまでの流れでいくと、無事あの女を王子に引き渡せたのだから、元の世界に戻るのも、時間の問題だろう」

「……? あ、ああ、たぶん……」

「思いの外、世話になったよな。……ジェネシス似のツラは気に入らねぇが、筋だけは通しておくか」

 独り言のように、そうつぶやくと、セフィロスはさっさと部屋を出て行ってしまった。さきほどの話など、最初からなかったような雰囲気で。

 私は、音もなく無情に閉じ合わされる扉を、微動だにせず、じっと眺めていた。