Snow White
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<最終回>
 
 ヴィンセント
 

 


 
 

 ……セント

 ……ヴィンセント……!

 

 足元を漂う白い霧が晴れると、私は円筒状の建物の中に立っていた。

 ここも辺り一面真っ白で、平衡感覚を失いそうな感じがした。

 

 ……セント

 ……ヴィンセント……!

 

 擦れて響く小さな呼び声。

 それに応えようと口を開いたとき、私の意識は強引に引き戻された。

 

「ヴィンセント! 大丈夫?」

 心配そうな顔が覗いている。すでに見慣れた人たちの顔……ヤズーとクラウドだ。

「あ…… ふ、ふたりとも……」

「あぁ、よかった。他のみんなは普通に目覚めたのに、ヴィンセントだけ魘されてたからさぁ。心配しちゃった」

 ヤズーの言葉を聞きながら、私は身体を起こそうとした。クラウドがすぐさま手を貸してくれる。

「こ、ここは……?」

「やだなぁ、まだ寝ぼけてるの? コスタ・デル・ソルの俺たちの家だよ。ちゃんと帰ってこれたんだ」

 そう答えたのはクラウドだった。

「コスタ・デル・ソル……。あ、そ、そうだ。体調は大丈夫なのか、クラウド?」

 ハッと気づいて、私は慌てて訊ねた。王子との余韻は、無理やり胸の奥に押し込める。

「うん、もう微熱程度。ヤズーが大事をとれってうるさくてさ〜。午後から配達行こうと思ってたのに、カダとロッズに頼むことになっちゃった」

「いや、ヤズーのいうとおりだ。今はまだ本調子ではないのだから」

 ほんのりと赤みの差したクラウドの頬を両手で包む。彼はちょっと困った顔をしたが、おとなしくしていてくれた。

「よかった……それでも大分よくなったようだな、クラウド」

「だから言ったじゃん。それより、ヴィンセントのほうが心配だよ。なかなか目、覚まさないし、苦しそうだったから……」

「あ……いや……」

 意識を手放す寸前……私の脳裏に最後まで居続けた人……ジェネシスそっくりの彼のことを思い描いたが、口にするのははばかられた。

 未だ、幼いところのあるクラウドは、王子の態度を曲解するかもしれないし、ただでさえ体調の悪い彼に、そんな話をする必要はないと思われたからだ。

 

 

 

 

 

 

「なんかさァ、今回も大変だったよねェ」

 ヤズーがため息混じりに苦笑しつつ、そうつぶやいた。

 いかにも、『大変だった』という思いをした者たちが、一同にここに介しているというように。

「え……あ、い、いや、私は何の役にも立っていないから。クラウドやヤズーのほうがずっとつらい思いをしただろう」

「え〜、でも、ヴィンセントだって、緊張を強いられたでしょ? たったひとりで王子の側に居たんだから」

「そんなことは……彼はとてもよい人だったし」

「ジェネシスそっくりの王子様なんて、こっちの心臓が悪いっての!」

 するどくそう言ったのはクラウドだった。ジェネシスという人物への偏見が、外見のそっくりな王子に向けられているだけなのだと思うのだが。

 だが、この話はもういいだろう。クラウドの機嫌は悪くなるばかりだろうし、あまり彼を興奮させたくはなかった。

 最後に王子と交わした言葉の余韻を胸の内に、今もっとも気になっていることを改めて口にした。

「……ヤズー……その、セフィロスは?」

「ああ、いるよ。ソファで寝っ転がってるんじゃない? 呼んでこようか?」

「あ、いや、そういうことではなくて……」

 急いで言葉を返し、私はわずかに逡巡した。いつもなら彼を気に掛ける素振りをすると、すぐに怒り出すクラウドだが今は表情を曇らせている。

「ヴィンセントも、セフィのこと気になってるんだ……」

「あ、ああ……その、いささか彼の言動に、引っかかることがあって」

「俺、つい怒鳴っちゃったんだよね。……だって、不安になるようなこと言うんだもん」

 私に咎められると思ったのか、クラウドは慌てて言葉を付け足した。

「彼はとても強いし優秀な人だから……おまえを危険にさらしたのがかなりショックだったようだ」

 ポツポツと独り言のようにつぶやいていた様を思い出し、私はクラウドにそう告げた。

「え〜、でもさぁ、それってシツレーだよね。俺だって成長しているんだからさ〜。たまには俺がセフィのピンチを救ったっていいじゃん」

「あっははは、可愛がっている兄さんに、そんなふうにいわれちゃうと、セフィロスには寂しく感じるのかもね」

「なんだよ、いつまでもガキ扱いすんな!」

 ぶぅと頬を膨らませるクラウドを、ヤズーが上手く宥めて言葉を続けた。

「ま、暫くの間は引っ張るかもしれないけど、セフィロスのことは、俺もそれとなく気を付けておくよ。だいたいあの人、プライドが高すぎるんだよね。あんな状況なのにも関わらず助けに来てくれたってことで、俺だったらむしろ人徳人徳って鼻高々なんだけどね」

「ヤズーは図太すぎるんだよ」

「俺は顔と性格だけが取り柄だそうだからね」

 フフンと鼻で笑ってヤズーが言い返した。

 

 ああ、懐かしの我が家。

 あの不思議な世界では十日近くの時間が経っていたはずなのに、こちらの世界では一晩の夢……シンデレラのときと同じだ。

 クラウドの容態も心配ないようだし、まずは一安心といったところだろう。

 セフィロスのことは多分に気になるところだが、無事にこちらに戻ってこられたことを慶ぼうと思う。

 

 ハプニングの連続ではあったが、こうして、私たちの二度目の旅は、静かに幕を閉じたのだ。

 

 今、思い返せば、このときはまだ、セフィロスの自己不信について軽く考えていた。

 

 ……だが、それはまた後日の話である。