Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<14>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 

 ちょうどよいタイミングだった。

 新しいダンス曲が流れてきたところだ。

 

 ……変わった趣向だ……こういった場所でも社交ダンスを踊るのだろうか。

 彼女が少し困ったような表情をする。

 なるほど、ムーディーな音楽とは異なり、ソシアルはある程度、ステップを知っていないと踊れない。おそらく私に気を使ってくれているのだろう。

 

 ……曲は『五つの銅貨』。

 フォックストロットの代表的な曲目だ。

 

 ……スロー・フォックストロット……

 「イングリッシュスタイル・ダンス」とも言われる。

 

 フォックストロットのムーブメントは、流れるような前後の動きが特徴的だ。

 ワルツと同じスイング系統のダンスだが、たとえば華やかな動きが中心のウインナーワルツなどに比べて、比較的踊りやすいと感じる。

 

 メロディが流れ出し、私たちはステップを踏みつつホールに躍り出た。

 

 彼女が私を見つめる。 

「……すごい……上手じゃないですか……」

「いや……そんなことは……」

「ごめんなさい、無理やりお誘いしてしまって……」

「あ……いや……」

 しょげたように彼女が言う。こういうとき、上手い言葉が思いつかない自分に舌打ちしたくなる。

 

「あまりしゃべらない方なんですね……」

「……私は……話が上手くないから……」

「そんなこと……でも、お名前だけ教えてもらってもいいでしょうか?」

「……ヴィンセント……という」

 私は答えた。彼女はとてもチャーミングに微笑んでくれた。

  

 彼女の華奢な手足……細い肩……しなやかな髪……

 

 ああ、女性という生き物は、生まれながらにして、庇護されるべきパーツを備えているのだ。

やわらかな桜色の頬……つぶらな瞳……そして鮮やかに紅を引いた小さな口唇……

 

 曲が終わる。

 手を解き、席に戻るとき、少し淋しそうな笑みを浮かべた彼女に、「ありがとう」と言った。

 小柄なレディは、驚いたようにアーモンド型の双眸を瞠ると、やわらかな笑顔で応えてくれた。

 

 私は微かな眩暈を覚えつつ、席に戻った。

 すると、待ってましたと言わんばかりに、クラウドとカダージュが飛びついてくる。

「ちょっ……ヴィンセント、スゴイじゃん! アンタ、社交ダンスなんて踊れたんだッ! いや、もう、俺、シットすんの忘れて見入っちゃったよッ!」

 率直なのはクラウドだ。

「え……あ……いや……」

「うんうん、僕もびっくりしちゃった。ヴィンセント、背、高いし、綺麗だし、すっごく目立ってたよ! それに、僕、あんまり踊ったりとかって好きじゃないと思ってたから……驚いちゃった……」

 と、カダージュ。

 いや、踊るのはそれほど好きなわけではないのだが。

「その……踊り方を知っているだけで、得意ではない……彼女に……恥をかかせるわけにはいかなかったから……」

「十分上手かったよ……ヴィンセント、女の人にやさしいもんなァ……」

 しみじみとつぶやくクラウド。その言葉だけ耳にしたら、何も知らない人に誤解されそうだ。

「そ、そんなことは……」

「ヴィンセントは、みんなにやさしいよ、僕にもやさしいもん」

「俺にだけやさしきゃそれでいーんだよ」

 子どものように、クラウドはカダージュに言い返すのだった。