Summer storm
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<23>
 
 セフィロス
 

 

 

 

 

 

 

 

 ホールに降りてゆく、ヴィンセントの後ろ姿を見やり、

「フフン、なかなかサマになっているようではないか。案外、ひとり身になってもホストで食っていけそうだな」

 と、オレは笑った。
 

「バカ言うなよ、セフィ! ヴィンセントをひとりにするわけないだろ。俺がずっと一緒に居るんだからな!」

 喰ってかかるクラウド。

「フフフ、そんなことわかるものか。おまえが明日、バイク事故でご臨終ということだって無きにしもあらずだろ」

「縁起の悪いこと言うなーッ!」

 シャーッとばかりに牙を剥くクラウド。

 ガキをからかうのは退屈しない。

 

「まぁ、だが心配するな。おまえ亡き後、アイツの面倒はオレ様が見てやる」

「セフィ!」

「側近くに飼って、大切に可愛がってやるさ。フフフ」

 あながち冗談でもなく、オレはそう請け負ってやった。

 

「飼っ…… この〜〜ッ! もう、怒ったぞ! 勝負だ、セフィロス! 今日こそ決着をつけてやるッ!」

「騒ぐな、クソガキ。ああ、そうか、悪かった悪かった。おまえのことも気に入ってる。望むなら、ヴィンセントと同じ檻に繋いでやろうか? クックックッ……」

「コノヤロー!」

 ガターンと椅子を蹴り飛ばす、クラウド。

 まったく激昂しやすいガキだ。

「ああ、もう、そこまでそこまで。ケンカは暇なとき、ウチでやってちょうだい。ほら、ふたりとも行くよ」

 パンパンと手を打ってヤズーが促した。

 こいつも手慣れたもので、いちいちオレたちの争いを諫めない。気の済むまでやらせて、面倒事になりそうだったら口を挟むというカンジだ。

 すぐに心配して、オドオドと止めに入るヴィンセントとは正反対だ。

 

「よし、行くぞ」

 オレたちは立ち上がった。

 未だに心許なげなクラウド。飄々としてつかみ所のないヤズー。そして面白がっているオレ。

 三人三様のオレたちは、連れだってフロアに降りた。

 

 

 アプリコットを溶かしたようなダウンライト……華のような女たち、その間を蝶……華よりも美しい男たちが泳いでいるのが、このクラブだ。

 だが、中でも今日のダントツは、アイツだろう。

 

 深紅をさらに深く沈めたダークレッドの上下、くせのある艶やかな黒髪……

 立ち姿だけでも、すでに水際立っている。

 

「特別席は、あそこ、すぐそこね」

 ヤズーがそっと指さした。

 控え室とはいっても、何部屋かあって、頻繁にスタッフの出入りする大部屋もあるようだ。ヤズーがオレたちを押し込めたのは、さきほどの待合いと変わらぬ広さの一室であった。

 部屋のしつらえから、おそらく支配人クラスの人間が使うものなのだろう。中は整然としていて、応接から衣装ダンス、鏡台に、ミニキッチンまでついていた。

 面白いのは隠し窓があることだ。そこを開けるとフロア全体が見渡せる。例の特別席などほとんど目の前といえる近さで、耳をすませば会話さえも聞き取れそうな距離なのだ。

 

「そろそろ21時だな」

 オレは隠し窓から、ホールを覗いてつぶやいた。もちろん、オレのすぐとなりにはクラウドがひっついて、食い入るように様子をうかがっている。

「ゴクリ」と喉を鳴らすクラウド。

 

 かくして、くだんの『特別席』に『賓客』がやってきた。予定通りの21:00だ。

 

 ……彼らの姿を目にしたとき、さすがのオレも固まった。

 

「ちょっ……ウソ……」

 クラウドのガキもこぼれ落ちそうなほど、大きな目を見開いている。

「うそだろ……セフィ……」

「…………」

 

『ルーファウス……神羅』

 予想だにしていない相手だった。

 

 ヴィンセントは、教えられたとおりなめらかな所作で挨拶をしていたが、顔面蒼白だ。無理もない。

 

 ルーファウスと、タークスの……名はなんといったか。ハゲと赤毛だ。それに……あいつは覚えている。もと都市計画部門の責任者、リーブ……それと、もうひとり、なんとなく場違いな男がいる。そいつのことは覚えていない。

 

 オレとクラウドは、くつろいだ様子のヤズーに、「どうしたの?」などと声を掛けらたが、返答をする間も惜しかった。

 

 幸か不幸か、ルーファウスたちはヴィンセントに気付いていないようであった。やつらとはあまり接点がなかったせいだろう。クラウドらと違って、ヴィンセントはほとんど表に出てこなかったし、言葉を交わす機会も少なかったのかもしれない。

 

「大丈夫だ。……連中、ヴィンセントには気付いていない」

 オレはホールを見つめたまま、となりのクラウドに声をかけた。

 ガキは相変わらす硬直したままだ。

「……うそ……なんでだよ……ちょっ……コレ……まずい……まずいよ、セフィ」

「取り乱すな。ルーファウスたちは、ほとんどヴィンセントと面識がないのだろう。書類ベースで知っていたとしても、あの姿からは想像もつくまい」

「ちがう……違うんだよ〜……気付いてる……気付いてるよ……ヴィンセント、真っ青……」

 震える声でクラウドがつぶやく。

 不審に思い、もう一度、目をこらしてヴィンセントの様子を観察する。

 

 今にも泣き出しそうな引きつった笑みを浮かべ、なにやら必死にアイコンタクトをとっているのは、さきほどの柄の悪そうな場違い男に対してであった。

「……? なんだ、誰だ、アイツは……」

「……」

「神羅のヤツか? オレは見たことがないが……」

「違うよ〜……仲間だよ……」

「なに?」

「俺たちの仲間だよ……シド……飛空艇のキャプテン……それに……リーブは、神羅を離れてからも、ずっとヴィンセントと付き合いがあるし……」

「……仲間?」

「そうだよ〜……ああ〜、ヴィンセント、どうすんだよ……」

 

「…………ブッ」

 オレは堪えきれず吹き出した。

 可笑しくて猛烈に腹が痛くなってくる。

 

「ぶっ……ぶっ……ぶはははははーッ! じゃ、じゃあ、何か? 神羅の連中はともかく、あとのふたりは、ヤツの馴染み……?」

「……そうだよ……ずっと一緒に旅してた連中だよ……」

「アーッハッハッハッ! 笑わせてくれるな、まったく! なんてツイてない男なんだ、アイツは、可哀想に!!」

「……笑い事じゃないよ……」

「ハ……ハハハハ! そりゃ、驚くわな! 仲間だった無口のガンマンが、コスタデルソルでホストになっていた日には!」

「ああ〜……ヴィンセント……どーすんだよ……もう、ちょっと……オレ、見てらんないよ……」

 クラウドがたまらないといった様子で、口の中でつぶやく。

 その『シド』とかいう野郎は、気付いているんだろう。激しく問いつめるようすはないが、何か言いたげな表情でやりとりをしている。

 リーブのほうも無遠慮に、じろじろとヴィンセントを眺めている。

 

「あれ、もうメチャクチャ気付いてるよ……確信持ってる顔だよ、ふたりとも……」

「フフフ、あいつはどうするつもりだろうな」

 無責任に言い放つオレ。実際、楽しんでいる。

「ホント……どうするんだよ〜……ヴィンセント……」

「ねぇ、ちょっと兄さんたち。さっきから何なのさ? 特別席のお客さんって誰だったの?」

「おまえも見てみろ」

 オレはヤズーに声を掛けた。

「ん〜、ちょっと動きにくいんだけどねェ……」

 文句を言いながらも、隠し窓まで、なんとかやってくるヤズー。

 

「……な?」

「……あらあら〜……見た顔だねェ」

「フフフ……」

「おやおや、赤毛くんもいる。あいさつにも行けないなんて残念だなァ」

 笑みを堪えつつ、ヤズーがささやいた。

「フン、どうやらそれだけじゃないらしい」

「なに? セフィロス」

「ヒゲ顔と柄の悪いタバコ男は、こいつらの仲間だ」

「……な、仲間?」

 さすがに驚いたのだろう。ヤズーは同じ言葉で聞き返した。

「そう、一緒に旅して、同じ釜のメシを食った仲とでも言えばわかりやすいか」

「……本当なの、兄さん」

「……ホントだよ、おまえ覚えてないか? あのタバコ吸ってるほう……ミッドガルにいただろ」

「直接戦ったわけじゃないからなァ。赤毛くんとスキンヘッドはよく覚えてるけど」

「あ、ヴィンセントが戻ってくるッ!」

 クラウドが小声で叫んだ。

   

 ヴィンセントはなんとか指示通り、オーダーを取ると足早に裏方へ戻ってきた。

 オレたちも戸口のほうへ移動する。

 
 オーダーの品をウエイターが整えてくれる間だけが、猶予の時間であった。