Summer Vacation 
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<6>
 
 ヤズー
 

 

 

 

 

 

「……なんだ、貴様は」

 開口一番これである。

 一応、自らが導き出した思念体に対して、それはないんじゃなかろうか。

 

「いやだなぁ、忘れちゃったの? あなたの思念体だよ」

「…………」

「もうちょっと友好的にしてくれてもいいんじゃない? 息子みたいなモンでしょ?」

「軽口を叩くな、貴様のようなクソでかい息子がいてたまるか」

 ケッと吐き捨てるように言うセフィロス。

「じゃあ、弟でもいいよ。もちろん、兄さんも含めてね」

「貴様、名は?」

「俺はヤズー。身体の大きなのがロッズ、今日、あなたとケンカしたのがカダージュ」

「ふざけるな。私があんなガキとケンカなんかするか。あのチビが一方的につっかかってきただけだろう。思念体の分際で不愉快な」

「セ、セフィロス……」

 おろおろとヴィンセントが困惑している。

 

「ああ、まぁ、カダは幼いんでね、あなたに会って激昂しちゃったんだと思うよ。もうちょっと可愛がってあげてよ」

「フン、従順なガキなら可愛がりようもあるのだがな」

「機嫌がいい時のカダは素直だよ」

「なぜこの私が、ガキの機嫌をとらねばならん、バカバカしい」

「……で、兄さんのどこが好きだったの?」

 話の流れを無視して、俺は直球を投げてみた。

「ヤ、ヤズー……」

 ヴィンセントが泣き出しそうな顔をする。

「……なぜ、貴様がそんなことを訊く。そっちの男が言うならまだわかるがな」

「興味があるからだよ。たった今、『ガキ』はキライ、みたいなこと言ったじゃない。悪いけど、兄さんはカダージュと同じくらい子どもっぽい人だと思うよ」

「……それは否定せん」

 妙に神妙なセフィロスの物言いに、俺はつい吹きだしてしまった。笑われることなどめったにないのだろう。元・トップソルジャーは、きつい光を帯びた双眸で、ギロリと俺を睨み付けた。

 

「す、すまない、セフィロス……」

 なぜかオドオドと謝罪するヴィンセント。

「なぜ、おまえが謝る」

 案の定、セフィロスもそう言う。

「い、いや、その、クラウドが子どもっぽくて……だが、彼はとても頼りになるし、強くなったのだろうし……気持ちのやさしい人間なんだ。セフィロスがクラウドを好きになったのも、私にはよく理解できると……」

「プッ……アハハハハハッ! ああ、ゴメッ……も、ホント、ヴィンセント、天然だ〜」

「……バカか、おまえは……よけいなことを言うな」

 こらえきれずに吹き出す俺。げっそりとした表情でそうつぶやく英雄。

 

「あ〜あ、兄さん、うらやましいなぁ」

 波打ち際を歩きながら、俺は言った。

「何がだ」

 憮然とした表情で聞き返すセフィロス。到底、仲良くといった風ではないが、とりあえず会話が成り立っている。

「だって、そうでしょ。子どもの頃は、英雄って呼ばれたあなたに守られて、今はヴィンセントみたいな人が側に居てくれて……ちょっとないよね、こんなラッキー」

「フン、ラッキーね」

「そ、その、セフィロスはともかく……私はクラウドに迷惑ばかりかけているし……そんなふうに言われるには値しないと……」

「ヴィンセントは本当にご謙遜だよねぇ。自分を知らないと言うか何というか……」

「おい、貴様はもっとシャンとしろ。ちゃんとメシを食って、強くなれ」

「……あ、ああ」

「……それから自分にもっと自信を持て」

 最後にそう付け加えたセフィロスの声に、さきほどまでとは異なる真剣味と重みがあった。なにげなく彼の方を見る。すると何故かまたもや俺と目が合ってしまい、今度も先にそらせたのはセフィロスのほうであった。

 俺は少しばかり嬉しくなった。

 

「ねぇ、セフィロスはいつもこの時間、散歩に出るの?」

「……まぁな」

 ぶっきらぼうだが、返事をしてくれる。

「ヴィンセント連れて?」

「そういう気分のときにはな」

「……ここはいいところだよね、ヴィンセント」

「え? あ、ああ……少しばかり暑いが……」

 急に名を呼ばれて驚いたのか、彼はぼそぼそとこたえた。

「夜10時を過ぎるとデリバリーが無くなるがな」

 不機嫌にセフィロスが付け加えた。

「へぇ、まぁ、基本的に静かな町だもんね。海風、気持ちいいなぁ。この時間になると案外涼しいんだね」

 

「おい、貴様」

 セフィロスが俺に呼びかけた。

「ヤズーだってば」

「何でもいい。……あの三人の中で、貴様が一番、頭が回りそうだ。後のふたりに私を怒らせるなとよく言っておけ」

「はいはい、わかりました」

 俺はにっこりと微笑んでそうこたえた。

 

「……ックッシュン」

 小さなクシャミをするヴィンセント。

「あ、寒い? ヴィンセント。これ、ジャケット着て」

「いや……大丈夫……ックャン」

「ほらほら」

 俺はそう言うと、半袖の上に引っかけてきた麻のジャケットを脱いで、ヴィンセントに着せ掛けた。

「あ、でも……」

「いいからいいから」

「す、すまない」

「……まったく、軟弱者が。だいぶ歩いてしまったな、そろそろ戻るか」

 セフィロスがため息混じりにそう言った。

「そうだね。兄さん、風呂から出てきて大騒ぎしてるんじゃないの?」

「……チッ、面倒だな。行くぞ、ヴィンセント」

「あ、ああ……」

 三人でもと来た道を引き返す。そのまま戻るのも芸がないようだが、やはりどうせ歩くなら、波打ち際の砂浜のほうが気分がいいからだ。

 だが、少しも行かないうちに、俺の背後でかすれた悲鳴が上がる。

 

「……あッ!」

 その後に続く、ドサッという、荷物が落ちるような音。

「ちょっ……ヴィンセント?」

「……おい、どうして何もない場所で転ぶんだ」

 心の底からうんざりとした声でつぶやく英雄。ここで爆笑しなかった俺はエライと思う。

「だいじょうぶ? ほら、つかまって」

「あ、ああ、すまない。よろけてしまって……」

「おまえはボケ老人か!」

「セフィロス、あなた、綺麗なくせに、言葉悪いなぁ」

 そういいながら、ヴィンセントの腕を取る。掴んだ二の腕が、本当に細くて驚愕を隠せない。

「あ……大丈夫だ……ひとりで……痛ッ……」

「ヴィンセント、どうしたの? どこか怪我した?」

「……いや、なんともない……」

「足首だろ」

 すでに脱力した口調でセフィロスが指摘する。

「……え? い、いや、少し痛いだけで、もうなんとも……」

「バカ者が。足を引きずりながら、何ともないなどと言うな」

「……あ……その……でも……」

「本当に貴様は手間を掛けさせてくれるな!」

「もう、怒っても仕方ないでしょ。ヴィンセント、肩貸すから掴まって」

「あ、いや……」

「まどろっこしい。おい、早くおぶされ」

 セフィロスが背を向けてしゃがむ。長い銀の髪が、白い砂浜にさらさらと落ちる。

「……え、あ……でも……」

「そうだね、おんぶしてもらいなよ。腫れるとやっかいだよ」

 俺はそう言った。それでもぐずぐず戸惑うヴィンセント。冗談抜きで処女を相手にしているような気分になる。

 

「おい、ヤズー、そいつを乗せろ」

「はいはい。ほら、ヴィンセント」

 トンと軽く肩を押すと、ヴィンセントはコトンとセフィロスの背中に倒れ込んだ。

「……あ、セ、セフィロス……」

 ヴィンセントが何か言う前に、ザッと勢いよく立ち上がるセフィロス。おかしな例えだが、頭をもたげたティラノサウルスのような印象だ。

「その……重いのに……すまない……」

 泣き出しそうな表情で、謝罪するヴィンセントは可愛い。たしかに、嗜虐心をそそるキャラクターと言えるのかもしれない。

「重い? どこかだ。貴様は本当に骨と皮ばかりだな。クラウドも物好きなことだ」

「……すまない」

「ちょっと、ヴィンセント、そこは謝るところじゃないでしょ。セフィロスもご飯作ってもらってるのに、ひどいコト言わないの。俺は好きだよ、ヴィンセント。綺麗で、やさしくて、大人しくて、ね。兄さん、あきらめてくれないかなぁ」

「さてな、交渉してみたらどうだ。おい、さっさと行くぞ。ガキどもがうるさい」

 それだけいうと、セフィロスはざくざく歩き出した。歩幅が大きいので小走りに追いかける。

 確かに、けっこう長い時間が経ってしまったようだ。

 

 俺は道々、兄さんとカダージュへのいいわけを考えていた。

 どうせ、英雄はまともにフォローしてはくれなかろうから。